2-6 ニートにでもできること

 で、結局にこたまブルームってどうなったの? 死んだ?

 もう一ヶ月くらい動画が投稿してないよな。


 ホライゾン、ヤバくね? 最近ハコ全体で動画投稿少なくない?


 ディレクター倒れたらしいし、労基でも入ったんじゃない?


 【悲報】ホライゾン、白鳥の出資を溶かす。


 大森クヌギちゃんが引退しなければどうでもいい。


 ホムラに続いてブルームも引退したらさびしいなあ。


 声だいぶ幼かったし、中身学生だったんじゃない?


 ↑前から言われてる、大人にはあの声出せない。


 それをやっちゃうのが声優なんだよなあ、中身はきっと四十台のオバチャン。


 ↑黙れ。




 ブルームの更新停止によるざわつきは、一周まわって無興味に移りつつある。

 チャンネル登録もいくらか解除されてしまった。


 ブルームの人気はキャラクターだけでなく、投稿頻度が多いことにもあった。


 三厨さんが手がける企画やコント、紗々による歌ってみた、そしてブルーム本人によるフリートーク。いずれかが一週間に三本は投稿されていた。


 けれどいまは一切の更新が止まっている。


 ブルームより更新頻度の高いライバーだっているし、それでなくともスマホで簡単に娯楽が手に入る世の中だ。うかうかしてるとブルームのことなんてすぐに忘れ去られてしまう。


 そもそも紗々の後任が就いてしまえば、もうブルームはいままでのブルームではなくなってしまう。だが消滅の危機にあるブルーム本人は飄々としている。


「カズがこれからもママをひとりにしないなら、ボクはそれで充分安心できるよ」

 と、ズレた応えを返す。


「それに新しい人だってさ、上手くブルームを続けてくれるかもしれないよ?」

「俺たちはそんなのどうでもいいんだよ、お前に消えて欲しくないからやってるんだ。そういうモチベーション下がること言うな」


「……ごめん」

「お前だって紗々の側にずっといたいだろ?」


「そうだけど、期待しててダメだったら……怖いし」

 と、言って引っ込んでしまった。


 どうやらブルームは上げて落とされるのを恐れているらしい。


 だが、そう言われてしまってはなにも言えない。

 まだブルームを安心させられるようなものは、なにも用意できていないのだから。


 もう少し本気でやらないと。

 三厨さんにはできない、俺だけができる方法――


「というわけでブルームと仲良くして欲しいんだ、この通りっ!」

「うーん、あたちにそんなこと言われてもね。三次のケンカはあたちにわからないし」


「お前は演者とパートナーだったりしないか!?」

「キャハ、なに二次に頭下げてんのウケる。あ、ちなみにウチはフリーでぇす」


「お前は一期生だろ? ずっと一緒にいるなら小清水のスキャンダルとか知らないか?」

「ググれカス」



 片っ端からホライゾンのブイチューバーに話を聞いて回っていた。

 だが、収穫はゼロ。


 もし演者とパートナーのブイチューバーがいれば、演者同士の裏事情を知ることができたかもしれない。だがそんな都合よくはいかなかった。


 スマホを充電器に差し込み、その場に寝転がる。

 背中には硬いフローリングの感触。


 ……昨日、背中合わせに過ごした紗々のことを思い出す。


 今日も紗々はヒトカラに出かけている。

 もちろんブルームに戻った時、声が出ないなんてことが起きないためだ。 


 自分の私生活はだいぶ手抜きがちなところがあるが、声優に対する仕事姿勢は立派なもんだ。


 そもそも幼く見えるのは外見や言動だけで、俺と年は変わらない。

 むしろ地続きした記憶を持っている以上、俺より人生経験は豊富なんだ。


『わたし、どこにも行きませんからね』

 昨日、言われた言葉が胸をくすぐる。


 別に寂しいなんて言った覚えはないけど。

 その言葉を思い出す度に、体は痒くなり、風邪を引いたように頭がぼうっとする。


 ……一息ついて現実に戻る。

 いつまでも浸っていられない。


 紗々のために俺がやれることを探さないと。

 改めてスマホを手に取り、SNSを流し見しているとひとつの記事が目についた。


 ――引退したブイチューバーの一覧。

 なにげなく記事をクリックし、内容に目を通す。


 そして一番上に出た名前を見て……大きな見落としをしていたことに気が付いた。

 俺が先ほど顔を合わせていたのは、ホライゾンに所属する現役ライバーの一覧だ。


 だからその名前は目にするはずがない。

 そのライバーは既に引退しているんだから。


 検索画面に遷移し、その名前を打ち込んで彼女のチャンネルに移動する。

 名前は夕日丘ゆうひがおかホムラ。


 ホライゾンとの軋轢を生む原因になった、因縁ともいえるブイチューバーだ。

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