2章 転生、にこたまブルーム

2-0 謎のクレーン少女

「あ、神だ! お~い、神~!」

 電気街通りに掲げられた巨大看板に声をかけられる。


「……なんだよ、神はお前だろ?」

「いやいやっ! アタシなんか夢見さんに比べたら、まだまだパンピーだよぅ」


「その言葉、是非ともブルームに聞かせてやりたいな」


 巨大看板に映るのはブイチューバー界の首領ドンあまがわサクラだ。

 有志ブイチューバーランキング堂々の第一位……もとい世界初のバーチャルマイチューバーだ。彼女なくしてブイチューバーを語ることはできない。


「めずらしいね、日中に外を出歩くなんて!」

「引きこもりで悪かったな、最近はいろいろ環境が変わったんでね」


「あ、知ってるよ! 最近ブルームちゃんと仲良いんだってね?」

「そう。演者が復帰できるようにその手伝いをしてる」


 サクラは俺が降魔だった時から面識がある(らしい)。


 記憶喪失になったと伝えても「そうなんだ~、で聞いて欲しいんだけど~」とかなりマイペース。だが頓着しない相手だからこそ付き合いやすい。

 夢見と呼ぶのをやめさえすれば、なにも文句はないのだが。


「ねえねえ、そんなことよりさ! いまそこのゲーセンでブイチューバーのフィギュア狙ってるコがいるんだけど、苦戦してるから夢見くん手伝ってあげてよ~」

「イヤだよ、めんどくさい」


「そんなこと言わないでさ~、一時期クレーンゲームめっちゃハマってたでしょ~?」

「そうだけどさ……」


 まだ生まれて間もない頃、クレーンゲームにドハマりしていた時期がある。

 特にぬいぐるみやフィギュアは、チカラのおかげで持ち帰った後も話し相手になってくれる。


 生まれたばかりの俺はそれが嬉しくて、戦利品と会話することを生き甲斐にしていた時期があった。……いま思うと黒歴史だ。


「数少ないブイチューバーの女性ファンなの、業界の女子率維持に少しでも貢献してっ! 神からのお願いだよ~」

「……わかったよ」


 渋々、言われたゲーセンの入り口に向かう。

 そこでは中腰になってクレーンゲームとにらめっこをする女性がいた。


 べっこうぶちメガネにキャスケット帽、髪は明るめの茶色。

 どことなく漂うサブカル女子っぽさ、いや完全に偏見だけど。


「取りましょうか?」

 後ろから話しかけると、女性は「うわ、なにこいつ」みたいな目で振り向く。


 当然の反応だ。

 それにこのシチュエーションはどこからどう見てもナンパだ。


 サクラに言われて話しかけたはいいが……余計なことはするべきじゃなかったんじゃないか? 急速に俺の中にある後悔ゲージが高まっていく。


 だがゲージがMAXになるやや手前で、先に女性の方が口を開いた。

「……取れるもんなら、取ってみてくださいよ」


 女性は苛立たし気に言う。

 これはあれだ。失敗し過ぎてついにイライラし始めちゃったパターンだ。


 胡散臭そうな視線は「てめーみたいなオタクには取れるかよ、このバチャ豚!」とでも言いたげだ。知らんけど。


 いいよいいよ?

 そういう反応を示されると、こちらも俄然やる気が出るってもんだ。


 筐体の中には横に伸びる二つの棒に、フィギュアボックスが寝かされている。


 通称、橋渡しと呼ばれる形式だ。

 二つの棒が線路のような形で橋となり、アームをその真ん中に差しこめる空間がある。


 だが既に何度か挑戦した甲斐あって、ボックスは既に手前に傾いている。普通であれば傾けるために二、三回かかるがここまでくれば簡単に落ちるだろう。


 この場合、クレーンを右寄りに狙ってこの位置……ほら落ちた。


「えっ、すごい」

 女性から思わず声が漏れる。


 俺はちょっと得意になって、両手で戦利品を手渡してやる。

「ありがとうございますっ! やった~クヌギちゃんだあ……」


 素直に喜ばれると、こっちまで嬉しくなってくる。

 手に抱くクヌギと呼ばれる子は、確かホライゾン所属のブイチューバーだ。


 外見は可愛いが、演者は紗々に味方をしてくれない×××だ。

 可及的速やかにブルームに推し変することを願う。


「まさか一回で取ってくれるなんて思いませんでした」

「もうだいぶ傾いてたからね」


「でも、あの状態から全然取れなかったんですよ!? ……かおる、ちょっと悔しいです」


 さりげなく個人情報を公開されてしまった。

 きっと口癖みたいなものだろう、ここはスルーしてあげるのが正解だ。


「……なにかコツとかって、あるんですか?」

「ないことも、ないけど」


「だったら教えてください、授業料は払いますからっ!」

「いや、ゲーム代だけ入れてくれればいいけど」


「ありがとうございます、師匠!」

 そう言ってかおると名乗った少女は、俺の手を取って大声で言う。


 ……思ったよりアツい人だな。

 さっきの取れるもんなら、の発言は許してつかわす。


「まずそこのフィギュアで試すか。大事なのはクレーンの役目は掴むのではなく、ボックスの位置をズラすという意識をつけることだ」

「なるほど! 固定概念に縛られないということですねっ!」


「そうだな、そしてボックスは真っ直ぐより少し斜めになっていた方が取りやすい。橋に隙間のできた対角線上を狙うと……」


 以下省略。

 気になる人は縦ハメでググってくれよな!


「はえー、本当にかおるでも取れました。本当にありがとうございます!」

「俺もちょうどヒマだったから……と、そろそろ時間だから行くな」


「はい! いただいたフィギュア大事にしますね!」

「いや爆破してくれても構わない」


「え、なんで!?」

「口が滑っただけだ、気にするな」


 片手を上げてゲーセンを後にする。

 この日出会った「かおる」と名乗る女の子と再会するのは、もう少し後の話だ。




――――――――――


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