第5話

 俺が旅に出ると決めた後、具体的な計画の説明を受けた。

 まず、俺とソフィアさんをドワーフ族の国「ナタグニア」へと転移させるらしい。

 その国からここまで帰ってくるのに1年かかるらしく、俺たちの旅の目的は、「1年かけて色々な国を訪れながら、この国に帰ってくる。」ことだそうだ。

 

「こんな感じで、セレナさんと計画したんだけど、どうかな? 」

「俺もそれでいいと思う。というかこの短期間で、旅の計画まで立ててたことに驚いてるよ。まさか叶、俺に魔力がないことを事前に知ってたんじゃないだろうな? 」

「そんなことあるわけないだろう。これでも僕は、人生で3本の指はいるほど焦っていたよ。」


 こいつが焦るのは珍しいな。

 それほど、俺が「無能」なってしまったことが、想定外だったのか……


「叶、その…… ごめんな? 力になれなくてさ。」

「えっ、何を言ってるんだい? 僕はいつもめんどくさい敵を押し付けていた壮馬がいなくなって、誰に押し付けたらいいか分からないから焦ったんだよ。 あっ…… もしかして、壮馬に魔力がないことを僕が焦ったと思ったの? そんなわけないだろう、君がいてもいなくてもかわらないよ。 」

「いやお前、そんなことしてたのかよ! 心配した俺がバカだったよ!」


 こいつ人の心配をなんだと思って…… だが、叶の魔力量は転移してきたやつで、圧倒的に多かったからな。間違いではないのかもしれない…… もしかして、俺のために言ってるのだろうか? いや、これは単に俺を馬鹿にしたかっただけだな。


 その後、俺に持たせるものや、旅にあたって注意すべきことなどの説明を受けた。

 その間、周りに視線を感じたのだが…… 気のせいか?





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 明日、壮馬は旅に出ることになった。

 僕の提案に乗ってくれるか少し心配だったけど、すんなり受け入れてもらえてよかったなと思う。

 それにしても、あの壮馬が涙を流すなんてね。

 僕がその姿を見るのは『あの時』以来か

 それほど使命に対して重く受け止めていたいたんだろう。

 まあ無理もないか。小さい時から、使命の果たすことだけを目的に彼は生きてきていたのだから。

 

 さて、僕には早急にするべきことがある。

 それはこの世界の魔王を退治することではない。

 壮馬の【呪力】の器を取り戻すことだ。


 さっき、僕は『めんどくさい敵』を押し付けたといったが。それはちがう。

 さすがの僕でもそこまで根は腐っていない。

 それは、壮馬にしか『倒せない敵』だったからである。


妖怪にはSSS級からD級までが存在する。

平均的な能力を持つ陰陽師でその難易度を表すなら


 D級が10体=1人

 C級が一体=1人

 B級が一体=10人

 A級が一体=50人

 S級が一体=100人

 SS級が一体=測定不能

 SSS級が一体=記録ないため測定不能

 

 主にA級を2体以上退治できる家は上位家系と言われ、S級を退治できるのは御三家だけである。

 また、SSS級はこの世に3体しか存在しないと言われており、陰陽連が創設されて以降目撃された記録がない。

 よって、確認されている敵ではSS級が最上位となる

 

 ならなぜ、SS級が測定不能なのか。

 それは、歴史上SS級を祓うことができたのが【土御門壮馬】だけだからである。

 SS級が現れた場合、その時代の最前線で活躍する陰陽師が『命』をかけて、異界の底へと『封じる』ことしかできなかった。

 しかし壮馬は、齢14歳にして単独でSS級を『封じる』どころか『祓う』ことに成功した。

 その事実は、陰陽師達にとって、紛れもない希望であった。

 皆は言った。


「この戦いを終わらせる使命を果たすことができる『救世主』が現れた」

と。


 話を戻そう。

 僕たち陰陽師にとって、壮馬が呪力を失ったという事実はあってはならないのだ。

 そしてなぜか、100年に一度しか出現しないSS級が、頻繁に出現する事態が起きている。


「このまま壮馬の呪力が戻らなければ、僕たちの世界は破滅する。」


 そうならないために、僕は一刻も早く戻す方法を探さないといけない。

 壮馬の相棒として、そして僕たちの世界のために。


「壮馬、さっきは3本の指に入るほど焦ったって言ったけどさ。本当は一本の指だったよ。」


 叶は、見たことのない赤いカーペットがひかれた廊下を歩きながら呟いた。

 これからの行動を考えながら。そして『ある存在』に気付きながら。


「そこで止まりなよ。君の気配には気づいている。」


 不意に後ろを振り返り、窓の横のある銅像に目を向けた。


「僕たちの話を盗み聞きしていたようだけど、もし邪魔をするなら容赦はしないよ。」


 少し脅すような言い方いった。

 すると銅像の後ろから、『ある存在』が恐る恐るゆっくりと、姿を現した。


「君は…… ! 」



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 翌日の朝


 俺はメイドさんに連れてられ、床に青い陣のような模様が書かれた部屋に来ていた。

 その部屋には叶とセレナさん、そして俺の護衛をしてくれるソフィアさんがいた。


「壮馬様。この模様は【転移魔法陣】と言われていてこの陣の上に立った者達を、繋がっている陣へと転移させます。そしてこれは「ナタグニア」の城につながっております。」

「いきなり、他国のお城に行くのか。」

「壮馬。ちゃんと大人しくしときなよ? この国に迷惑かけないようにね。」

「かけねえよ! 俺をなんだと思ってるんだよ。」


 最後までこいつは変わらねえな!


「セレナ様。転移魔法の準備が完了しました。」

「わかりました。それでは壮馬様とソフィアは陣の真ん中におたちください。」


  指示の通り、俺と膨れ上がった大きなリュックと全身に鎧をまとったソフィアさんは陣の上に立った。

 なんだその大きなリュックは。

 昨日説明された持ち物でもそうはならないぞ。


「あの、ソフィアさん。その大きなリュックはなに?」

「これですか? 昨日、壮馬様に説明させていただいた持ち物と、旅に必要になりそうなものを私の独断で詰め込みました。」

「なるほど…… けどなんで横にガチのバナナつけてんの? 」

「旅にはバナナが必要だと叶様が教えてくださりました。」

「おい叶!変なこと吹き込むんじゃねえよ! 遠足じゃねえんだぞ! 」


 あいつゲラゲラと笑ってやがる。まさか、手をまわしていたとは…… 待て、もしかしてまだ仕込んであるのか!? 


「まあそれは見てからのお楽しみだよ。」


 なんで心の声わかるんだよあいつ。

 ちなみに俺は遠足のおやつにバナナは入らない派だ。



「それではこれより転移魔法を発動いたします。 」


 その声の後、陣の周りにいる術師たちが詠唱を開始した。

 その陣から段々と青い光が広がっていく。

 まるで、この世界に転移させられた時のようだ。


「叶…… 無理はするなよ。」

「最後に僕の心配かい? 壮馬知ってるでしょ、僕が君より容量がいいこと。そんな心配するよりも旅の話をちゃんと持って帰ってきてよ。」

「ああ、そうだったな。そこを尽きないほどの話を持って帰ってくるよ。」


 そうして青い光が俺たちを包み始めた。

 俺たちの旅が今、はじま……  



「ちょっと待つのじゃ! 」


  部屋の扉が、勢いよく開けられた。

  そして部屋に入ってきた『小柄な少女』は俺のほうへと飛んできた。


「わしも連れて行ってほしいのじゃ!!」


 その少女は俺の腹に顔をぶつけた。

 その感触で、目には見えないが分かったことがあった


 頭に耳が2つ付いていることを。



 そして俺たち『三人』は転移した。


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