第3話 

 光が徐々に収まっていき、目を開けると目の前に巨大な女性像があった。

 周りを見渡すと天井にはステンドグラスが張り巡らされて、床には赤い陣が描かれており、その外側を取り囲むように神職者のような格好をした人々が立っていた。

 

 どうやら俺たちはこいつらによってこの場所に飛ばされたらしい。

そう考えていると段々とみんなが起き始め、真横で起きた不安な顔をしている凛音が俺に聞いてきた。


「壮馬君、ここは……?」

「わからないが、この周りにいる奴らが俺たちを呼んだのは確かだ…… 叶。」

「ああ、わかってるよ。」


 まずこの状況を理解するために神職者を、術を使って捕らえ、吐かせるしかない。そう思った俺たちは拘束用の術を使おうとした


「おやめください、勇者様! 」


 だが、目の前にいたフードをかぶっていた神職者が慌てて俺たちを止めに入った。

そしてそいつはフードをとった。その中から現れたのは白く長い髪をした女性だった。

 顔に関しての好みは人それぞれなはずだが、その場にいたものがその少女の顔立ちを美しいと感じた。


「勇者……? 」

「はい、あなた方には我々の世界『アレクシア』を救うことができる勇者様なのです。どうか我々を助けてください。 」


 女性は俺たちに向かって懇願した。その姿は必至そのものであり、嘘をついている人の姿ではなかった。

 今いったい何が起こっているんだ……?



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 その後、俺たちは白く長い髪を持つ女性「セレナ」さんから、この世界のことと俺たちの状況について説明を受けた。


 この世界は『アレクシア』と呼ばれており、人族、獣人族、魔族など多種多様な人種が共存しあって生活している。

 そして地球と最も違う点は『魔法』という概念が存在していることだ。

 しかし『魔法』と俺たちが使うことができる『術』とではあまり大差はなかった。違う点と言えば、『呪術』は俺たちの体内にある呪力を使うのに対して、『魔法』はこの世界の大気中にある『魔力』を自分の体に取り込み使うということである。


 次に、俺たちがこの世界に呼ばれた理由だが、この世界には『魔物』という全種族共通の敵がいる。そして数年前ある脅威が誕生してしまった。『魔王』である。

 魔王とは四百年の間に一度誕生し、『魔物』を従えて世界を恐怖へと貶めていた。

 

 今回の誕生も例外ではなく、この世界の人々だけでは対処ができなくなってしまった。

 そこで、古から伝わる、異世界から高い魔法適性を持ち、救世主となりえる者たちを呼ぶ魔法「勇者召喚」を行ったらしい。それで呼ばれたのが俺たちだ。


 そして自分たちの世界に帰れるのかと質問したところ、召喚された勇者をもとの世界へ帰すことは可能だそうだ。 

 このことを聞いたことで全員の不安な顔が少し和らいだ。横のいる凛音は、「家族に会える…… よかった…… 」とこぼしていた。


「今、我々の希望はあなた様方なのです。どうかこの世界を救うために力をお貸しください。」

「僕たちでよければ力をお貸ししたいところですが、一つお聞きしたいことがあります。」

「ほんとうですか! お聞きしたいこととは何でしょうか? 」

「こちらの世界と僕たちの世界が同じように時間が経過するのかということです。もし、そうであるならば今すぐ、僕たちを帰還させていただきたい。」



 まず俺たちにこの世界の人々を見捨てるという選択肢はない。

 現に、叶が力になると言った時、誰も否定をしなかった。なぜならば俺たちは陰陽師だからだ。

 

 このクラスは大半が次期当主であり、陰陽師となって人々を守れと、生まれた時から言われ続けているやつらだ。そしてそれが呪いなのか何なのか、この世界の人々も例外ではないと思っている。


 まあお伽噺おとぎ話の世界に来たとか、魔法を使ってみたいとかでテンションが上がっている奴もいるだろうが…… 。さっきまで凛音と同じように不安がっていたしおりなんか、すごくキラキラした目で話を聞いている。あいつは昔から魔法使いが出てくるお伽噺が好きだったからな。


 しかし、時間が同じように流れているということであれば別である。

 理由は単純であり、俺たちは、今後の陰陽師界を最前線で引くものとして期待されており、そんなものたちが原因不明の神隠しにあったとなれば混乱が起こる。

 魔王を倒すのがいつになるかわからない状態でここにいることは、あってはならないのである。


「それに関しては、問題はありません。勇者召喚という魔法は召喚される者達の世界の時間を止めて、その者たちだけをこちら側の世界へ呼ぶ魔法です。ですので、こちらの世界がどれだけ進もうと、あなた様方の世界は1秒たりとも動きません。」

「じゃ、じゃあ! 私たちここにいてもいいんだよね! 魔法使ってもいいんだよね!」


 セレナさんの前に立っていた叶を手で強引に押しのけ、しおりが興味津々に聞いた。

 その熱烈さにセレナさんが少し後ろに引いた。だがそんな姿のしおりを見て、凛音がクスッと笑った。

少し平常心を保てて来たらしい。ナイスだしおり。


「は、はい。 使っていただいてもかまいませんし、皆様が魔王退治をし、向こうの世界へ帰還されるまで、我々が全力で支えさせていただきます。ですがその前に、皆様の魔力量を測らせてさせていただきます。あれをこちらに。」

「はい、直ちに。」


 セレナさんの言葉の後、横にいた神職者が金色の豪華な装飾が施された大きな黒い箱をセレナさんに渡した。セレナさんがその箱を女性像の前にある台座に置き、あけるとその中には透明な水晶があった。


「これは手に触れたものが持つ魔力量によって光が変わる水晶です。魔量が低い順番に黄色、緑色、青色、紫色、赤色、白色でございます。一般的に紫色からが高い魔力量の持ち主とされていて、紫色は1万人に一人、赤色は10万人に一人、白色に関しては一時代に1人とされています。では、どなたからされますか? 」

「はいはい! 私からやります! 」


 いつの間にかしおりは水晶の前に立っていた。

 見るからに早くやりたくてうずうずしている。そんなしおりを見てセレナさんは少し笑いながら、水晶に手を当ててくださいと言い、手を水晶の上に置いた。

 すると水晶から赤い色の光があふれ始めた。


「すごい! 初めの人からから赤色の人だなんて! 」

「えっ、私すごいの!? 魔法使えるの!? 」


 赤色に光った瞬間、周りの人たちはさっきまでだまって横に立っていたのが嘘かのように声に出して驚いていた。赤色というのはやはり相当な価値があるのだろう。

 それにしても、あいつ魔法のことでいっぱいで、さっきの説明を聞いてなかったな。


「じゃあ次は、僕が行こう。」

「はい、では手を置いてください。」


 叶が手を置くと、水晶は白く光り…… 割れた。


「白く光った後に割れた……? 」

「あの…… 僕、なんかやっちゃいました? 」

「ごめんなさい叶さん。不良品だったようなので新しいものでまたしていただけませんか? 」

「はい、いいですけど…… 」


 すぐさま神職者の一人が、女神像の横にある部屋に入り、新しい水晶を持って戻ってきてもう一度叶が触った。しかしさっき同様、水晶は白く光り割れた。


「また不良品でしょうか? 」

「いえ叶様そんなことはございません。初めて割れる瞬間を見たもので動揺しましたが、この水晶の不良品は存在しません。よって叶様は白色をこえる魔力量を持つということです。こんなことは歴史上一度もありません。」


 周りの神職者が驚きを超えて、さっきのように沈黙している。どうやらこの叶という男はとんでもないことを仕出かしたらしい。それに気づいたのか、わざとらしくリアクションをしている。祓いてえ……


 その後も20人が順番に魔力量を測っていった。叶の後は紫色ばかりであり、赤色に光ったのは4人だけで、そのうちの一人は凛音だった。


「では最後、壮馬様こちらに来てください。」

「ああ、わかった。」


 これまでのを見た感じ、赤色に光れば運がいい感じか。まあ、4人中一人だけ紫なのはなんかいやだから赤色以上と願っておこう。


「壮馬― 例え青色でも私たちが守ってあげるからねー! 」

「そうだよ壮馬。あっ、でもそうなったらさすがの僕でも笑っちゃうかも。」

「ちょっと二人とも! そんなこと言っちゃダメでしょ! 」


 そういえば俺にはこの心の底から腹立つ二人がいたな…… こいつらよりも低いとか生き恥じゃねえか。白色で叶が割れるなら俺の時は破裂しろ。


「では壮馬さん。この水晶に手を触れてください。」


 俺は白く光り破裂しろと念じながら、水晶に手を置いた。そして水晶は……

 


 何も光らなかった。



「光らないんだけど? 」

「壮馬、あんたなんか変なことしたんじゃないの?」

「してねえよ! 」


 また不良品なのか。早く光らせてあのバカにしてくる顔をやめさせたいのだが…。


「あのこれって、ふりょう……」

「壮馬様、それは不良品ではございません。」


 セレナさんのほうを向くと、何か言いにくそうな顔をしていた。だがこれが不良品じゃないのならこれはどういうことだ。


「じゃあなんで光らないんだ? 」

「壮馬様。非常に申し上げにくいのですが…… この水晶が光らないことが意味するのは、その人が魔力を所有していないということであり、必然的に魔法を使うことができません。そして魔力を持たない人はこの世界では「無能」と呼ばれています。」

「は…… ?」



 この日、俺は人生で初めて「無能」と言われた。














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