「ちょっと蒼、やりすぎよ。斬くんの何がそんなに気に食わないの?」


 杏子にそう止められると、彼は少し顔を背ける。

 耳が赤く染まっているのを見て、俺は小声で彼を呼び寄せる。


「お前、杏子の事が好きなのか?」


 グーで殴られた。マジで痛え。なんなら傷口よりこっちのが痛え。


 ジロリ、と俺を見つめる瞳にも、ちらりとある色が写り、やっと俺は真実を悟る。



(俺のこと気に入ったはいいけど、どうしていいか分からなくて、暴走しちまったのか。

 でも、一体どこで俺のことを気に入ったんだ?)



 そう思っていると、蒼はサッと瞳をサングラスで隠した。


 俺はハッとした。

 何でこんなに鈍いんだ俺は。



「お前の瞳のこと、悪く言う奴がいるんだな。言ってみろ。ぶっ飛ばしてきてやる」



 蒼は目を大きく開け、驚愕の表情になる。




「……いや、別に構わん。一々気にするなんて、馬鹿者のする事だ。そもそも、馬鹿者の言うことなんて聞く必要ないからな」


「そうか、でも無理すんなよ」


 俺が言うと、おっかなびっくり蒼は肯く。


 最初の勢いは何処へ行った?という愁傷さだ。




「そういや、お前、何歳なんだ?」


 まさか学校へ行く歳でもあるまい、と思いながらも一応聞いておく。



「馬鹿者の目からは何歳に見える?」


 一瞬で表情を取り替えて、意地の悪い目と唇の形に切り替わる。悪戯坊主のような目に、俺は好意を覚える。



「ん〜……13から30くらいか?」




 アッハハハ、と思い切りよく笑い、随分幅広いんだな、と言う彼の姿は、何故か逆に大人らしく見えた。




「実は、俺は歳数えてないんだよ」



「はあ?」



 まあいいじゃないか、と言って、ふふふ、と上機嫌で笑う蒼に、俺は、どうでもいいか、という気になってしまった。






「取り敢えず、お前の体はこの僕が治療した。

 もちろん最新技術を駆使したから、激しく動かなきゃ何やっても傷は開かん。

 だが、そういう状態になるには時間も必要だ。僕が承諾するまで大人しくしていてもらうぞ」


 了承すると、彼は満足そうに頷く。


 そもそもこれだけ丁寧に治療してくれる人だ。悪い奴な筈がなかった。




「でも有里、オークションが行われるまでにどれくらい猶予があるんだ?」



 その俺の言葉に蒼が反応する。

 

 オークション?と俺たち一人一人をじっくりと眺め、はっきりと、断定する。



「やめとけ。お前らには向かないところさ」


 自分だけではなく、皆を否定された気がして、思わず声を荒げる。


「何でオメェなんかにそんな事言われなきゃならねぇんだ。お前は医者だろ!俺たちの何が分かるってんだ!」


 ハッ!と蒼は俺をはっきりと見下す。


 有里が慌てた様子で俺に耳打ちする。





「この人、全ての紐を管理している、この星の社長なんだ」



「……!?」



 勢いよく蒼を振り返る。


 ニマニマと笑って俺を見ている彼の目には『お前を驚かす事が出来て嬉しい』という、子供のような感情が覗いていた。

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