第5話「飯田の思惑」
ジャズダンス部を潰すことに成功すればモダンダンス部での地位が確保される。ソロのパートが与えられ、全国に名を売ることができる。プロのダンス集団への推薦も約束され、さらなる高みに進むことができる。それが顧問である叔父との約束だ。
ダンスの英才教育を受けてきた俺は全国区のモダンダンス部のある高校に一般枠を装った推薦で入学し、叔父からある指名を受けた。
「ジャズダンス部に入部し、内側から廃部に追い込め。」
たかだか生徒一人の力だけではどうにもならないが、叔父は同僚の教師や近しい生徒に対しそれとなく根回しをしているのだと言う。俺は最後の一押しを内側から打ち込むだけで良い。次期部長も廃部に向かっていることは十二分にわかっているし、同級の部員として、そして友人として助言を与えるだけでその速度は加速する。そのためにこの一年間部長になるであろう愛宕とは仲良くして来たし、浮田のような初心者部員にも良い顔をしてきた。
叔父も人間だ。いくら生徒のための部活動の顧問とは言え、全国で活躍し続けるためにも弱い部活は切り捨てなければいけない。初心者にダンスを教えることは誰にでもできる。しかし才能のある生徒をより高い場所へ連れていける指導者はそう多くはない。この十五年の間に一度校内のダンス部の勢力図が入れ替わった過去があるにせよ、ダンス部を全国に送り続けるためにあらゆる努力をしてきたのだろう。
強者を作るには間引きをするのもひとつの手だ。愛宕や浮田、そしてその他の部員たちには悪いが、ここでジャズダンス部を廃部に追い込み、叔父の負担を少しでも和らげることに貢献したい。一方で俺はモダンダンス部で全国の頂点を目指し、プロ入りの切符を掴む。
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