青春18きっぷでタイムカプセルの在り処を探し回り、中に眠るラブレターを抹殺する話
■あらすじ
青春18きっぷ──それは鈍足電車に一日乗り放題の魔法の切符。高校生の少年は魔法の切符で各地を巡るのがマイブームだった。
親友の誘いで行った青春18きっぷの旅が気に入った少年(以下、旅行少年)は、勉強とバイト、家業であるカフェの手伝いの合間を縫って当てのない日帰り旅行に出かけていた。その日降り立った無人駅で途方にくれた様子の少女と出会う。数度だけ会ったことのある親友の幼馴染。彼女が自分と同じ青春18きっぷの旅をしていることがわかり旅は道連れと同行する。
連絡先を交換し、行き先不明の彼女の旅に連れそううち旅行する少女(以下、旅行少女)の目指す場所を知る。始発から日帰りの距離にあるはずの、おぼろげな記憶に残る思い出の場所。旅行少年は次第に打ち解け、あどけない笑顔を見せる旅行少女に心を奪われるのだった。
待ち合わせの駅で旅行少女の幼馴染(以下、幼馴染少年)と偶然出会ったことで彼女の探しものの正体を知ることになる。数年前、幼馴染二人は互いに宛てた手紙を収めタイムカプセルを旅先に埋めた。旅行少女と幼馴染少年はその在り処を探していた。
もうじきタイムカプセルを掘り起こす約束の日がやって来る。幼馴染少年への片想いを詰め込んだ手紙、その存在が彼とその恋人にバレたらややこしいことになる。先にタイムカプセルを見つけ、時限爆弾と化したラブレターをこの世から抹殺するのが旅行少女の目的だった。
幼馴染少年のタイムカプセル探しには彼の恋人である旅行少女の親友(以下、親友少女)が同行していた。成り行きで4人での探索に出かけた後、気の合うこのメンバーで探し物を続けたいと主張する親友少女に旅行少女は困り果てる。旅行少年の機転で、恋人二人、旅行少女と旅行少年、2つの組に分かれてどちらが先にタイムカプセルを見つけるかのゲームをすることになる。
情報集めのため旅行少女の家を訪れ、手がかりになりそうな物を拾い集める。昔幼馴染少年と巡った各地の土産、パンフレット、etc。過去の日記と旅行先の写真を集めたアルバムに不自然に欠けた箇所を見つけるが、旅行少女には覚えがないようだった。
そんな折、二人は情報交換会も兼ねた幼馴染少年の誕生パーティーに誘われる。久しぶりに行く彼の家で、息子の彼女より旅行少女にかまいたがる幼馴染少年の両親とその様子に苦笑いする親友少女に旅行少女は弱った。
精神的にクタクタになりながら幼馴染少年の私物から手がかりになりそうな物を借り持ち帰った。以前より数を減らした写真やパンフ、それが薄れていく二人の繋がりを示しているようで旅行少女は物寂しい気持ちになった。
いつものように空振りした探索からの帰り道、タイムカプセルを見つけた後の話題になる。いっそ幼馴染少年に手紙を渡してしまえばと考える旅行少年に旅行少女は首を横に振った。長年の想いがこもった、怨念みたいなラブレターなんて渡したくないと。
怨念なら成仏させられないかな?という旅行少年の発案で、タイムカプセル探しの合間に幼馴染少年への想いの残る各所を巡ることにした。タイムカプセルについて思い出す切っ掛けになることも期待していた。
幼馴染少年と出会ったスイミングスクール、初めて旅した目と鼻の先の隣町、二人で迷子になった観光名所の神社スポット、それから──幼馴染少年と親友少女を引き合わせた小旅行と、恋する親友少女の背中を押した花祭り。後悔に染まってしまった大切な場所を直視して、努めて明るい気持ちで写真に収めてみると、淀んだ想いが晴れ渡っていく気がした。
そんなある日、旅行少年は珍しく早く帰宅した両親から以前聞いた話がほぼ決まったことを知らされる。家業であるカフェ、レストラン経営を従兄弟が継ぐこと。家業に乗り気でない息子に無理強いしないようにする両親の気配りだった。
流されるまま自分の将来を決めるのが嫌で、視野を広げる名目で様々なバイトや職業体験に手を出してきた。従兄弟のことを聞いてからは現実逃避するようにタイムカプセル探しに没頭した。流されるままに家業を継がないこと、それは流されて家を継ぐことと何が違うんだろう?
落ち込む旅行少年の相談に乗った旅行少女は骨は拾うから思うようにやってみたらと背中を押す。それで後悔が残るようなら旅行少年がしてくれたようにその成仏に付き添って精一杯励ますと決めていた。
物思いにふけるようになった旅行少年のため、気晴らしにタイムカプセル探しと関係のない小旅行を計画すると思わぬトラブルに見舞われる。トラブルから思い出の場所のヒントを得た旅行少女は旅行少年と条件に合う土地をピックアップし、現地に飛びシラミ潰しに確かめていく。
タイムカプセルは電車のトラブルでたどり着いた街に埋めてあり、少年少女が過去と同じ出来事に巻き込まれたことで街の景色を思い出したのだった。大雨で電車が止まり、鉄道会社の手配した乗り継ぎのバスやタクシーで各駅を転々としたものの、次々に運行停止する電車に結局終電を逃した。仕方なく幼馴染少年と夜を明かした海辺の街、そこで見つけた海岸公園の大きな木から、少し登った山の奥──
やっとの思いで思い出の土地に降り立つと、タイムカプセルを埋めた場所には既に誰かが掘って埋め直した形跡があった。旅行少女は掘り起こした自分宛ての手紙に続きが足されているのを見つける。
過去の幼馴染少年からのラブレターと、そこに新たに書き足された旅行少女のラブレターへの数年越しの返事。恋人へのノロケにしか読めないその手紙を折りたたんで旅行少女は自分の想いに区切りを付ける。みょうに恥ずかしいこの気持ちを幼馴染少年にも味わわせるべく自らもペンを取ることにした。
4人は掘り起こしたタイムカプセルを自宅の庭に埋め直すことにする。今度はオーソドックスに未来の自分自身に宛てて、想いを未来に先送りするのではなく今の自分を後押しする手紙を詰め込んで。
忙しい中予定を空けてもらった両親の帰りを待ち、旅行少年は深呼吸をする。会社の経営に関わりたいかは正直わからないけど、自宅に併設されたカフェの手伝いは好きだった。何らかの形で家業に関わっていきたい、その気持ちだけは両親に伝えたいと思った。
夕飯の準備も終わり、手持ち無沙汰で落ち着かない旅行少年の下に旅行少女からメッセージが届く。お祝い会&残念会開催のお知らせ。失敗まで織り込み済みのイベント告知にあきれたが、失敗談でも旅行少女が笑ってくれる。そう思うと、これから始まる家族会議が不思議と怖くなくなった。
■物語の障害
・旅行少年が家業を継ぐかの選択を迫られる。
→現実逃避でタイムカプセル探しにのめり込む。
→従兄弟が代わりに継ぐことがほぼ決まりになる。
→家業に関わっていきたい気持ちを伝える。
・旅行少女は幼馴染少年へのラブレターの存在を思い出す。
→先にタイムカプセルを見つけて手紙を破棄するために必死に探し回る。
→幼馴染少年に先を越されて手紙を読まれてしまう。
・旅行少女の恋が中途半端に終わる。
→想いの残る場所を訪れることで自分の感情を見つめ直す。
→幼馴染少年からの手紙を読んだことで気持ちに区切りがつく。
・幼馴染少年の恋が中途半端に終わる。
→ほのかに残る気持ちに収まりの悪さを感じる。
→過去の気持ちに決着をつけるためタイムカプセルを探す。
・タイムカプセルが幼馴染二人がぎこちなくなる原因となる。
→幼馴染少年が八つ当たりでタイムカプセルの場所の手がかりを捨ててしまう。
→タイムカプセルの隠し場所がわからなくなる。
■登場人物
・自分の将来で悩む旅行少年
高校二年。
十軒程のカフェとレストランを営む小さな会社の息子で、忙しい両親の下で家事万能のプロの鍵っ子として育つ。家業が嫌いではないが流されるまま家業を継ぐのは嫌なので自分なりにどう生きたいのか答えを探している。流されず自分の人生を、というのは小学生の時に見た教育番組の受け売り。
自分の道を選ぶためのしっかりとした学力作りと広い視野を得るためのバイト、職業体験。そこに高校で知り合った親友に感化されて始めた日帰りのぶらり旅が加わって忙しい毎日を過ごしている。
旅行少年に気を使った両親が代わりに後を継げる人を探した結果、従兄弟が候補に挙がっており、選択の時が迫りつつある。この期に及んで決めきれず現実逃避でタイムカプセル探しにのめり込む。
趣味はケーキ作りで、チーズならなんでも好物だがベイクドチーズケーキが一番のお気に入り。料理も得意で和洋中ごった煮の料理をよく作る。
旅行少年と旅行少女は二人共鍵っ子で親近感を覚えている。家事スキルは両方持っているが旅行少年の方が高め。どちらも無駄に多額のこづかいをもらっているので旅行費用には困らない。
・タイムカプセルを探す旅行少女
高校二年。旅行少年の通うところより難関の高校に通っている。
医者の娘で、多忙の父親から面倒を見る代わりにおこづかいをかなり多めにもらっていた。両親は離婚しており一人になりがちな彼女に寄り添うようにいつも幼馴染少年が一緒だった。
万能型だが意志薄弱で流されやすく自分の行動に後悔しがち。幼い頃から幼馴染少年の家に入り浸っていたからか、異性の家に遊びに行ったり自宅に人を呼ぶことに抵抗がなく無防備さが目立つ。
子供の頃、スイミングスクールの帰りにバス待ちで手持ち無沙汰にしていたところを幼馴染少年に話しかけられる。家の方向が同じだったことからスクールバスでの行き帰りを共にする仲になる。
幼馴染少年の思いつきで青春18きっぷの小旅行を始め、電車の窓から知らない街並みや山川を眺めるのが好きだった。旅行中のトラブルでたどり着いた駅にラブレターを入れたタイムカプセルを埋める。なかなか踏み出せない自分に発破をかけるもの。タイムカプセルを掘り出す日までに告白する、できなかったら、その時はなるようになれと思った。
タイムカプセルに幼馴染少年へのラブレターを埋めた日から、幼馴染少年に頼ってばかりの自分を変えたくて、家事に勉強、水泳に、あらゆることに頑張り始める。告白はもう少しマシな自分になってから。その選択が幼馴染少年との時間を奪い、二人の間に距離をつくる。勉強を頑張りすぎた彼女はうっかり成績が上がりすぎて幼馴染少年と違う高校へ進む。スイミングスクールもタイムの伸びに合うコースがなくなり、より本格的な別スクールに移ることになる。
幼馴染少年との距離ができる一因となったタイムカプセルのことをよく思っておらず忘れたい気持ちでいっぱいだったが、幼馴染少年と約束したタイムカプセルを掘り起こす日が近づき中に入れた手紙のことを思い出す。あらかた思いつく場所を回ったもののタイムカプセルが見つからず途方にくれていたところで旅行少年と出会う。
趣味は料理作りで幼馴染少年の母親に教わった和食を得意とする。
・旅行少女とタイムカプセルを埋めた幼馴染少年(旅行少年の親友)
高校二年の少年。旅行少年と同じ高校に通っている。
旅行少年の親友で、彼の誘った青春18きっぷの旅が旅行少年が日帰り小旅行にハマるきっかけとなる。
共働きで放任主義の両親の下、自由気ままに育つ。親が家を留守にすることが多かったので旅行少年ほどではないが家事全般が得意。お節介な側面があり、ほっておくと一人で閉じこもりがちな旅行少女を心配し、自宅に引っ張り込んで世話を焼いていた。
スイミングスクール以外では家に閉じこもりがちな旅行少女を心配し、親戚の叔父さんから聞いた青春18きっぷの旅に旅行少女を誘う。知らない土地を巡るドキドキの冒険にハマり子供二人だけで様々な場所に遊びに行った。大雨で足止めを食らった際に終電を逃して帰れなくなり、普段おおらかな両親にめちゃくちゃ怒られてからは少し自重するようになる。
旅行少女と同じくタイムカプセルにラブレターを埋めた彼は、自分から離れていく旅行少女の行動を自分への答えではと疑う。手紙をのぞき見て彼のことを気持ち悪いと思った?ただ単に嫌われたのかもしれない。ラブレターをなかったことにしたい衝動のままタイムカプセルの探し方を記したメモやヒントになる写真を捨ててしまう。旅行少女の部屋にあるものも含めて勝手に処分したことに罪悪感を覚えている。
水泳のタイムが伸びず、旅行少女の高校を一緒に受験したものの自分だけ落ち、旅行少女との差を見せつけられて気落ちする。
旅行少女が高校で出会った親友少女と、3人で行った小旅行を切っ掛けに付き合うようになる。旅行少女から二人の仲を後押しされ脈のなさに落ち込んでいたところ、親友少女と過ごす気楽さに癒やされる。
菓子づくり全般が好き。甘いもの好きの旅行少女のために菓子づくりを覚える。調理実習で旅行少年と同じ班になった際にチーズケーキの配分や焼き方の話で盛り上がって友人になる。
・旅行少女と仲のいい親友少女(幼馴染少年の恋人)
高校二年の少女。旅行少女と同じ高校に通っている。
運動が苦手で水泳の授業で困っていたところ、旅行少女に泳ぎを教えてもらったことがきっかけで仲良くなる。
不器用で勉強くらいしかできないがコンプレックスにはなってないマイペースの人。交友範囲が狭く一人でいることが多い。基本ふわふわしており細かいことを気にしない。やりたい事をやりたいだけ、好きなように生きるのがモットー。ただ、自分を客観的に見て異性に人気のあるタイプには思えないので、時折彼氏に振られないかと不安になることがある。
行動的で何でも挑戦してみる幼馴染少年をスゴイなーと尊敬の目で見ていたが、時折見えるおっちょこちょいで不器用なところが可愛くて、気づけば目で追うようになっていた。
旅行少女と幼馴染少年の二人が両想いの可能性も疑ったが、恋愛に疎い彼女に真実がわかるわけもなく直球で二人に確認してみる。二人に否定されたこと、旅行少女に後押しされたことで勇気を得て幼馴染少年の恋人に立候補する。
兼ねてから幼馴染二人の関係をうらやましく感じていたこともあり、二人の思い出であるタイムカプセル探しを始めた恋人に付きそうことにする。
読書やアニメ、ドラマ鑑賞等、放っておくと自宅で無限に時間を使えてしまうので、幼馴染少年と付き合いだしてから行動範囲が劇的に広がった。外の世界は広いなぁととぼけたことを思っている。
■舞台
未定。
■その他設定
・タイムカプセル以降、関係がぎこちなくなり幼馴染二人で出かけづらくなったため、親友少女を含めた三人での小旅行をセットアップする。想像以上に馬が合い三人で遊びに行くのが定番化する。幼馴染少年が親友である旅行少年を呼ばなかったのは彼を旅行少女に近づけたくなかったから。
・幼馴染少年は旅行少年から旅行中に起きたトラブルの話を聞いてタイムカプセルを埋めた場所を思い出す。
■その他アレコレ
・大雨で電車が止まると鉄道会社がバスやタクシーを手配して運行している駅まで送ってくれる場合があり、着いた駅でも運行停止が発生してそこからまたタクシーを出して、みたいなイタチごっこになるケースも。それが一大アドベンチャーのように楽しくて不謹慎ながら一緒にいた友人と大はしゃぎしたのが元ネタ。
さらには運悪く自分と友人の間で手配されたバスの定員オーバーになり、片方だけバスに乗れてしまって運命に引き裂かれた二人みたいに。慌てて合流した後、終電を逃し夜中歩いた海辺の街はとても雰囲気がありました。
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