異世界の日常!

比企谷こうたろう

第1話 晩酌!


 これは男女四人でパーティーを組んでいる者たちの、何の変哲もない異世界の日常を描いた物語───。


 町南側の外れにある冒険者ギルドにて

「取り分けは俺が七、リンとエリーとミリーが一ずつで良いよな」

「いや、良くないんですけど?」

「独り占めダメー」

「うんうん」

 俺達は先程依頼クエストをクリアし、その報酬金をどう分けるか話し合っていた。

「え、何でダメなの?なんか不満?ああん?」

「何であなたがキレているのよ。と言うか報酬金をあなたに多く渡したところで、すぐお金を使うじゃない」「いやいや、別に良いだろ?働いてお金を稼いだんだから。実際活躍したの俺ひとりだし」

「そうは言うけどあなた、私達が居なかったらスムーズに敵を倒せなかったじゃない」

「うっ、そ、それはそうだが・・・」

「とにかくダメなものはダメ。報酬金は四人で二ずつで分けて、余ったお金は・・・。あれに使おうかしら?」

「お、そうだな。最近何かと忙しくてあまりやっていなかったからな・・・やるか?」

 そうエリーとミリーに訊ねると。

「そうだね、やろー」

「いえーい」

 とエリーとミリーがハイタッチして乗り気だったので【あれ】をすることに決める。

「じゃあ皆に呼び掛けるか!」


 二階酒屋にて

「野郎共ぉ!酒は行き渡ったかぁ!!!」

 「「「「おおぉ!!!」」」」

「それでは、乾杯っ!!」

「「「「かんぱぁーいっ!」」」」

 これは冒険者ギルド恒例、余分なお金ができたら冒険者ギルドにいる冒険者仲間、それに受付嬢にも酒を奢り、酔い潰れるまで飲むというこの町ならではの文化だ。

 事の経緯は昔の冒険者が「余分なお金ができたら酒を飲む」という訳のわからない名言、否、迷言を言った。そしたらそいつの周りにいた冒険者達は最初「は?」という感じだったらしいが、気付いたらその冒険者が言っていた事を何故だか実行しており、時間が経つにつれこの文化が出来上がったらしい。俺も最初これを目の当たりにした時は「貯金しなくてええのん?」と思わず口にしたら近くにいた冒険者が「これをやるのは家の家賃に生活費、武器の維持費などの貯金がしっかりと貯まってからだよ」と言われ、そういうところはきっちりとメリハリをつけた上でやっていることに感心してしまい、楽しいそうだったので俺もそのノリに乗って今に至る。

「おうおうおーう、ネオ飲んでるかぁ?ヒクッ」

 絡んできたのは俺がまだ駆け出し冒険者だった頃冒険について、また冒険者の心得について教えてくれたガタイの良い人族、大盾使いドワフだ。

「うわっ、早速でき上がってるなあ。酒くさっ」

 出来るだけ距離を取りつつもまた近寄って来て今度は腕を首に回してきたので逃げられそうにない。

「やめて、俺に近寄らないで」

「そんな事言うなよぉ。ほれ、注いでやるからジョッキを出せ。ヒクッ」

 ドワフの腕力は相当強く、ガチで力を入れられたら死ぬ恐れがあるので不承不承ジョッキを渡そうとしたら───。

 ペチーンッ!と良い音がドワフの頭から聞こえてきて、ドワフの後ろを見るとそこには耳が長く身長が人より高いのが特徴の種族、エルフ族のドーランが居た。こいつは俺が駆け出し冒険者の頃に弓の使い方を教えてくれ、更には夜の遊びについても教えてくれた。は、初めてを貰われました・・・。

 ドーランは弓を中心に使って戦っているのでこれまた腕力が強く、ドワフに入れた叩きは強烈だろう。そのせいかドワフは押し黙り、頭を叩かれた部分を擦っている。

「おうドーラン。助かったわ」

「どういたしまして。うふふ、久し振りね。元気してた?」

 そう言いながらドーランは俺の膝の上に向かい合うように座り、腕を俺の首に回し唇を重ねてきた。相変わらず柔らかくて甘く何度も重ねたくなる唇だ。

「ああ、元気にやってるよ」

「そう、なら良かったわ」

 と、挨拶をしているとリンがドーランに向かって手を振りながらこちらにやってきた。

「ドーラン久し振りね」

「久し振り、リン」

 そうふたりは挨拶を交わしつつも、ドーランが俺の膝の上に向かい合う形で座っているので体が悪い。流石に膝が辛くなってきたので早く退いてくれないかなあと思っていると、ドーランがいきなり強く抱き付いてきた。む、胸が・・・。当たる・・・。柔らかい・・・。

「リンは他の人と酒を飲まないの?」

「私は今ネオと一緒に酒を飲みたくてここに来たのよ?」

 とふたりで目に見えない火花を散らしている感じがして怖いが、俺の奪い合いをしているっぽいので悪い気はしない。

 ひとり内心ニヤニヤしているとエリーとミリーもこちらにやってきた。

「ネオ一緒に飲も」

「私も一緒に」

 次は双子姉妹がやってきて俺の膝に座ろうとドーランをぐいぐい押して退かそうとするが、結構力強く抱き付いているので離れそうにない。と言うか少し痛いレベル。

「ん、離れてドーラン」

「その場所は私たちふたりだけのもの」

「あら、そんなの知らないわよ」

 俺の周りの空気は少しずつ険悪になっていく。そ、そろそろヤバいな・・・。と焦りつつも身体はドーランによって動かせない。

「そうよドーラン、離れなさい。ネオはあなたのものじゃないわ」

「そう?初めてを貰ったのはこの私。そしてネオの心を鷲掴みにしているのもこの私よ」

「ふん、自信過剰ね。そんなはずないじゃない。ネオの心は私が射止めているのよ。伊達にひとつ屋根の下で七年間過ごしてきた訳じゃないの」

「そうだそうだ」

「リンの言う通り」

「ふっ。ひとつ屋根の下で長い間一緒に居て、ネオの心を射止められている何て、それこそ自信過剰だわ」 いやー、流石にそろそろヤバいね。このままだと俺が死んでしまう。どうにかこの場から離れようと考えていると。

「なら勝負をしましょう」

「勝負?」

「「?」」

 ドーランがリン達に勝負をしようと言い出した。そんな提案にエリーとミリーは小首を傾げている。

「勝負内容は早飲みよ。早く飲めた方がネオと明日の夜一緒に過ごす権利が与えられるってことでどうかしら」

「悪くないわ」

「受けて立つ」

「かかってこい」

 と俺を賭けて勝負が始まろうとしていた。・・・俺のために、争わないでっ!

 という訳で、一対三で早飲み対決をする。ルールはジョッキ一杯の酒を早く飲み終えた方が勝ち。

 スターターは先程叩かれて黙っていたドワフが担当。

「えー、では四人共ジョッキを持って・・・。よーい、どん!」

 開始合図と共に四人一斉にジョッキを仰ぎ始め、リンのジョッキの傾きが三人より少し早くそのまま飲み切った。

「ぷはぁーっ!私の勝ちね!」

「リンナイス」

「勝利~」

「ま、負けた・・・」

 リン達はハイタッチして喜び、ドーランはがっくりと肩を落として悔しがっていた。

「それじゃ約束通り、明日ネオと熱い夜を過ごさせて貰うわ」

「悔しいわ・・・」

「ふふん」

「ネオと一緒」

 とエリーとミリーが嬉しそうに鼻をならしている。が。

「え?何エリーとミリー嬉しそうにしているの?ネオと明日の夜一緒に過ごすのは私だけよ?」

「え、なんで?」

「ズルい」

「元々は私とドーランの勝負よ。それに勝手に参加してきただけのこと。権利は私にしかないわ」

「何それズルい」

「ケチ」

 俺もてっきりエリーとミリーにも約束されているものかと。まあ正直俺としては女の子と一緒に夜を過ごせるならそれで良いかな、うん!

 この勝負が終わった後は四人共楽しそうに酒を飲みながら談笑していた。その他の冒険者も肩を組んで飲んでいたり、変な踊りをして場を盛り上げる者がいたり、酔っ払って女の子のスカートの中を覗こうとしたりと皆バカをやっていて賑やかで、本当に楽しそうに飲んでくれていた───。

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