世界を相手に立ち向かう!
司弐紘
序章 接触と発動
第1話 『N県の大型ショッピングモール、大規模ガス爆発。負傷者1名』
周囲に散った細かい塵が、陽光を反射してキラキラと輝いている。
塵の正体は、破壊されたため散らばったコンクリートの粉。見渡せば十メートル四方が、おおよそ瓦礫に変わっている。
瓦礫に変わる前、この場所は大規模なショッピングモールの八階だった。いわゆる飲食店街として機能していた階で、惨状から幾分かでも立ち直った後に気付くのは、ガスの匂いと何かが取り返しが付かない程に焦げる匂い。
ガス爆発。
そこが常識というフィルターを通したときの、この惨状の落としどころ。
しかしその答えは半分正解で、半分間違っていた。
確かにガスは爆発した。けれど、ガスが爆発したぐらいでは、仮にも鉄筋コンクリートの壁が崩れ落ちたりはしない。しかも並大抵の破壊ではない。壁が完全に崩れ落ちて、空まで見えてしまう。
つまり、これほど大規模な破壊をもたらしたのは、ガス爆発ではない――ということになる。
自分が一般人だと自覚している者には、この辺りで回れ右をすることをお勧めする。
猫と一緒に殺されてもいい、という心根の持ち主は遠くから目を凝らしてみるといい。
爆発の中心点、その中空に金色に光る何かが浮かんでいるの見えるだろう。
それは、まっすぐな直刃の剣。その刃から六本の牙のような突起が出ている。
いわゆる、七支剣。
無論、実体があるようには見えないのだが――いや、この場合実体がある方が、まだ納得できるものだろうか?
どちらにしても、一般に信じられる常識からは大きく逸脱している光景だ。
やがて塵も収まってゆき、幾分かは周囲の光景が見えてくる。降り注ぐ陽の光が、瓦礫の影を濃いものにしていた。あり得ない状況だという常識的な感覚が、そんな光景を出来の悪い抽象画のように見せている
そして、その光景の中に倒れ伏す人影もあった。
数は三人分。服装はバラバラだが共通しているところがある。
それは全員が白人であるということ。観光客、ビジネスマン、外国語教諭が偶然に出くわして、偶然にこの状況に巻き込まれた――とは幾ら想像力がたくましくても、なかなか納得できない状況だろう。
ここで特殊な事態が起こっていた事は間違いなく、同じく特殊な事態であるこの大規模破壊との関係性は無論あるに違いない。
白人三人は未だに息があるようで、胸がかすかに上下しているのが救いといえば救いか。
カラン……
そんな中、砕け損ねた瓦礫が一つ転げ落ちる。何かのはずみで落ちたのかと、ふと音がした方向に目を向けると、そこにはもう一つの人影。
こちらは東洋人――いや、恐らくは日本人なのだろう。頭に怪我しているのか、額から血を流し、瓦礫の上でぐったりと身体を投げ出している。
そして、あの剣の幻影はこの人影の上で輝いていた。
まるでその人影を護るように、周囲を圧倒していた輝きだったが、やがてそれも収まってゆき、そのままその人影に吸い込まれるようにして、消えてしまう。
これが、二〇XX年七月二十八日全国の夕刊で報じられた、
『N県の大型ショッピングモール、大規模ガス爆発。負傷者1名』
の、
――真相である。
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