巨乳美少女を濡らした責任。

皿の上には、五つのマグロが置かれている。


それぞれ、見た目的には何の変哲もない、至って普通のマグロだ。


しかし、この中の一つには、わさびが塗りたくられていて……。


「ん~。わかんねぇもんだなぁ」


美々子さんが、マグロを興味深そうに見つめながら、そんな風に呟いた。


「じゃあ、順番はどうする?」

「メイは一番最初が良い」

「じゃあ、私はその次」

「おっ。じゃあその次で!」

「わ、私は何番でも」

「それなら、私が最後ってことで」


と、いうわけで、メイから始まり、碧先輩、美々子さん、神沢さん、最後にまりあさん。の順に決まった。


「メイが最初に引いたら、大ウケだな!」

「そもそも、どうしてこうなったの。シチュエーションは、食べさせあう場面だったのに」


メイが不満そうに頬を膨らませた。


「抜け駆けしようとしたから。鳴子さんは卑怯」

「うるさい」

「こらこら。隙あらば喧嘩しようとするなぁ……」

「碧。人の家であんまりそういうのは……」

「お姉ちゃん、冷蔵庫にあったヨーグルト、食べちゃうよ?」

「ひええ……」


神沢さんが、頭を抱えた。どうやらヨーグルトが好物らしい。


……それにしても、碧先輩のお姉ちゃん呼びは貴重だな。


そんな風に思っていたら、目が遭ってしまった。


「何?野並も、お兄ちゃんって呼んでほしい?」

「そういうわけでは……」

「じゃあ、お姉ちゃん?」

「それはちょっと違うと思いますっ……って、メイ。太ももを殴るなよ」

「今はメイの時間でしょ。他の女に感けないで」

「わかったよ……」

「あっ。そうだ」


まりあさんが、何かを思い出した様子で、部屋に戻った。


そして、何やら黒いモノを持って帰ってきた。


「じゃじゃん。アイマスク」

「何に使うんですか?」

「桜くんに、マグロを口に入れられる子は……。これを付けるっていうのはどう?とてもドキドキすると思うけど」

「まりあさん……。別に、ドキドキする必要性は」

「徳重、それ貸して」

「メイ?」

「桜、ほら早く」


メイが、アイマスクをつけ、口をこちらに向けて開けている。


……なんだこのシチュエーション。


「桜、メイの鼻に向かって、マグロを押し当てようぜ」

「しませんよ」


耳打ちしてきた美々子さんの意見は、拒否させてもらうとして。


「メイ、いいか?」


メイが頷いた。


……どれにしようかな。


とりあえず、一番端っこにあるマグロを手に取り……。


メイの口へ、ゆっくりと入れた。


「……どうだ?」

「美味しい」


メイが、アイマスクを碧先輩に渡した。


「次は私か……。野並、優しくしてね?」

「そう言っても、見た目ではわかりませんからね」

「師弟の絆が試される時」


神沢さんが、心配そうな目で見つめる中……。碧先輩の口に、マグロを入れる。


「……辛くない」


残りは、あと三つ。


次は美々子さんだ。


「おいおい……。なんか、緊張してきたなぁ」


そういう美々子さんも、セーフで……。


――いよいよ、残すマグロは、あと二つになった。


「最後は、二人同時で行きましょう」


まりあさんが、いつのまにかもう一つアイマスクを持ってきていた。


「……」


神沢さんの顔色が、あきらかに悪くなっている。


「あの……。神沢さん、無理しなくていいですからね?」


仲の良い四人は別として、神沢さんからすれば、ただまりあさんと話したいから来てくれただけなのに、いきなりこんな企画に参加させられて、木の毒ではある。


しかし、神沢さんは首を横に振った。


「せっかく、徳重さんが考えてくれた企画ですから」


……もう涙目なんだよなぁ。


それを覆い隠すようにして、アイマスクを付けた。


「桜くん。いつでもどうぞ」


神沢さんの横に、まりあさんが座った。


「あ、徳重さんの匂いがする……」

「大丈夫だよ亜優奈ちゃん。私、隣にいるから」


まりあさんが、神沢さんの手を握ると、神沢さんの体が、ピクンと跳ねた。


「ひうぅ……。徳重さんの手、柔らかい……」

「桜くん。今の内よ」

「そうですね」


神沢さんが落ち着いている間に、やってしまおう。


俺は二人の口に……。同時にマグロを入れた。


ゆっくりと、口が閉じる。


果たして、わさびマグロは、どちらへ……。


「~~~っ!!!!!」


声にならない叫びをあげたのは。


……神沢さんの方だった。


「ちょ、ちょっと亜優奈ちゃん。痛い痛い!」

「ん~!!!!ひひひまへへ!!!」


かなりの力で、まりあさんの手を握ったらしく、真っ赤になっている。


「水!お水をくだひゃい!!」

「ど、どうぞ」


神沢さんに水を渡したが。


なぜか、アイマスクのまま受け取ったせいで、全部零してしまった……。


「落ち着いてお姉ちゃん」


そんな神沢さんに、碧先輩が、後ろから抱き着いた。


まるで、暴れ出した獣を抑え込むかのように。


「……ふひゅぅ」


そして、鎮静化に成功。

 

アイマスクをゆっくりと外して、呼吸を整え始めた。


「し、死ぬかと思った」

「すいません神沢さん……。服、濡れちゃいましたね」

「野並。うちの姉が、風邪を引いたらどうするの」

「そうですよね……。反省してます」

「だから、私とお姉ちゃんと一緒に、お風呂に入ろう」

「……へ?」


謎の提案だった。


「待って。桜、その必要はない」

「邪魔しないで。大根少女」

「大根?」

「気にしなくていいぞ。メイ」


おそらく大根役者のことだろうけど、それを言うとブちぎれること間違いなしだから。


「桜は、お姉ちゃんを濡らした責任を取るべき」

「関係ないよ。アイマスクを取ってから受け取らなかったその人が悪い」

「そ、そうだよね。ごめんなさい……」

「べ、別に責めてるわけじゃ」

「あーあ。泣かした。アイドルさんが女の子を泣かせたって、ネットに書き込もうかな」

「……チッ」


舌打ちをしたメイが、引き下がって行った。


「でも、一理あるよね……。桜くんが、アイマスクを取ってあげてから、渡すべきだったとも思うし」

「ま、まりあさん?」

「おい徳重ちゃん。あんたまたなんか企んでるな?」

「企む?全然そんなことないよ?」


月9女優らしからぬ棒読みで、美々子さんを挑発するまりあさん。


「ほら野並。みんなもこう言ってるし、お風呂は必然」

「そんなことないですって。展開が強引すぎますから。だいたい、神沢さんが嫌でしょう。今日出会ったばかりの男と風呂なんて」

「それが、そうでもない」

「え?」

「……」

「神沢さん?嫌ですよね?」


神沢さんは、答えなかった。


……なんで?


その代わりと言わんばかりに、碧先輩が、手を挙げてから、答えた。


「お姉ちゃん、絵を描いてるの。男の人の裸は、参考になると思うな」


これまた、強引な理屈だと思った。


「それはでも……。然るべきところで、ヌードデッサンみたいな機会があるんじゃないのか?」

「野並。よく考えて。こんな引っ込み思案なお姉ちゃんが、見ず知らずの男の子の裸を、直視できると思う?」

「……えっと」

「じゃあ、分かった。多数決で決めよう。野並と私たち神沢姉妹が、一緒に風呂に入ることに賛成の人は、手を挙げて」


俺と、美々子さんと、メイは挙げなかった。


つまり、六人のうち、半数が挙げなかったので、多数決としては引き分け。


……しかも、神沢さんの手は、碧先輩が無理やり挙げさせてるし。


「……二人とも、こっち」


まりあさんが、手を挙げなかった美々子さんとメイを呼び寄せた。


そして、何かを耳打ちする。


「……なるほどな」

「……」


二人が、こちらを向いた。


「桜、行ってこい」

「え」

「水をかけた責任は取るべき」

「メイ……」


何を言われたのかは知らないが、これで戦況は一気に変わり……。


俺は、神沢姉妹と、風呂に入ることが、決定してしまった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る