月9女優のバックハグ~肩に顎乗せも添えて~

「はい、桜くん。おいで~?」

「……ちょっと、待ちましょう」

「え?」


両手を広げて、俺を待ち構えているまりあさんには、もうしわけないが……。


今一度、状況を確認したい俺だった。


まず、場所は俺の部屋。


そして、一人目のメンバーは、徳重まりあさん。


茶色に染めた髪の毛から、先ほど風呂に入ったばかりらしく、良い香りが漂っている。


さらに、もう一人。


「……メイ。どうしてここにいるんだ?」

「ん?」

「いや。ん?じゃなくてだな」


俺のベッドに座り、可愛らしくとぼけているのは、鳴子メイ。


駆け出しアイドルではあるが、近い将来大物になると予想されており、大手事務所もスカウトしようと狙っている……。なんて噂もある美少女。


最近聞いた話だけど、紫色の髪の毛は、事務所の方針らしい。本人はあまり気に入ってないらしいので、近々変わる可能性もあるんだとか。


以上。計二名の美少女が、俺の部屋にいるわけですけども……。


「無言で俺の部屋に入ってきて、当たり前のように俺のベッドに座ってるけどな。悪いが今日俺は夜更かしする予定なんだ。明日メイは朝早いだろ?いつもみたいに抱き枕は」

「違う」

「え?」

「今日は、見に来ただけ」

「……見に来た?」

「そう」


メイの口から、それ以上の言葉は出てこなかった。


ただ、俺とまりあさんへ、交互に視線を向けるのみ。


……夜ご飯の時から、様子がおかしいので、きっと何かを企んでいると思うけど、それが何なのかは全くわからなかった。


「まぁいいや……。で、まりあさんは、どうして俺の部屋に?」

「えぇ~?説明が必要?」

「必要ですよ」

「だって、彼女だよ?私」

「……」

「な、なんでそんな微妙な反応なの。お姉ちゃん傷ついちゃうんですけど……」

「あ、あぁすいません」


彼女だよ?が、あまりに可愛すぎて、一瞬思考回路がジャックされてしまった。これだけ魅力的な人は、演技の練習なんて必要ないんじゃないかと思うけど……。


「あ、待って。私、いいシチュエーション思いついたかも。桜くん、私に背を向けて?」

「……何をするつもりですか?」

「それを教えちゃったら、意味ないでしょ?不意のドキドキが大事なのに」

「ドキドキするようなことをするんですね……」

「桜。つべこべ言ってないで、徳重の指示に従って」


なぜこのように、二対一になっているかは定かではないが……。


……ドキドキするようなことをしてもらえるのなら、別になんだっていいか。と思ってしまった。だって、思春期の高校生男子だから。


「はい、どうぞ」


俺はまりあさんに背を向け、少し緊張しながら、待っている。


「は~い」


ゆっくりと、こちらに向かってくる足音が聞こえてきて……。やがて止まった。


次に、突然体を包み込む、極上の暖かさと、柔らかさ。


……まりあさんが、後ろから抱き着いてきたのだ。


「これ、バッグハグって言って、今流行りらしいの……。どうやら、男の子が女の子にやることの方が多いみたいなんだけど、監督が、今回は逆にしても面白いんじゃないかって。どう?ドキドキする?」

「しますよそりゃあ……」


少し離れた距離ですら感じていたまりあさんの匂いが、より一層鼻から侵入してくるようになり、頭がクラクラしそうだった。


そんな俺たちの様子を、メイがなぜだか、真剣に見つめている。


「メイ……。あんまり見ないでくれよ」

「桜、今どういう気持ちなの?」

「え?それはその……。良い気持ちだよ」

「わぁ嬉しい。でも、これはまだ、自然に抱き着いただけだから、もっと良い方法があると思うの。例えば……」


まりあさんが……。ゆっくりと、俺の肩に、頭を乗せてきた。


「こんな風に、ね?ほら……。すぐ横に、私の顔。どう?」

「……ヤバいです」


少しでも首を動かせば、顔同士が触れる。極めて近距離で……。息遣いなんかも当然ダイレクトにわかってしまう。


「徳重と桜。両方に質問。緊張してる?」

「うん。してるよ?」

「多分、俺の方がしてる」

「そうかなぁ。私、こういうの馴れてないし……」

「俺だって馴れてませんよ!」


と、いうか、こんな美少女にくっつかれることに慣れている奴がいたら、連れてきて欲しい。


……いくらこの一週間で耐性が付いたとは言え、無理なものは無理だ。強すぎる。


「わかった。ありがとう」

「え?おいメイ。どこ行くんだよ」

「もういい」

「お~い……」


メイは、何か考えごとをしながら、部屋を出て行ってしまった。一体、どうしたんだろうな……。


……で。


バッグハグ状態の二人が、残ったわけなんですけども。


「ねっ。桜くん」

「ちょ、耳元で……」

「ふふ。これ、好きだもんね?」

「まりあさん……」

「メイちゃん、行っちゃったし、こっからはカップルの時間だよ?」

「そ、それはどういう……」

「とりあえず、このままベッドに移動しようね」

「はい……」


まりあさんに抱き着かれたまま、俺はゆっくりとベッドへ向かった。

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