美少女サンドイッチ
「いやぁ。どうだった?あたしの演奏は!」
「本当に最高でした」
「そうだよなぁ!」
「……あの~。二人とも」
「今度また、コンサートにも行きます」
「マジ?嬉しいなぁ。あんまり若い女の子のファンっていないからさぁ。割とガチ目に嬉しいんだよねあたし!」
「あの」
「今日みたいに、空君の主題歌を弾いて、ネットに動画を挙げれば、私と同世代のファンも増えるかと」
「なるほど!そりゃ名案だ!」
……ダメだ。全然聞いてない。
状況説明。俺の部屋のベッドで、美々子さんと碧先輩が喋りこんでいる。
流れとしては、俺の小説の指導をしようとした先輩と、俺と寝るつもりだった美々子さんが鉢合わせた。という感じなんだが、俺そっちのけで、会話が繰り広げられていた。
「ていうか桜!いつまでそんなところいるんだよ!こっち来いよ!」
美々子さんが、ベッドへ手招きしてくる。碧先輩も真似して、小さく手招き。先輩の小さい手だと、なんだか猫みたいで可愛いなぁとか、そんな話は置いといて。
「俺、先輩に小説のアドバイスをもらいたいんで、美々子さんもう少し後で来てくれませんか?」
「えぇ~?言っただろ?演奏した後は、その余韻を感じたまま寝たいんだって!」
「そんなこと言われても……」
「野並。小説はいつでも書ける」
……あれ。元々は、先輩が夜通しでアドバイスしてくれることが、このお泊りの一番のメリットだったんじゃなかったでしたっけ。主旨変わってない?
「ほらほら。神沢ちゃんもこう言ってるわけだしさ!な?」
「野並、早く」
「いや、後ですね。その場合もう一つ気になる点が」
「なんだよもぉ~。ふわぁああ……」
美々子さんが、大きなあくびをした。またしても先輩が真似をして、小さなあくびを……。いやこれは、単純にあくびが移っただけか。
「美々子さんは、そういう約束でしたから、仕方ないとして……。どうして碧先輩まで、一緒に寝ようとしてるんです?」
「細かいことは気にしないで」
「そうだぞ桜!」
この二対一の構図は、なんとかならないものか……。
「相生さんのファンである私としては、一緒に眠れるチャンスを逃すわけにはいかない。そこに野並がいるだけ」
「いや……」
「桜ぁ。あたし本当にもう眠くなってきた」
「だからですね」
「ったく、仕方ないなぁ」
「え?」
美々子さんが、俺の腕を掴んできた。
「ちょっと、美々子さん?」
「ほらよっと!」
「うわぁ!?」
腕を思いっきり引っ張られ、ベッドに引きずり込まれてしまった!
「ちょ、これはさすがに」
先輩と美々子さんに挟まれる形になっている。
俺のベッドは、当然一人用だ。メイ一人ならなんとかならないこともなかったが、さすがに三人一緒となると、ほとんど隙間なんてなくて……。
体中が、二人に密着している。柔らかい感触と、良い香りに、脳みそが完全に支配されてしまった。
「桜、気分はどうだ?」
「ど、どうとは?」
「嬉しいだろ?こんな美少女二人と一緒に寝れるなんて。普通なら有料だぜ?」
「確かにすごく恵まれてると思いますけど……。でもこれ、緊張して、眠れる気がしないです……」
「野並。ASMRって知ってる?」
「知ってますけど、どうしていきなり?」
「……こういうこと」
碧先輩が、急に耳に息を吹きかけてきた。
「せ、先輩、なんで……」
「ASMRを聴くと、よく眠れるらしい」
「これはちょっとASMRとは違うんじゃ?」
「ふ~」
「っ!ちょっと!美々子さんまで、やめてください!」
「あはは!面白いな~桜。体が反応してるぞ?」
「だって……。こんなの、耐えられませんって」
「野並、こっち向いて」
「え……」
碧先輩の方を向いた瞬間。
顔に直接、息を吹きかけられてしまった。
「な、なんでですか」
「なんとなく?」
「それ面白いな。桜、こっち向けよ」
「向きません!」
「なんでだよぉ~」
「あの、二人とも、ちょっとやることが過激すぎませんか?もし今、誰か入って来たら……」
……俺は別に、フラグを建てたわけではないけども。
こういう時って、マーフィーの法則というか、起きてほしくないことは、絶対起きるわけで。
ドアが開き……。まりあさんと、メイが入って来た。
二人とも、どうやら部屋の外から様子をうかがっていたらしく、すでに怒り顔、プク顔で、それぞれ登場。
「……あのですね。これはその」
「言い訳は聞きたくない。桜、女の子なら誰でもいいの?」
「違うって。これには色々な事情が」
「桜くんもだけど、二人も悪いんだよ?みんなの桜くんなんだから、独占禁止!」
「えぇ~?そんなこと言ったってさ、徳重ちゃんは桜と一緒に風呂入ってるし、メイは一緒に寝てるし……。人のこと言えないんじゃねぇの?」
二人が、ぐぬぬ……っと、唇を噛みしめた。
「私に、良い案がある」
碧先輩が起き上がり、ベットから降りた。
「リビングで、雑魚寝すればいい」
……そして、とんでもない案を出してきたのだった。
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