親の命令で美少女三人と同棲することになりました。

藤丸新

第一章 三人の美少女と一人の先輩

徳重まりあは月9女優

「お前、明日から美少女三人と同棲してもらうから」

「は?」


深夜二時。こんな時間に親父から電話がかかってきた。


そんでもって、この内容。


「親父、寝ぼけてるのか?」

「何言ってんだ。父さん今日もモンエナ飲んで目がバッキバキだぞ」

「学生みたいなことすんなよ……」

「野並家の男は、いつでも若々しく。それがモットーだ。わかったな?桜」

「めんどくさ……」


桜というのは、俺の名前だ。


女の子と間違われるので、そんなに気に行ってないのが本音。


「とにかくだな。明日お前どうせ学校サボるだろ?午前中には来る予定だから、ちゃんと歯磨きして、寝癖も直して、みっともない姿を見せることはないようにしておけよ?」

「色々言いたいことはあるけどな。俺が明日サボるってのはどうして確定してる?」

「こんな時間まで起きてるんだ。小説を書いてるだろ?」

「まぁ……」


寝ようと思って布団に入った瞬間、いいアイデアが浮かんでしまったんだよな……。作家あるあるだと思う。


「あまり無理はするなよ?まぁ、そんなお前が心配で、美少女三人を送り込んだわけだが」

「そもそもな。親父にそんな力があるとも思えん」

「がはは!まぁ楽しみにしておけ!じゃあ父さんも寝るから、桜も寝ろよ?おやすみ~!」

「あ、ちょっと!」


……切れた。


多分、酔っぱらってたんだな。許してやろう。


俺は止めていた手を再び動かし始めた。


☆ ☆ ☆ ☆ ☆


「……んぅ?」


しまった。どうやら机で伏せて眠ってしまっていたらしい。バキバキの体が悲鳴をあげている。


時計を確認すると、まだ午前六時。もうひと眠りしようと、布団にもぐりかけた、その時、インターホンが鳴った。


おいおい何時だと思ってるんだよ……。


こんな時間に尋ねてくる奴は、怪しいやつか、いたずら以外ありえないと思い、無視することにした。


しかし、鳴りやむことなく、ピンポンピンポン騒ぎ続けるので、さすがに諦めた。


全然開かない瞼を擦りながら、重たい体を引きずって、玄関へ。


「はいはいどちら様……」


ドアを開けた瞬間、眠気が吹っ飛んだ。


誰もが知っている。美少女若手女優、徳重まりあが……。そこにいた。


え……?


怖くなった俺は、慌ててドアを閉めた。


「ちょ、ちょっと?どうして閉めちゃうの桜くん!」


さ、桜くん?あの徳重まりあが、俺を下の名前で?いや喜んでる場合か落ち着け。


おそるおそる、もう一度ドアを開いてみる。


……やっぱり、徳重まりあがいた。


茶色に染めた髪の毛は肩のあたりで切りそろえられており、大人の雰囲気を感じさせる。


ちょうど、今やってる月9のヒロインと全く同じ容姿だ。


待て。冷静に考えろ。本物がいるわけないじゃないか。これはきっと、新手の詐欺で……。


「……本物ですか」

「本物ですよ?」

「しょ、証拠とか、ありますか」

「う~ん。そうだなぁ」


口元に手を当てて、首を傾げる可愛らしい仕草とか、めちゃくちゃ徳重まりあだと思った。


「あ、そうだ!じゃあ、来週の空君のネタバレをしてあげる!」

「それはやめて!」


この令和の時代に、平均視聴率30パーセントを越える大人気月9、空を愛する君だから。俺も毎週楽しみにしている。ネタバレなんてされたらたまったもんじゃない。


「え、じゃあ本当に……」

「だから、さっきからそう言ってるでしょ?」

「だって……」


……いや待てよ?昨日親父が、妙なことを言っていたような。


『明日から美少女三人と同棲してもらうから』


本当だったのかよ。親父……。


「その、まだ頭が整理つかなくて」

「ん~。確かに整理ついてないね」

「え?」


いきなり、徳重さんの手が、俺の頭に伸びてきた。


そして、優しく撫でられている。


……え、なにこれ。俺、今日死ぬの?


月9女優に、頭撫でられてるよ?


「ほら、ここ。髪が跳ねてる」

「あ……」


『ちゃんと歯磨きして、寝癖も直して、みっともない姿を見せることはないようにしておけよ?』


親父ごめん……。あんたの言ってることは、正しかったよ。




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