53時限目【マールエル】

 ◆◆◆◆◆

 次々とイベントが終わり怒涛の2学期も残すところ後数日。文化祭の後、剣道部の試合があったが惜しくもベスト8で敗退。

 校内開催の合唱コンクールもしっかりこなし期末試験も終えた。

 合唱コンクールの結果?

 それは言うまでもあるまい。あの1組の○○エル達は揃いも揃って全員、音痴である。

 結果はお察しで。

 さて、今回はフォルネウスの視点に戻るぞ!

 ◆◆◆◆◆





 何はともあれ、2学期が終わるのだが気になることがある。一通りクラス全員の両親とは顔を合わせた。しかしただ1人、マールの両親には一度も会えていないのだ。何度か会おうと試みたのだが結局都合がつかないままだ。

 俺はそれをサハクィエル先生に相談していた。


 やはりサハクィエル先生もマールの両親に会ったことがないらしい。ルマちゃんや黒光りタブリスにも聞いてみたが結果は同じだった。


 いやしかし、それはおかしくないか?


 俺は仕方なく校長にこの話を持ちかけた。正直、あまり関わりたくないがこの際仕方あるまい。


 校長室。


「あーら、フォルネウスちゃん? 自分から会いに来るなんて珍しいわね?」


 校長はその巨漢を震わせながら特大のソファに腰掛ける。しっかりと頭に乗っているモノを手で押さえながら俺に座りなさい? とウィンクを放つ。


 俺はそれを某乱世漫画の○キの構えで華麗にかわしソファに腰掛けた。


「それで、どうしたのかしら?」再びウィンク!


「マールの事なんですが……」回避!


「マールエルちゃん?」二連発射!


「は、はい……おっと、マールの両親の、こ、事なんですが、よっ……まだ一度も会えていないんですが、何とか時間を作れないんでしょうか?」


 危なかったが、何とか回避出来たか。


「あ〜ん、フォルネウスちゃんそれだけは向こうの都合があるからね〜、私もお仕事のことはあまり詳しくはないのだけれど……ん〜まっ!」


 必殺投げキッスがキタ!? 当たると死ぬ!


「そ、そうですか、しかし2学期も終わるというのに一度も会ってないというのはっ」再び○キの構え!


「ん〜もうっ! フォルネウスちゃんったら全部避けちゃうんだからっ! ……フォルネウスちゃん? 悪いことは言わないわ? あまり詮索をしない方が、貴方の為よ?」


「そ、それってどういう……」


「あ〜らいけないっ! 私、これから会議なのよ! フォルネウスちゃん、またね〜?」


 校長は時計を見て話を切り上げてしまった。


 校長室に取り残された俺は1人廊下に出る。

 するとそこにはピンクの可愛いシュシュで決めちゃったメタトロン先生の姿が。

 保健室の幼女は少し辺りを見渡したあと、無言で俺を手招きする。


 メタトロンちゃんの後をついて行く。するといつものように保健室に到着した。


「あの、俺今日は珍しく無傷なんですけど?」


 すると保健室の幼女メタトロンはいつもの椅子に座り、まぁ座れと促す。

 俺はいつもの椅子に腰掛け改めて用件を問うた。


「お前、学校中でマールの両親のことを聞いて回っているようだの?」


「な、何故それを? また心を読んだんですか?」


「いや、お前の動きは終始サンダルフォンが監視しておるからの。サンダルフォンと私は離れていても情報を共有する事が出来るのだ」


 何それ、無駄に便利な妹だな!


「それマヂっすか? もはやストーカーなんですが……?」


「ばっかもん! ストーカーとか言うな! これでもお前のことを心配してサンダルフォンをつけとるんだからな? 悪魔の存在を隠していることが上にバレるとこっちもただじゃ済まんのだからな?」


 メタトロン先生は何故か少し赤くなりながら膨れた。ちょっと可愛い。それはさておき、


「それを隠してくれてるのはありがたいと思うんですが……」


「マールのことだが、……聞きたいか?」


 先生の大きな翡翠色の瞳が俺を捉える。


「マールが、どうかしたんですか?」


「聞く覚悟があるかと聞いておる。お前は曲がりなりにも1年1組の担任であろ?」


「そうですけど……わ、分かりました。聞かせてくれますか?」


 俺が言うと幼女はうむと頷き立ち上がり、一呼吸おいて話し始めた。立った所で目線は俺とさほど変わらないが、そこには触れてはいけない。


「まず、マールの両親だが、そもそも両親などいない」


(……え?)


「あの子はアパートで1人暮らしをしておる。しかもそれは幼少期、幼稚園の頃からだの」


 俺は立ち上がり、思わず幼女の肩を強く掴み声を荒げた。


「な、何言ってるんすか!? そ、そんな訳ないでしょ?」


「……うっや、やめんか! 落ち着いて聞かんか!」


 メタトロン先生は掴みかかる俺の手を払いのけようとしたが、小さな身体は大きく揺さぶられフラリとバランスを崩した。そして背後のデスクに身体を打ち付けた。


「あ……す、すみません……つい。でも、それはどういうことですか? 何でそんな大事なこと、俺は知らされていないんですか?」


 先生は乱れた髪を整えながら再び話し始める。


「大天使の圧力がかかっておるからの。表向きは両親がいるということにされておるのだ。校長などの一部の者だけが真実を知っておる。

 しかし何故それを隠すか? お前ならそう思うだろ? その理由の1つはマールへの資金援助、つまり特別生活保護を受けさせてやれているのは大天使ガブリエルのおかげだからとされておる。

 そんなことが他に知れ渡るのはあまり大天使としての風評が良くないからだ。マールの両親が何故姿を消したのか……それは私にも分からんのだが、少し気になることが分かったのだ」


「気になる事?」


「うむ、身体測定の結果で分かったことだが……いや、これはまだ過程の段階だから何とも言えんのだが……彼女、天使力ルミナスの数値が異常に高いのだ……通常の何十倍……いやそれ以上の数値だ」


「それが高いと、何か悪いんですか?」


「うむ、悪い訳ではないが……このレベルの数値は、白天使アルビナに匹敵するのだ」


「……アルビナ……? あの、その話、もっと詳しく聞かせてもらえますか?」


「うむ、良いが……知った以上、私達に協力してもらうぞ? 拒否権は無し。少しでも裏切るようなことがあれば、私がお前を滅することになる。

 悪魔フォルネウス。もう一度問う。……お前に知る覚悟があるか?」


 翡翠色の大きな瞳が再び俺を捉える。

 俺は無言で頷いた。担任として、知りたい。それに、この幼女が何を企んでいるのかも。


「うちのクラスの生徒が絡んでいるのなら、このまま引っ込んではいれないでしょ」


「そうか、お前ならそう来ると思っておったぞ。ならばまず、白天使アルビナのことから話すとしようかの」


 大天使メタトロンは少しばかり嬉しそうな表情を浮かべて語り始めた。










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