11時限目【休日の悪魔】

 


 俺はずっと、勉強に明け暮れていた。

 友達と遊んだり、部活をしたり、そんな事に興味が無かった。ただ、偉大な父上に少しでも近付きたい。その一心で、ひたすら勉学に勤んだ。


 だから、

 こんな学園生活は想像すら出来なかった。



 今日も天界に朝が来た。例外なく晴天の空。魔界の空とは似ても似つかぬ、青い空。

 今日は日曜日、待ちに待った休日だ。そう、


 ——フリーダム!! で、ある!!


 そういえば天界に来てからこの学校の敷地外に殆ど出ていない。

 毎週、燃え尽きては1日を無駄にする。


 外に出る用事は、コンビニに弁当を買いに行くくらいである。天界にもコンビニあるんだな。

 もはやヘヴンズマートは俺の行きつけだ。


 たまには外の空気を吸って気分転換をしなくては。魔界へ帰る手立ても見つからないままだし、父上に合わす顔がないな。


 まさか、夢だった教師がこんなに大変な仕事だったとは、思いもしなかった。

 そんな自分の無知が歯痒い。


 寝癖を直し顔を洗い、他に服が無いのでいつものスーツを着て街に出てみる事にした。

 せめて普段着くらい買わなければいけないな。お給料、前借りしようかな……



 ☆☆☆☆☆


 天界の街も魔界と大差はない。

 普通にビルが並び、普通に商店街もある。

 一つ違うのはいつも晴天、曇りや雨の日が無いということぐらいである。雨がなくて、どうやって農作物を育てているのか、とても興味がある。今度、サハクィエル先生にでも聞いてみよう。


 彼女なら勘繰ることなく、そして優しく教えてくれるだろうし。天界の情報を探るのにはもってこいな存在だ。


 俺は歩きながら街並みを眺める。魔界の石造りの建物とは違い、真っ白で少しばかり光沢のある素材が街を彩る。


 魔界でよく見かける獣車は走っておらず、街ゆく人は皆、自らの足で歩き移動している。背中に小さな羽が生えているが、飛ぶわけではなく。


 簡単に言えば、魔界は殺伐としていて忙しないが、天界はのんびりとした空気、

 天と地の差とはよく言ったものだ。


 ——


 しばらく歩いた今、俺の眼前に堂々とそびえ立つ巨大な建物。——街で一番大きなショッピングモール、天の川モールだ。

 俺は少し立ち寄ってみる事にした。


 中は思ったより広くこのモールだけで殆どの物は買い揃えられるようになっている。

 そこら中に天使や正天使が、それに天翔てんしょうもいる。


 天翔とは、男性の天使を指す。天使と同じく卒業する事で正天翔や神官など、それぞれの役職を得ることになる。勿論、普通の職につく者もいる。

 天使は皆、天使だと思っていたが、色々と呼び方があったりで少し面倒だ。

 魔界みたいに無数の種族分けがあるわけでもないから、覚えるのは容易だが。


 それはそうと、かなり広いな。ポスターを見てみると、何やら屋上で出し物があるみたいだ。

 暇だし行ってみるか。


 ——


 これは、ヒーローショー?


『♪魔界戦隊〜デービーレンジャーッ!♪』


 チャカチャカチャン!

 ズッドォォォォォォォォン!


 ……


 禍々しい色の煙が上がって主題歌が流れ終わると、舞台の上にデビレンジャーの五人が飛び出した。子供達の歓声があがる。


 魔界のヒーローが人気あるんだな。まぁ、魔界でも天使にうつつを抜かしてる奴らがいる訳だし、これも異文化交流の一つか。


 それはそうと、子供達、——主に男の子の歓声の中から、聞き覚えのある声が聞こえる。


「わぁ、凄いっす! 本物っす!」


「な? 来て良かっただろ? この後、握手会と写真撮影もあるぞ?」


 マールとカマエルだな。本当に好きなんだな。

 ん? ガブリエル2世もちゃっかりいるじゃないか。でも明らかにつまらなさそうにベンチに座ってるな。普通はそうだよな。


「ちゃんとBlu-ray特典の半券持って来たかぁ?」


「もちろんっす! さぁ、並ぶっすよ! ガブリンも来るっすよ!」


「う〜、これが終わったら他の場所も回るの〜っ! 早くするの〜! なのーーっ」


 ガブリエルよ。そんなに嫌なら今日ぐらいマールと別行動すれば良かろうに。


 マールとカマエルが戦隊好き過ぎるのもあるが、ガブリエル2世はマールが好き過ぎるだろ。仲が良いのはいいが。


 ——? その時だった。微かにだが、背中に視線を感じた。振り返ってみたが、そこには誰もいなかった。——気のせい、か。


 ◆◆◆◆◆

 視線はいったい誰のものなのか?

 フォルネウスよ、肩の力を抜いて、今は休日を楽しむのだ! 空はこんなに晴れ渡っているのだから。

 ◆◆◆◆◆

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る