10時限目【続・ロリエル勧誘大作戦】
「これはまたこっ酷くやられたもんだの、フォルネウスよ」
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ロリエルを天使部に勧誘するための生贄となった顧問のフォルネウスは、ガブリエル2世に噛み付かれた怪我を治療するため、保健室にいた。
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座る俺の頭に背伸びをしながら包帯を巻くメタトロン先生。プルプルとつま先立ちをしながら何とか巻き終えた先生はちょこんと回転椅子に腰掛け、一息ついた。
吸い込まれそうな程大きな、そんな翡翠色のジト目が俺をまっすぐ見据える。
何度見ても、不思議な瞳だな。
「お、俺の顔に何か?」
「フォルネウスよ。お前、もしかして?」
なっ!? まさかっ、バレた?
いや、今の今までバレなかったんだ。今更バレる筈はない。
何かを確信したかのようなあの表情はいったい。まさか本当にバレたのか? 今まで普通に天使の担任してたが、よくよく考えてみると、とんでもないことだし、え、俺、どうなるの?
そんな思考を巡らせていると、メタトロンは立ち上がり、その可愛いシュシュで結ったポニーテールを揺らしながら、俺の目の前まで歩いてきては、耳元で囁いた。フワリと良い香りがしたが、今はそれどころではないよ?
「お前、包帯を巻いておる時、ドキドキしておったな?」
「え、なんすか?」
何を仰っておられるのだ?
「だから、私との距離が近くて、心拍数が上がっておっただろ? ふふ、若いから仕方ないの〜」
いいえ、断じてそれはあり得ない。
百歩譲って心拍数が上がっていたとして、それは必死過ぎる貴女の姿が危なっかしくてだよ。
メタトロン先生よ、それは、
勘違いですよ!(心の叫びbyフォルネウス2世)
「まぁ、良い。今宵のオカズにでも何でも勝手にするがいい。私は寛容だからの」
メタトロンは勝ち誇った表情で椅子に腰掛け俺に背を向けた。その小さな背中が、ドヤ、と言っているように見えた。ドヤじゃぁないよ!
それはさておき、頭の傷……もう痛まないな。やっぱ凄いんだな、ちっこいけど。
「お前、いま、私を小さいと思ったか?」
「し、失礼します! 俺はこれで!」
俺は逃げるように保健室を後にした。
☆☆☆☆☆
そして、翌朝。——運命の朝。
朝のホームルームを終えた俺は、教室の1番後ろの窓際に座るロリエルの元へ歩み寄る。ロリエルはいつものように窓の外を眺めている。
そんな俺の姿を天使部の4人が見つめる。
期待に満ち溢れた、濁りを知らないクリアな瞳は、悪魔の俺には眩しくて仕方ない。
俺が眩しさに目を細めていると、ロリエルがこちらに気付く。真っ白な髪は開いた窓から流れ込む風でフワリと靡いた。
眉をしかめてひどく憂鬱そうな表情で俺を見上げる大きな瞳は、まるで晴天の空のように透き通っては淡い紫の光を帯びる。
やるしかない。そう、これはいつかは通る道だったんだ。いつまでもロリエルを孤立させておく訳にはいかない。ここで俺が頑張れば、あとはマールが馴染ませてくれるだろう。
「おはよう、ロリエル。窓の外に何か気になるものでもあるのかい?」
俺は出来る限りの柔らかい口調で言った。
「……別に、何もない」
ぐはぁっ、ま、負けるな俺。無言じゃないだけマシなんだっ! 天才悪魔である俺の心は、これしきで砕けたりはしないのだ!
「あ、そうだ。この前はありがとな? ほら、鍵を拾ってくれてさ。シャムシエルの奴、泣いて喜んでてな」
「……」
二手目で無言キタ……不意なメンタルダメージが俺の心を貫かんとするが、そこを何とか乗り切り、俺は一気に本題を持ちかける特攻に出た!
「あ、それはそうと話があるんだけどさ?」
「先生、ちょっとうるさいかな」
ロリエルは再び窓の外を見やる。爽やかな風がそんな彼女の髪を揺らした。
俺、フォルネウス2世、完全に沈黙。
振り返ると、カマエル、マールの必殺技ショーが開かれており、誰も俺の奮闘を見ている者はいなかった。頑張ってたのに、途中で飽きるとか酷くないかい? それでも天使かーっ!!
——
「何だお前は? 怪我もしておらんのに何の用だ?」
気が付けば、保健室にいた。
心の怪我を治療してもらいたくて。
「仕方ない奴だの。まぁ、落ち着くまでそこにおればよい。私は私の仕事をするからの?」
メタトロンは少し心配そうな表情を見せデスクの上の書類を整理し始めた。
白い髪を今日も日替わりの可愛いシュシュで結んじゃってるのを見て、少しだけ心が落ち着いた。
俺の安らげる場所は、保健室の他はない。と、そんな謎の安心感が、そこにはあった。
◆◆◆◆◆
頑張れフォルネウス!
心の傷は深くとも、当たって砕ける、それが教師!
ロリエル勧誘大作戦は、新たなステージへ移行する。天使部一行は見事ロリエルの心を掴むことが出来るのか!? つづく!
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