第41話 宿命な対決?

「最近目障めざわりだったのよね、あなた」


 ナギの周りに魔力が渦巻き、様々な魔法がスタンバイされる。


「こんなところで魔王の一人に会えるにゃんて、なんてついてるのかしら」


 倉臼さんは『取寄アポート』で長剣ロングソード円形盾ラウンドシールドを喚び出し、装備する。


「ふん、獣人風情が勇者など烏滸おこがましいとは思わんか」


 闇色の槍がいくつも浮かび、倉臼さんに狙いを定める。


「辺境の魔王にゃんて、瞬殺してやるにゃあ」


 倉臼さんは身を低くして盾を構え、戦闘態勢は万全だ。

 すでに俺が直接どうにか出来る状況じゃない。


「ちょっと待てよ、二人が戦うことなんて」


『カケルは黙ってて』


 同時に言われた。


「死になさい」


 ナギの放つ魔力の槍が、倉臼さんを貫く。が、それはゆらりと消えた。幻術だろう。本気の幻術はナギにも効果があるようだ。すでに倉臼さんは高速で回り込むように移動している。


 ナギが青い炎、茨の蔦、衝撃波など次々と繰り出すが、倉臼さんは幻術、フェイントを駆使して全て回避、ナギの斜め後方から迫る。振り抜かれる刃を、魔力障壁でギリギリ防御。倉臼さんは一度下がって距離をとる。


「案外やるわね」

「あんたもにぇ。だけどあたしの故郷、聖都マーフを滅ばされた恨みは晴らさせてもらう」

「そんな田舎覚えてないわね。それよりこんなところまで追ってくるその執念は、むしろ賞賛に値するわ」

「魔王一人にそこまでするわけにゃいでしょ。バカじゃにゃいの」


 ナギの放つ魔力の槍を盾で防御しつつ、長剣を地面に突き刺してポケットから聖水の小瓶を取り出す。蓋を開けて中身を口に含むと、倉臼さんの体がふわっと光る。そして口に残った分を、持ち直した長剣に吹きかける。長剣は光り輝き、明らかに聖なる属性を帯びていた。


「ナギ気をつけろ! 聖属性でくるぞ!」

「なにそれ、ふざけてるの?」


 再び攻撃にうつった倉臼さんの動きが明らかに変わっている。残光を引きながら高速移動、しかもそれに幻術のフェイントを交え、ナギを翻弄する。ナギの攻撃はことごとくかわされていた。

 ナギの正面に迫る長剣。ナギはそれを障壁で防御しようとするが。


「避けろ!」


 俺の言葉にとっさに身を捻ってかわすナギ。

 倉臼さんの長剣は、障壁をやすやすと貫いていた。


「ちっ!」


 倉臼さんの攻撃は止まらない。さらなる連続攻撃にナギは防戦一方に追い込まれている。ナギの雰囲気が苛立ったものに変わる。これはまずいかもしれない。俺は覚悟を決めて駆け出した。


 倉臼さんの攻撃はますます回転をまし、ナギは魔力を高めてそれに対抗する。稲妻がいくつもほとばしり、闇の棺が倉臼さんを捕らえようとするが、倉臼さんはそのほとんどをかわし、一部は盾で防いだ。


 間に合わないか。


 倉臼さんがまたナギの正面まで迫る。しかしその姿は後ろから見ると半分透けている。そしてナギの背後に揺らめく気配。本命はそちらか。


 ナギが寸前でそれに気づき、振り返る。


 しかし存在が具体化したのは正面の方だった。振り返ったナギの背中に、長剣の切っ先が迫る。


 バゴンッ! と音がしてはじき飛ばされたのは、盾を割られた倉臼さんだった。


 地面を転がる倉臼さんに向けてナギが再び振り返った。


「その程度の技を使う勇者が今までいなかったとでも思ったの?」


 ナギは片手を振り上げ、魔力を集める。


「あなたは私にはかなわないのよ。力も、立場もね」

「ぐっ……」


 倉臼さんは衝撃で動けない。


「死になさい」


 ナギの手から魔法が放たれる前に、俺が駆け込む。間に合った!


「待ってナギ!」


 俺はナギと倉臼さんの間に飛び込む。


「そこをどいて、勇者を逃がすわけにはいかないわ」

「二人とも誤解している!」

「してないわよ。そのはカケルを誘惑してるんでしょ」


 俺の背後の倉臼さんも言う。


「直接の仇ではにゃいのはわかってます。それでも魔王は人類の敵です」

「そうじゃない、気がつかないか、違和感に」


 二人は少し戸惑っている。


「じゃあ聞くけど、倉臼さん、魔王って全部で何人いる?」

「魔王ですか、少なくとも二十人、新しく現れたものや倒されたものがいたら、多少差はありますけど」

「二十人……ですって?」


 ナギは信じられないようだ。


「今度はナギに聞こう。人間側と魔族側、それぞれ一番大きな国は?」

「人間の国はアメリス皇国、魔族は我がムラクモ魔王国だが、まさかそれすら知らないなんて言わないわよね」


 倉臼さんは弱々しく首を振る。


「本当に本気で言ってるの? そんな国、聞いたことない……」

「これでわかったか? 違和感の正体が」


 そう、二人がいがみ合う理由は本来ないのだ。なぜなら、


「お互い、別々の異世界の魔王と勇者なんだよ。赤の他人どころか、赤の異世界人なんだ。二人が戦う理由なんてないんだよ!」


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