第27話 出会いな魔王(回想編3)

今回、少しだけグロ系の描写があります。


ーーーーーーーーーー


 防戦一方になりながらも、なんとかしのぐナギを見ていると、突然横から声をかけられた。


「あなたは何者だ」


 横を見ると、地面に落ちているものに気づいた。

 それは人の一部に見えたが、左腕と頭しかなく、しかも顔が骸骨だ。到底生きているようには見えなかったが、他に話しかけてきそうなものはなかった。


我が君マイマスターの関係者か?」


 俺は勢いよく頷いた。それは『同じ世界の住人』という意味でだったが、彼には『ナギの血縁者』という意味に誤解していたらしい。だからこそ助かったのだが。


 よく見れば、この屋上には他にも怪我をした者や、どう見ても死体にしか見えないものがいくつも転がっていた。空を見上げれば竜のようなシルエットがいくつも飛んでいたりする。


我が君マイマスターを手助けできそうか?」

「いや、無理だよ」

「そうか」


 骸骨の表情は全く読みとれなかったが、骸骨の人が落胆したのだとわかった。突然の乱入者が微かな希望になるかとの期待が外れたのだ。


「タクミ! 今だ、行け!」


 タクミさんが短剣を手放し、ナギに掴みかかる。その背後から、雷光をまとった剣を構える戦士。その剣がタクミさんとナギをまとめて貫こうとした瞬間、タクミさんが振り返った。

 それでも、戦士の剣は二人を貫いた。

 タクミさんがなにか言った。


「……、………」


 声が小さく、俺のところまでは聞こえなかった。

 戦士が剣に力を込める寸前、あの試験管のようなものを剣にぶつけるタクミさん。手元で爆発が起こり、剣が折れた。

 戦士に向かって倒れるタクミさんが邪魔だと、戦士はもう片方の剣でタクミさんの首を切り落とした。


 そして見たのだ。


 まるで、怒りと恐怖の象徴であるかのような魔王の姿を。


 それは一瞬だった。戦士の上半身が、下半身を残して消えたのだ。


 それに驚いた魔法使いは、その背後に突如現れた鉄の処女アイアンメイデンにとらえられ、悲鳴と血液を絞り出された。


残った武道家は尻餅をついた姿勢で後ずさる。


「悪かった、俺たちが悪かった! もうしない、逆らわない! だから助けてくれ! その傷も治すから!」


 武道家が手をかざすと、ナギの胸の刺し傷がふさがった。ナギはそれを見て言った。


「じゃあ、お父さんも治してよ」


 武道家がタクミさんを見て、手をかざす。必死の形相で力を放つが、タクミさんに変化は無い。


「あ、あれはもう死んでる。死人は生き返ら」


 突然、武道家の足首から下が潰れた。


「がぁぁぁぁ!」


 自分に回復魔法をかける武道家。足はすぐに元通りになった。

 が、次の瞬間、今度は膝下までの足の骨が粉々に砕けた。


「ぐぅぅぅ」


 痛みに耐えながらまた回復するが、次は太ももから下に大量の穴が穿たれ、血が吹き出す。

 絶望の笑みでナギを見上げ、もう治さなかった。

 ナギはそれを見下ろし、なにもせず振り返った。


「お前はまだ殺さん。人類への見せしめにする」


 武道家は覚悟を決め、自爆魔法を使った。しかしなにも起こらない。


「死なさんと言ったろ?」


 本当の絶望に、気を失う武道家。

 戦いは終わった。

 ナギはお父さんの死体を見下ろし、しばらく無言でいた。と、急に俺の方に振り向いた。


「キサマ、なんのつもりで、追いかけてきた」


 荒ぶる魔力が明確な殺意を持って俺を取り巻いているのがわかった。


 確かに、俺がタクミさんを引き止め、救急車を呼んでいれば、タクミさんは死ななかったのかもしれない。実力の差を見れば、ナギも勝っていただろう。ナギを追いかけたせいで、ただ単にタクミさんが無駄に死んだように見える。

 ナギの殺意は本物だった。俺は死にたいわけじゃない。高校だって行きたいし、やりたいことはいくらでもある。しかしなぜか、彼女になら殺されてもいいと思っていた。


 でも、これだけは言わなければならない。


「俺は、君のお父さんから、伝言を託されたんだ」

「伝言? なんのことだ?」


 俺がそれを言う直前、闇から湧き出すようにして、ナギの隣に人影が現れた。それは、外国人モデルのようなイケメン青年。金髪の優男風で、ハリウッド映画で主役が張れそうだ。


「魔王ムラクモよ、無事か?」


 イケメンがナギをそう呼び、辺りを見回す。


「人間どもめ、ムラクモをここまで苦しめるとは、どんな卑劣な手を使ったんだ」

「我が父を、人質にとったのです」


 イケメンは近くに倒れた死体を見た。それは剣を折った爆発で半身が焼け焦げ、頭は切りとばされて離れたところに転がっていた。


「なんと酷いことを。奴らには情の欠片も無いのか」


 イケメンは武道家が生きているのに気づくと、手から衝撃波を放ち、その胸を潰した。

 ナギは床にくずおれてしまい、ぐっとこらえた表情。

 イケメンがしゃがんで目線を合わせ、慰めの言葉をかけている。


 俺は隣の骸骨さんに聞いた。


「骸骨さん、あいつは誰ですか?」


「あのお方は、我が君マイマスター魔王ムラクモと唯一立場を同じくする、魔王オロチ様です。失礼の無いよう、お気をつけください」


 あの二人が魔王と……魔王?


「骸骨さん、これの使い方教えてください」


 俺は手に持ったまま存在を忘れていた銃を示して言った。


「銃口から力を込めて引き金を引くだけです。ところでその骸骨さんというのは……」


 俺は骸骨さんの話の続きは聞いていなかった。魔王の力はさっき見たとおり。あのオロチってやつも同じ力を持っているなら、俺にできることは少ない。震える手で銃口を押さえる。力を込めるってなんだ? 押せばいいのか? とりあえずぎゅってしてみる。おお、なんか光ってきた。そのまま押さえ続けるとどんどん光が強くなる。しかし時間はあまりない。オロチがなにかする前に。


 オロチが、自分の髪を触るフリをして、背中からなにかを取り出す仕草。周りの人(?)たちはなんの疑問ももっていないのか、反応しない。


 俺はオロチに銃を向けた。


「ナギさん、その人から離れてください」


 二人がこちらを向く。


「あなた、それは失礼なことですよ? わかりませんか」


 骸骨さんのセリフは無視だ。


「お前は誰だ? ゴミめ」


 そう言うオロチの前に、ナギが立つ。


「なんのつもりだ」

「お父さんからの伝言です」


 いきなり本題だ。前置きする暇もない。






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