第21話 猫耳なクラスメイト

「え、えと……」


 倉臼さんが戸惑っている。


 さっきかなりらされた感あるから、できれば触ってみたい。彼女は数秒悩んで、覚悟の表情。


「わ、わかりました。あまり自信はありませんが、お手柔らかにお願いします!」


 強張こわばった気をつけの姿勢、顔はうつむきぎみで目を閉じている。そんなに緊張しなくても。


 近づいて、頭を撫でてみる。


「うわ、ホントに感覚がない」


 認識操作で隠してるってことは、実際にはここにあるはずで、それなら触ってないわけないんだけど、知ってても普通に頭の感触しかしない。


「じゃあ、これが必要だな」


 俺はポケットからメガネを取り出した。すでに曇りは取れている。それをかけると、いつもの猫耳倉臼さんになった。


「やっぱり、大きい方が好きにゃんですか?」

「別に大きさの問題じゃないんだけど、小さいのはいつも触ってるから」

「うぐっ」


 なにかにショックを受けたような倉臼さん。


「じゃあ、ゆっくり触っていくね」


 俺は後頭部の方から手をまわし、ゆっくりとそれに近づける。そのまま頭を撫でる要領で、猫耳をさらっと撫でた。


「わわっ!」


 猫耳がパタパタッと動く。


「にゃににゃににゃんにゃにょ!?」

「だから、猫耳を触るって……」

「……そっち!?」

「倉臼さんに頼むとして、他になにがあるって言うんだ?」

「だってにゃんかジッと見てたから」


 俺が他のなにを見つめていたというのか?


「いやなら、やめとこうか?」

「え? ううん、それならそっちの方がまだいい」

「別に無理強むりじいをするつもりはないからな? いやなら言ってくれよ」


 うんうんとうなずく倉臼さん。よし、これで気兼きがねねなく触れるぞ。


 もう一度後ろの方からゆっくりと、頭にそって近づける。そして、なだらかな膨らみにたどり着くと、その境界線にそって指を動かし、その存在を明確に感じ取る。


 そして手のひら全体で感触を確かめながら、すっぽりとそれを手の中におさめる。


 さらさらでふかふかな触感がたまらない。そしてなんといってもその大きさ。手のひらにジャストフィットするその存在感は、今までにない満足感で俺を満たした。


 ごるるるる。


 突然、なにかの音が響く。しかもその振動を手のひらに感じた。慌てて手をはなす。


 倉臼さんが慌てて口をおさえていた。


 こ、これはまさか、猫がリラックスしたときに喉を鳴らすやつでは!?


 そうか、俺が癒されているのと同時に倉臼さんもリラックスしているなら、もはやWIN-WINの関係。遠慮することもないな。


 倉臼さんは必死に口をおさえているけど、呼吸のたびに喉が鳴るのは止まらない。


「気持ちいいなら恥ずかしがらなくていいよ。俺も同じだから」


 猫耳がピクピクッと震える。でも恥ずかしいを我慢するのは難しいか。


「それとも、もうやめる?」


 頬を赤く上気させた倉臼さんが、上目遣いで俺を見て、首をふる。喉も鳴る。

 よし、まだ大丈夫か。でもあんまり無理してるようだったらやめよう。


「じゃあ続けるね」


 俺は再び猫耳に手を添える。


 手のひら全体で、ふかふかでふわふわなその弾力を堪能する。少しずつ力を込めてみるが、素晴らしい弾力で押し戻される。


 次にそのふちに触れ、下からなぞって上に進む。ごるるの音が一瞬強くなる。様子を確認しながらその先端まで到達する。


 その、ツンと上を向いて尖った先端が、触れるたびに柔らかく形を変える。


 世の中には、伏せるように曲がっていたり、下を向いて垂れているものもあるが、やはり張りがあってピンと立っている方が俺の好みだ。


「カケル、くん……!」


 倉臼さんの両手が、俺の脇の下から背中にまわり、肩を掴む。


 必然的に上体がさらに近寄り、猫耳が目の前に! なんというサービス精神!


 両手で両方の耳を、外側を手のひら、内側を親指で挟んでゆっくり擦るように撫でる。手の中でぷるぷると震えるその動きを受け止めるのもまた楽しい。口ではむはむ、はさすがにめとく。


 しかしこれは、ここまできたらやってしまうか? やってしまってもいいんじゃないか?


 ぐっ、ごめん倉臼さん、もう抑えきれない!


 俺は衝動のままに、猫耳の間に顔をうずめた。


 ああ、両頬に感じる柔らかく温かな膨らみ、ほのかに漂う甘い香り、顎にあたった頭から伝わる喉の鳴るごるるの振動。そのすべてが極上の逸品。至福の時。


 はぁ~、癒される。この世の全てにありがとう。


「ぁん」


 倉臼さんが声を出し、突然俺を突き飛ばした。


「もう終わり! ここまで!」


 後ろを向いて、髪と猫耳を撫でて整える倉臼さん。それさえも猫が顔を洗う仕草に似て可愛い。


 そこで気づく。


 やべ、完全に猫扱いしてたわ。


 ちょっとやり過ぎたか? しかし謝るのもなにか違う気がする。


「ありがとな、念願の夢が叶ったよ」


 振り向いた倉臼さんが、ちょっと涙目で睨む。まだ顔が赤い。


「もぅ、次はもうちょっと控えめにして」

「わるいわるい」


 あ、結局謝っちゃった。

 ん? 次? 次なんてあるのか!?


 倉臼さんが駄菓子のザルを持って会計に向かう。でもレジに誰もいないので戸惑っている。

 俺も傘とスナック菓子を一つ持っていき、レジ台にあるベルを鳴らす。チンッと音がして、「はいはい」と奥からおばさんが出てくる。二人で会計を済ませ、外へ向かう。


 もう十分時間は経っている。歩いていても見えないくらいに離れているはずだし、傘は今二本あるから見られても問題ない。


 扉を開けて外を見ると、やっぱりまだ雨は降っている。店の軒下にいくつか水滴のあとがあるところを見ると、雨宿りした人でもいたのか。空を見上げてもまだしばらくやみそうにない。


 傘立ての傘を倉臼さんに手渡し、俺は新しい傘を開く。


「帰り道、わかるか?」

「うん、大丈夫」


 彼女はそう言って傘を開き、雨の中に一歩踏み出した。


「今日はいろいろありがとう。カケルくんがいて本当に良かった」


 正直ちょっとやりすぎて嫌われたかと思ったけど、そんな不安を振り返った彼女の笑顔が溶かした。


「雨でもこんな日なら、わるくにゃいね」

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