吸血鬼界最強のフツメンだけど、今日もなんとか生きてます。

こなぴよ

第1話 はじめまして、吸血鬼のセバスチャンです。

 こんばんは。僕は吸血鬼のセバスチャン。

 歳は……言いたくないなあ。え? 心に残っている最近の出来事?

 そうだねえ、フランス革命かな。たくさんの血が街中にあふれて、まるで血液の宝石箱みたいだったよ。さすが美食の国の一大イベント、ってかんじだよね。

 なになに? 1700年代は最近じゃない? 困ったなあ。

 じゃあ、1600年の関ヶ原の……ってだめだめ、歳がばれちゃう。しかもうっかり時代逆行しちゃったし。仕方ないよね、200年くらいなんて、誤差だもの。


 というわけで、改めましてこんばんは。僕は吸血鬼のセバスチャン。

 身長186cm、白い肌に、瞳の色は鮮血のような赤。

 趣味はスペインバル巡りだよ。赤ワインを飲む振りをして、血を飲んでもばれにくいしね。じつはこの間、ばれて持ち込み料とられちゃったんだけど。結構高かったなあ。

 良ければ今度、一緒にどうかな?


 ……いいの、本当に⁉︎

 わあい、うれしいな。

 ん? その前に顔送って?

 わかったよ。じつは僕、いま、君の部屋の窓の外にいるんだ。

 ちょっと、開けてくれないかな……? お願い。



「こんばんは。僕が吸血鬼のセバスチャンだよ」

「キャー! 変質者よー‼︎」

「待って待って、しおりちゃん、僕がさっきまでやり取りしてた……」

「なにが吸血鬼よ、この嘘つき!」

「本当だよ。試しに証明してみせよう。大丈夫。成分献血より痛くないよ」

「だって……だって……」

 

 しおりちゃん(19歳Dカップ/自己申告)の言葉にタメ・・が入る。

 次にくる言葉はもうわかっている。人間の思考は実に単純で読みやすい。


「そんな不細工な吸血鬼がいるわけないでしょ、この変態!」


 ぴしゃり、と音を立ててしおりちゃんは窓を閉めてしまった。

 深夜の住宅街のベランダに、僕は一人取り残された。

 こんなガラス窓、突き破ろうと思えばいつでもできるし、少女一人ねじ伏せるのなんて、造作もないことだ。だけど僕はしない。『招かれなければ、家へは入ることができない』という誰が作り上げたかは知らないが、フィクションの吸血鬼のイメージを損なってしまうからね。ある程度の残忍さがありながらも、それがどこか許容されてしまうのは、僕たち本物の吸血鬼が期待されている“紳士性”を守り続けているからだと思っている。


 吸血鬼に期待される紳士性。それは。

 礼儀正しくあること。始祖にはじまった上位の存在を敬い、眷属には面倒見よく。

 神秘的な存在であること。まあ、最近はネット社会の発達にともないある程度のフレンドリーさがないと血液獲得競争を生き抜いてゆけないのだが、闇に生きる心を忘れないこと。


 そして、最後が一番重要だ。


“ピコン♪”


 おっと。スマホの通知だ。誰からだろう?

 ……しおりちゃんだ。


『その顔で吸血鬼なんてほんと笑える。鏡見て出直せば?』


 そうなんです。

 紳士というのは、イケメンでなくてはいけないのです。

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