第19話 少年と少女、ドキドキの夕暮れ
なかなか止まない雨の中を、食堂のおばちゃんが、長いコウモリ傘と紙の手提げ袋を手に、いそいそと小屋の中までやってきた。
「済まなかったねえ、こんな仕事頼んだばっかりに、寒い思いさせて」
下着姿の背中を見せた友愛が、ちらりと振り向く。
それを見るまいとするかように、応がとんでもないという顔をおばちゃんに向けながら、首を横に振った。
「もっと早く来ればよかったんです。晴れてるうちに」
おばちゃんは、応の肩の向こうに目を遣る。
恥ずかしそうに会釈する友愛を眺めて、意味深に言った。
「若い人にはいろいろあるのが当り前さね」
友愛も応も、あたふたと言い訳する。
「何にも、何にもないです!」
それは、ずっとそばについていた猫が保証する。
おばちゃんは豪快に呵々大笑すると、手提げの中をごそごそやりながら言った。
「急いで着替えな、風邪ひかないうちに」
そこで差し出したのが、ちょっと地味目な男女の服である。
高校生が着るには、ちょっと渋すぎるデザインだった。
おばちゃんが、きまり悪そうに言う。
「旦那とアタシの服じゃ、イヤだろうけどさ」
応はすぐさま男物の服を受け取ったが、それを抱えたまま動かなかった。
着替えの最中に、誤って友愛の姿を見てしまわないようにという配慮だ察したのか、友愛に服を渡すと早く着替えるよう急かして、また意味深なことを言った。
「悪いが、お嬢ちゃんの可愛いあの傘、貸しとくれ。差すようなトシじゃあないが、アンタたちが2人で入るにゃ小さすぎるからね。旦那のデカいコウモリで、家まで来な……風呂は沸かしてあるよ」
応が、ますます小さくなりながら、おばちゃんにお礼を言う。
「すみません、そんなことまで……」
おばちゃんはカラカラと笑った。
応の後ろに歩み寄って、背中を叩く。
「ほら、お嬢ちゃん服着たから、応くんも。濡れたのが乾くまで、風呂入って休んでなさいな」
だが、高校生2人の服は夕方までかかっても、なかなか乾かなかった。
その間、応も友愛も、お互い気まずそうに、背中を向け合って正座する羽目になっていた。
「……見たん? うちの……」
ぼそりと友愛が聞く。
応は大きく首を横に振った。
「見てない、たぶん……いや、絶対」
こうなるのも無理はない。
デリカシーがあるのかないのか分からないおばちゃんは、男をともかく女の子の身体を冷やすなと、友愛を先に風呂へ入れてしまったのである。
おかげでその後、応はたいへんな思いをしたようだった。
猫は風呂場に入ることなどできないが、その外から聞こえた呻きや湯の音で、察しはつく。
応は洗面所に干された友愛の下着に息を呑み、少女の浸かった後の湯に身体をすくめる羽目になったらしい。
そんな後でも、着られるようになったのは、せいぜい応の下着くらいだった。
友愛の下着がまだ湿っているのに気付いたおばちゃんは慌てて、外へ飛び出していく。
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