カプチーノ

エリー.ファー

カプチーノ

 貴方のことを本当に好きで好きでしかたないけれど。

 それを言葉にするのだけは躊躇われる。

 そんな午後。

 それを過ごしてしまったからこそ今になって立ち上がることができないの。

 どんな形でも、貴方と手を繋ぐ夢を見たいの。

 見ることができないなら、夢からさめて手を繋ぎたいの。

 他の誰でもなく貴方がいいの。

 少しだけの勘違いを重ねると、不思議と手触りを思い出せるの。

 自分のことじゃなくて。

 誰かのことを想う度に。

 強くなれるような気がするように教育されたから。

 今更、この生き方を変えられるわけもないから。

 そうやって毎年、毎月、毎日言い訳してここまできてしまった。

 そんな。

 そんなあたしだから。

 上手く生きていきたいの、上手いよりも、上手が似合う女の子になりたいの。

 ううん。

 なりたかったの。

 あたし。

 変に器用になって、変に真面目になったから、あんまり幸福に嫌われちゃうこともあるけれど。

 あたし。

 負けないの。

 絶対に。

 負けないの。

 どんなことにも必死になれることが取り柄で夢を追いかけてる。

 皆と一緒のところにいるけれど遠くを眺めてる。

 不思議だって言われるところもあるけど、本当は色々考えてる。

 でも、もしかしたら皆よりは考えてないかも。

 大事にしたいことが多すぎて嘘をつくこともあるけれど。

 そういうことをしてもみんなは許してくれる。

 それは嬉しいけれど、同時に寂しくもあるの。

 まるで自分のことを誰も理解してくれていないみたい。

 特別扱いしてくれないみたい。

 とにかく寂しくて壊れてしまいそうなの。

 本当に、あと少し。

 本当に、あと少しで成長できるの。

 そうしたらどんなこともちゃんとわかるようになるし、どんなことも自分からできるようになるの。

 だから。

 本当に、あと少し。

 本当に、あと少しだけ待って。

 成長してみせると言いたい。

 たぶん、言葉は届かないままかもしれないけれど。

 もう少しだけお願い。

 もう少しだけ期待してほしいの。

 ちょっと憂鬱になって自分から遠ざけてしまうこともあるけど。

 絶対に見捨てないで。

 見捨ててほしくないからこうやって口を悪くしているの。

 おねがい。

 お願いだから見捨てないで。

 私からあなたを見捨てるまであなたは私を見捨てないで。

 仄かに香るのは煙草かカプチーノ。

 ミミズみたいな光の中を歩いていける女の子たちもあたしとは違うと思ってる。

 本当はみんな同じなの。

 みんな同じ女の子なの。

 だから、あと少し。

 あと少しだけ待って。

 本当に、あと少しだけ。

 お願い。

 忘れられないような思い出をいっぱい作らせてあげるから。

 お願い。

 幸せが欲しいの。

 安定してて、他の人から羨ましがられる幸せが欲しいの。

 本当。

 嘘じゃない。

 本当に幸せになりたいの。

 幸せになりたくないみたいな感じの雰囲気を出しててごめんなさい。

 違うの。

 本当は幸せになりたいの。

 幸せになりたいから、さっきからずっと嘘ばかりついてるの。

 本当は待ってほしいなんて思ってないの。

 連れてって欲しいの。

 一番楽だから連れて行って欲しいの。



「そういう女の子が好きなんでしょ、みたいな感じのちょっと病んでる風の女の子のふりをしながら、それでも女の子っていう性別に囚われながらも前向きに生きる女の子みたいな空気を出しつつ、女の子として強く生きているけれど敵は多いの、でも頑張っちゃうの的な風を装う系の醸し出すみたいな空気感と雰囲気纏ってるみたいなありがちでしょう系的なの。分かるでしょ。」

「分かる分かる。分かったから早く寝ようよ。」

「女の子に生まれたかったなあ。」

「女の子じゃん、あんた。」

「もう、全部消費しちゃったよ。」

 

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