第95話 村に戻ってエルフの仲間たちに密貿易について説明しよう!

 村に帰った颯太そうたは早速農協シンジケートの理事たちを集めて今後の行動指針について話し合うことにした。


「……って訳でね。ドラゴンと密貿易をしようと思う」

「はぁ~馬鹿じゃねえの~??」


 アッサムはしわだらけの顔を歪めて悲鳴を上げた。


「あいつらが金なんて払うのかい?」


 マリエルも同じように小じわの目立つ顔をしかめて嫌そうな表情だ。


「はい! 反対反対! あいつらソウタさらったし!」


 アヤヒはムスッとした顔だ。


「お待ち下さい皆様! マスターの言うことは常に正しいので竜との貿易もまた正しいんですよ!? きっとなにか深いお考えがあってのこと! フィルはわかっておりますよ! あ、ヌイパイセンもしらんけど賛成って言ってました!」


 フィルは小さな体をピョコピョコさせて大賛成である。

 なおアスギは商売の話が分からないし、ヌイは盗み聞きをされないように見張りをしているので会議には出席していない。

 ――まあいきなり竜と密貿易って言っても訳わからねえよな。

 ――逆を言えばヌイとフィルは俺が何を言っても絶対に乗ってくれる訳だが。


「まず俺は竜と会話ができるんだよ」

「会話だぁ? あいつら、言葉も通じないやばい連中ばっかじゃねえのか?」

「それについては竜の村で聞いてきた。確かにアッサムさんの言う通りそういう連中がいる」

「村!?」

「あいつらにも村や国があって、俺やアッサムさんみたいにそれを治める個体が居るんですよ」


 アッサムはあごひげを指でいじりながら唸った。それからため息をついて。


「聞かせてみせろ」


 とだけ言った。


「アッサムさんたちが知っている竜の爪って何本?」

「三本だ。竜の爪は三本と決まっている」

「三本爪の竜は、モンスターたちに近い。本能的に行動して、直感で魔力を操作し、獲物と見れば見境なしだ」

「俺たちが知らない竜が居るのか」

「三本爪を手足のように操る四本爪の竜が居た。あいつらは三本爪の竜を手足のように扱って獲物や土地を奪い合っているんだ」


 ああ、とマリエルが呟いた。

 納得した顔だ。


「おとぎ話だけどねぇ。あたしら遊人ハーフリングの運び屋の間では、竜に大将が居るんじゃないかとは言われていた。そうでないと説明がつかない行動がいくつか見られていたからね」

「話が早いなマリエルさん。そういうことだ」

「あいつらは三本爪を操って何をしていたんだい」

「資源の収集と戦争。竜社会は戦争社会。四本爪同士が争い合って、五本爪の竜になることを目指しているのだとか」

「権力闘争はどこも変わらず、か」

「ええ、なので」


 颯太そうたはアヤヒと目を合わせる。


「彼らと取引をする。人間以外の種族が暮らせる場所を作る為に、未踏地の広大な土地を貰い受ける。開拓地だ」

「それってさ……エルフの国?」

「そうだな。俺が居ない間、ウンガヨが話していたんじゃないか?」


 アヤヒは頷く。


「確かにウンガヨおじさんはエルフの国を作るって言っていた」

「俺とウンガヨさんの目的は半分近くは一致している。俺は人間が他の人族を迫害しない社会の構築、ウンガヨさんはエルフが王となる国。逆に俺はエルフが他の人族を迫害したらそれを止めるし、ウンガヨさんはそうなっても気にしない。それは分かるな?」


 アヤヒは少しだけ困った顔をして黙り込んだ。

 隣でアッサムが鋭い眼光で颯太そうたを睨む。


「ウンガヨさんが欲しがっているエルフは、エルフの中でも一握りだ」

「やはり詳しいですね」

「そりゃあそうだ。あの人には随分可愛がってもらった。俺は村を捨てられなかったから、あの人と一緒に行動はできなかったけどな」


 アヤヒがびっくりした声を上げた。


「そうなの!? じゃあ祖父じいさまがウンガヨさんについていったら私も母様も王都に近いウンガヨさんのエルフ自治領で楽な暮らしができたんじゃ……」


 と言いかけてからアヤヒは自分の口を塞ぐ。


「い、いや、べつに村の皆がどうでもいい訳じゃないんだけど、ちょっとこう、羨ましいかもな~って思っちゃっただけで……」


 颯太そうたはポンポンとアヤヒの頭を撫でた。

 ――よしよし、都会に憧れるお年頃だもんな。

 アヤヒは俯いておとなしくなった。


「将来的に買い取った土地にウンガヨさんのエルフ自治領みたいなものを作る。エルフ、ドワーフ、ハーフリング、人間も含めて、今の社会に居場所がない全ての人族にとって逃げ込む場所を作るんだ」


 そう言ってからこの場で唯一の遊人ハーフリングのマリエルの方を見る。

 マリエルは肩をすくめた。


「あたしゃ遊人ハーフリングに政治なんて無理だと思うけどね。あたし自身が遊人ハーフリングだからこそさ」

「まあ無理ならまた方法を考えるよ」

「気持ちだけは受け取っておいてやるよ、甘ったれの村長ボーイ

「ねーねー、それがソウタの言う差別をなくすことになるの?」

「アヤヒちゃんや、差別は無くならんよ」

「駄目じゃんソウタ!」

「駄目とか言うなよ。考えがあるんだ」

「そうさ。村長さまの言うことは一理ある。違う種族が一緒に生きていれば軋轢なんて絶対に生まれる。だったらエルフが強い場所、ドワーフが強い場所、ハーフリングが強い場所、それぞれ作っておけば良い。そしたら、今の人間の社会みたいなやりすぎが発生しても、他所から睨まれるからね」


 颯太そうたはマリエルの言葉に頷いた。

 ――俺が言いたいこと、大体言ってもらっちゃったな。

 それを聞いたフィルもパーッと笑顔になった。


「さすがマスター! そのお考えの為に広大な土地を必要としていた訳ですね! 確かに人間の王国から土地を奪って他の種族の自治領にすれば、それはただの征服行為ですからね! それではサンジェルマン野郎が我々にやろうとしたこととそう変わりません」

「そうそう。なので未踏地、なので竜との協力が必要なんだ。密貿易をして、竜同士の土地の切り取りのおこぼれに預かる為にな」

「……いつのまにか密貿易の話に戻っちゃったねえ」

「理屈は分かっただろ? この土地の領主たる聖女様は人と竜の戦争が回避できるなら何でも良いと思っている。その間に、俺たちはこっそり独自の地盤を固めて、人間の国家からの離脱に備える。どうだ、分かってもらえたか?」


 と、言いながら颯太そうたは居並ぶ理事の面々を見回した。

 アッサムも、マリエルも、アヤヒも、フィルも、全員が頷いた。


「じゃあ、現実的な段取りを考えていこうか。フィル、スライドを投映してくれ」


 フィルの目からビームが出て、空中に資料映像が映し出された。

 それは颯太そうたたち村から未踏地にある白竜の村へのルートを指し示す地図だ。


「空路、陸路を併用して、阿片を卸す。支払いは銀だ。銀山の採掘権を貰えるって話だ。俺たちの商売を少しずつ麻薬以外にシフトさせる為の第二歩目だ。やるぞ」


 颯太そうたは力強く宣言した。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る