第90話 竜の村でピンチの莨谷先生を女領主様《ストーカー》が助けに来てくれるようです
「……さて、牢屋の中は二度目だが」
「エルフの村の牢屋と違って随分豪華だな」
ベルベットの赤いソファーに腰掛けて、紅茶を飲んでため息をつく。
部屋の中はとにかく綺麗だった。香木を焚いているのか、ほのかに良い香りまでしてくる。何もかも違う。
「お前は人間でも奴隷ではなくて大事な人質だ。折角用意させた部屋を牢屋呼ばわりとは、少々悲しいところだな」
窓の外から彼をここまで連れてきた白竜が顔を出す。相変わらず楽しそうなニヤニヤ顔だ。
「奴隷も居るのか」
「当たり前だ。竜は人を攫うものだからな」
「言葉も通じないなら不便だろうに」
「魔法で自我を奪って手足にすれば良い。まあ偶に美しい人の雌が居ると入れ込んでしまう困った
「分かる。言葉には多少覚えがある」
――他人の、他竜の趣味を馬鹿にするなんて気に食わねえな。
――んなもん人の勝手だろうが。
大好きな煙草が無いのも気分が良くない。
「ならば良い。今の若い竜は人に興味津々らしくてな。品質の良い人族は高値がつく。とくにお前のような言葉の分かる人間はな」
「大麻が来なければ売り飛ばそうってか?」
「いや、違う」
「じゃあ……」
「うちの娘たちがな」
――むすめ、たち?
それは、と
「お前たちに会ってみたいと大騒ぎして仕方ない。人間と遊んでみたいのだそうだ」
「えっ」
「もうすぐそちらの部屋に行く筈だから、くれぐれも機嫌を損ねないように」
そう言い終えると、窓の外の竜は翼を開いて飛び立つ。
窓の外には竜の村の風景が広がっていた。
巨大な城のようなものがいくつか立ち並んでおり、竜が時折飛び交って、吠え声が聞こえてくる。
二足歩行の竜が遠くでテーブルを囲んで酒を酌み交わしており、なかなか非日常的な光景が広がっていた。
「いったいどこから……」
「人間だ!」
「人間カワイイ!」
「ちっちゃーい!!!!」
一人目は小さな女の子だった。黒い肌に銀の髪。
二人目はお姉さんだった。人間にそっくりな姿で、糸のように細い目だがとても楽しそうな顔をしているのが分かる。
三人目は
見た目は違うがいずれも幼い口調の三人の女性が部屋に飛び込んできた。
「君たちは……」
「喋った!」
「喋ったカワイイ!」
「思ったより落ち着いてるのね。早速観察しましょう!」
――娘、ってこいつらか。
人の姿に化けた三人の竜たちは、戸惑う颯太に一斉に飛びかかった。
「まずは服を脱がせましょう!」
「了解!」
「そりゃ行けーっ!」
瞳を輝かせる女たちの腕に掴まれ、
*
三時間後。
「汚された……」
最初に着ていた防寒着のコートやセーターはすぐに引っ剥がされ、暖かなお湯で身体を洗われたかと思えば、すぐに着せ替えショーが始まった。
竜に人の文化はあんまり分からぬ。
故に、愚かなる人の子がペットの犬に「キャワイイ~!」とでも言うような感覚で、似合わない女性向けの服を次々と着せられた。
サイズが合わなければ魔法で服のサイズを調整し、とにかくとっかえひっかえである。
「くっ……」
そしてこんな状況だったが、正直、
「俺は裸を見せつける趣味なんてないのに……」
ギリギリのところでエッチな展開にならないように必死で自らを律したが、律しただけだ。
――正直ちょっと、いやすごくドキドキしていた。
身体は守れても心までは守れなかった。
「趣味なんて、ないのに……!」
ある。三時間の徹底した辱めによって発生した。
――恐ろしい連中だった。
とはいえ、人に化けた雌竜三人によってたかってもみくちゃにされてしまえば、無理も無いというものかもしれない。
「俺、汚されちゃったよ」
「大丈夫ですよ先生」
「ヒンッ!?」
「動かないで。そのまま気づかないふりをしながら会話を続けてください
ベッドの下から女の声が聞こえた。
聞き覚えがある。
「……カレンか?」
「女神様から先生がピンチだと知らされ、助けに参りました」
「何時から居た?」
「先生があの薄汚い
まるまる三時間以上、ベッドの下に居た計算となる。
「どうしてそういうことするの……」
「先生、辛かったですよね。すぐにお慰めして差し上げます」
「助けてくれるってことでいいんだよね?」
「はい、女神様が瞬間移動装置を貸してくださいました。ついでにこの下等生物どもの城破壊していきませんか? 見せて差し上げますよ聖女の剣技。全身にみなぎる女神の加護で肉体を強化し、魔法の力を純粋な破壊力に変える古代剣技、メガミストラッシュというものがあって」
「誰だよそんな名前遺したの」
「サンジェルマンだそうです」
「あいつかよ」
「城は壊さないのですか?」
「この後の交渉に差し支えるからやめて」
「それ、お願いです?」
「お願いです。やめてください領主様、竜と戦争はやめましょう」
「カレンでいいですよ。じゃあ逃げますね」
ベッドの下から軍服姿のカレンがのそのそと這い出してきた。
領主にあるまじき行動である。
「あら先生、全裸」
「あいつら着替えを置いてってくれなかったんだもん! 空調効いてるから寒くないけど!」
「ふふ、意外と貧弱な身体ですね。でも良いですよ。騎士どものゴリマッチョボディは正直好みではないので……なんか怖いから……」
「やめろー! 近づくなーっ! 怖い! やめろーっ!」
「ほらほら騒がない騒がない」
カレンはシーツを引き剥がすと、片腕で
そして軍服のポケットから
「な、何をする気だ。おまえっ、せめて、尊厳を……俺の……」
「このアイテム、サンジェルマンの発明品なのですが、座標設定が難しいので私の城にしか戻れません。そして今、先生は全裸です。私が先生の衣食住を握ることになると言っても過言ではありません」
「えっと、それは、その」
「大変だったでしょう。今晩は私のところでゆっくり身体を休めて、それから明日のことは考えましょうね❤ 明日? いえいえ、そのさき、将来とか……勿論国のことだけじゃありませんよ」
カレンは
空間が、視界が、歪んでいき、気づくと
――タスケテ、レン、タスケテ。
一番怖いのは人間。
「お話しましょうか、私たちのこと」
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