異世界麻薬王~元化学教師が耐毒スキルと科学知識で迫害されたエルフを救い麻王-まおう-となる~
第66話 聖女な女子高生の私が大好きな先生の後を追ってトラックに飛び込んだら本物の聖女様になっちゃいました!
第66話 聖女な女子高生の私が大好きな先生の後を追ってトラックに飛び込んだら本物の聖女様になっちゃいました!
サンジェルマンは生首のみの姿で自らの城の、治療用ポッドの中へと戻った。
「やはり、やはり……素晴らしい。よくやってくれました莨谷先生。私に奥の手の
生首だけになった彼は場内の作業用アームによって、首以外の揃った予備の肉体を装着した。術理は単純、錬金術により培養した医療用万能細胞を用いて、まるでハンダ付けのように生首と予備の肉体を接着するだけだ。
「ああ……嬉しいなあ……僕一人で全部やる以上の答えを出しうる人類が現れるなんて。やはり人間は可能性に満ちている。多分僕があのエルフの小娘を相手している間に他の部下を即座に招集、作戦を共有して、ぶっつけ本番で連携しながら首を狙ったんだ。現地人をあそこまで上手く使いこなすなんて、すごいなあ、良いなあ」
感傷に浸っていると、医療用ポッドが開き、完全復活した肉体でサンジェルマンは再びこの世界へ降り立つ。全裸だ。
「サンジェルマン様、おかえりなさいませ」
「お客様がお見えです。緊急のご用事だと」
「ふむ、客?」
「聖女様です。今すぐお会いしたいと」
「……さて、どうしたものでしょう。聖女か。聖女を門前払いは政治的にも貴族社会的にもちょ~っと不味いですねえ」
サンジェルマンは彼らを伴って歩き始める。流石に切り札の
「いかがなさいますか伯爵」
「今は失礼のないように客間にてお待ちいただいております」
「紅茶もお出ししました」
――もう通してしまっていたか。
サンジェルマンは渋い顔をする。
「そうですね……お会いしましょう。何をするつもりか分かりませんが……」
「ではそのようにお伝えします」
白い髪の少年がトコトコと駆けていく。サンジェルマンは、残された黒髪の少年の耳元に口を近づけ、唇が触れるか触れないかの距離で囁く。
「量産型フィルシリーズを起動させておきなさい」
「十三兵器はいかがいたしましょうか?」
「あれは過剰火力です。
「かしこまりました」
――負けは認めましたが、負けたままでいるのも悔しいですからね。
――欲張ったらドボンですよ、先生。
サンジェルマンはクスクスと笑う。
「さあ、聖女様。あなたは僕をどれほど楽しませてくれますかね」
そして静かにつぶやいた。
*
サンジェルマンが客間の扉を開けると、女が紅茶を傾けていた。
「サンジェルマン伯爵。王都教会騎士団からあなたへ、人間を用いた実験、違法な奴隷売買に関する容疑がかかっております。取り調べの為に騎士団の駐屯所まで同行をお願いしに伺いました」
王都の聖女、カレン・ロードスターだ。
青みがかった黒い髪。同じ色の瞳。そして白磁のように透き通る肌。軍服の下からでも分かる整った体つきも含めて、良い意味で衆目を集める為に生まれたような見た目の女性であった。
「……おやおや、聖女様ですか」
――面倒な女がつまらない話で来たものだ。
――治安維持が聞いて呆れる。今回は、何処の貴族に踊らされているやら。
落胆を腹の底に隠しながら、サンジェルマンは作り笑いを浮かべる。
「聖女という呼び方は好みません。私は、王都の治安を司る教会騎士団の団長、カレン・ロードスターとしてこの場に居ます」
キリッとした顔立ちで、軍服に身を包み堂々と背を伸ばす姿は、聖女というよりも憲兵という趣が強い。聖女らしい装飾品と言えば、胸に大きく輝く十字架の勲章くらいなものだ。
「では団長様。そちらの十字架が何故神のシンボルとして使われているかご存知でしょうか」
「ジャンヌ様がこのデザインを信仰のシンボルとしてお使いになったと学びました」
「そのとおりです。建国の祖たるジャンヌ様の子孫ともあろう方が、この国に忠義を誓い代々王家に仕えたこの僕を逮捕すると? ジャンヌ様の無二の親友であった女神に呼ばれ、力無き人間が野蛮な亜人や幻獣を打ち払う魔法を授けた僕を、逮捕すると? 単騎にて巨龍を討ち取り、未開拓地域から竜人族の侵略を退けた救国の大英雄を逮捕すると?」
「はい。あなたを法の裁きにかける証拠は揃っており、逮捕令状も準備が進んでおります。あなたを目障りに思う貴族は多かったものですから。サンジェルマン伯爵の十三兵器はいずれも国が接収します」
――うっわ~! くだらない人間同士の政争ですか! 莨谷先生とのバトルの余韻に水を差されてしまいました。
サンジェルマンはわざとらしく溜息をついて、がっくりと項垂れる。
――少し脅してから帰ってもらうとしよう。
「逮捕、できると思っているんですか? ロードスター家、辺境伯であらせられた伯父上の抱えていたいくつもの不正な税務処理や国家反逆の証拠を握っています。僕がその気になればあなたやお友だちの皆様の家こそ、王の名の下に法の裁きを受けることになりますが」
「だとしても、私にやましいところはありません。私は治安維持を担う騎士団の一員として、あなたを裁きます」
「あなたが無いと
「無意味です。今からあなたを連行し、外部と連絡の取れない場所で拘束させていただきますので」
そこまで来たところで、サンジェルマンは耐えきれずに笑い出す。
「ふはっ、君が、僕を。聖女様、たしかにあなたは優れた治療魔法の使い手であり、国内でも屈指の剣士であらせられる。でもそれだけだ。今この場で僕を連行して拘束する力は無い。辺境伯を亡くした今、政治力もろくにないでしょう」
「いいえ、聖女として旧辺境伯領の領主代行に任ぜられる事が決まっています。貴方を逮捕した功績を以て、そのようになります」
――治安維持の為に軍も派遣せず、今頃になって領主代行の内定! 遅い! 遅すぎる! もう
サンジェルマンの笑いは止まらない。
「王国も終わりですね」
「女の身で領主代行は無理だと?」
「性別と能力は無関係です。あなたは優秀ですよ。今この場で僕をとっ捕まえるのが無理というだけです」
「お言葉、感謝いたしますわ。けれども貴方一人を封じるくらいならば」
そう言いながら、カレンが抜き放った金色の魔剣を見て、サンジェルマンは真顔になる。
「嘘だろぉ!?」
「――かくも容易い」
次の瞬間、サンジェルマンの全身からは力が抜け、指一本動かせなくなった。『不老』の
「な、な、なんで……?」
「女神レン様から伝言です」
――伝言? 女神から? それは、つまり。
その言葉で、サンジェルマンは今の自分が置かれている状況を速やかに理解した。
――嵌められた……?
「女神から? 伝言? あなたが? いくら聖女であっても、この世界の人間が女神と直接話すなんて……!」
などと言いながら、サンジェルマンはたった一つの例外の可能性に既に至っていた。
――まさか、僕と同じ、異世界の出身者……?
その問を口にする前に、聖女は女神からの伝言を伝える。
「ええと……『カレンちゃん、親御さんが私の名前にあやかって名付けたんですって~! 可愛いわよね~! でもその子、前世からカレンって名前だったのよ。縁を感じるわよね~』だそうです」
そう、まさにその例外だった。
そしてその結論から、サンジェルマンは推測する。
「いえ、ですが、待ちなさい。異世界から来た人間が居るなどと、僕の耳には入っていない。いやそもそも、あなたが異世界から来たなら、なぜ貴族の娘になどなっている……!? なぜ今まで動きを見せなかった……?」
――なぜ今なんだ? 莨谷先生しか得しない。ありえない。この女がその気になればもっと美味しい汁をすすれた。莨谷先生の為だけに異世界から来て、今まで潜む? いや、そんな馬鹿な。何故そんなことを。わざわざ別の世界からやってきておいて、他人の為だけに行動することなんてあるか?
サンジェルマンには理解できない。自らがその逸脱性を以て女神に召し上げられた異世界転移者である故に、凡庸で無力な一般人だった異世界転生者の女が考えることなど、さっぱり分からない。
「はい、申し遅れました。私の前世の名前は烏丸カレン。
「他人の為に生きるのって虚しくないですか?」
カレンは無言でサンジェルマンの頬に右ストレートを入れた。
「おごっ!?」
拳の衝撃は流体金属装甲を埋め込んでいないサンジェルマンの頭蓋を浸透し、容易に脳震盪を起こす。
「あら、新しいボディにはまだ鎧を仕込んでなかったのですね。本当に女神様の言う通り……えっと、これ先生の作戦なんだったかしら。まあいいわ」
そして無抵抗のサンジェルマンに手錠をかけ、魔術を封じる口枷も嵌める。
「また一つ、先生を喜ばせてしまいましたね……!」
サンジェルマン伯爵の逮捕と領地・財産の没収が決定されたという報道が王都を駆け巡ったのは、その翌日のことだった。
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