第51話 水車とカジノの準備の為にドワーフの村へ行こう!

 翌日、颯太そうたが水車小屋の稼働状況を確認に来た時のことだ。

 汗をかいたので軽く水浴びをしていた颯太そうたの背中を見て、フィルは不思議そうに首を傾げた。


「マスターの背中、やたら引っかき傷ありませんか? もしや宴会の最中に反抗的な村人にやられたのですか? 処刑します? 処刑しちゃいます?」


 颯太そうたは慌てて服を着た。


「違う」


 その様子を見てフィルは更に首をかしげた。


「むむ、ではヌイ先輩に身辺警護を強化すべきと提案してまいります」

「不要だ」


 ――それは、マジで、やめて。

 フィルはますます不思議そうに首を傾げるばかりだった。


「そんなことよりも水車は順調に動いてるな」

「へ? は、はい! 万事順調です! もう少し大規模な水車を作ったり、風車を作ることもできるでしょう」

「エルフは風車の整備を放置して火事とか起こしそうだろ」

「はい! 彼らに機械の整備は難しいのではないかと! 水車ももう少し巨大な施設になったら製粉過程で小火ぼや騒ぎを起こすのではないかと推測しています!」


 フィルの屈託ない笑みと悪意無き差別的発言エルフスピーチに、颯太そうたは思わず頭を抱えた。

 ――とはいえ、こいつも俺と同じ意見にたどり着いているだけマシか。


「解決策はあるか?」

「少しずつ習熟訓練をしていこうとはおもっておりますが……ぶっちゃけ安全装置をつけるのが一番速いかと。ヒューマンエラーは絶対に起きます」

「サンジェルマンってそういう機械化得意だよな」

「サンジェルマン伯爵であれば容易に作り出しますが……素直にそのような協力をしてくれるでしょうか」

「頼りたくねえな。なんか良い知恵無いかフィル」


 フィルはしばらく考え込む。

 それから表情をパッと輝かせた。


「小屋を燃える素材で作るから問題が起きるのです! 今は木材を用いて歯車、カム、その他諸々を製造しておりますが、ここは耐火性と強度を鑑みて金属を使うべきではないかと……」

「良いアイディアだ。それで行こう」

「やったー! どこから金属手に入れましょう?」

「ドワーフの鉱山を覗いてみるさ。そのうちデカイ取引もするし、地理的にもそれほど遠くはない。ちょっと覗くぐらいなら良いだろう」

「そうね、それは良いアイディアだわ」


 突然、背後からの声と同時に、颯太そうたの背中と服の間に冷たい腕が差し込まれる。


「……レン、あまり驚かせるな」

「あっ、出ましたね暗黒の破壊女神!」


 颯太そうたの背後から、彼に身を寄せる派手な格好をした赤い髪の女。この世界の管理運行を司る女神“赤の女王レッドクイーン”である。


「久しぶりねえ二人共。ドワーフの鉱山に行くのは良いけど、あんた一人で行くつもり? あたし、ついて行ってあげましょっか?」


 などと言いながら、女神は颯太そうたの背中に爪を立てる。


「むっ、そんな事を言いながらマスターの背中に何をするつもりですか!」

「これはねえフィルちゃん。上書きしてるのよ、分かる?」

「ついていくだかなんだか知らんがお前には聞いてないんだよな……」

「あ・な・たねえ~! 私に寂しい思いさせる気!?」


 颯太そうたの背中に突き立てられた爪に力が籠もる。

 思わず悲鳴を漏らしそうになったが、ギリギリのところで堪えた。

 ――この女、後で見てろ……!


「むむっ! マスター! 処刑許可を!」

「不要だ」

「残念だったわねぇ~私たち~相思相愛なの~」


 女神は颯太そうたの肩に顎を乗せてニヤニヤ笑う。


「クッ! おのれ……マスターに取り憑く邪女神め……!」


 ――邪悪ではないよなあ駄目なだけだよなあ。

 颯太そうたはコホンと咳払いをしてから話題を切り替えにかかる。


「それよりレン、そちらはどの程度進んでいる」

「異世界から便利アイテムを持ち込む為のリソースを全部使ってギリギリね。サンジェルマンの隙を突く為にはもうちょっと時間欲しいかも」

「手段は問わない。巻き添えの死人も、村や農協シンジケートの関係者でなければ許容する。計画の詳細を俺に知らせずにそのまま続行しろ」

「りょーかい。鉱山行くついでに打ち合わせしようかと思ったんだけど、本当に何も相談無しでやっていいの?」

「不要だ。強いて言えば人が死なないようにしてほしいが……許容する」

「そこは安心してよ、むしろしてるくらいだから」


 ――あっ、絶対に最悪な計画が進んでる。

 颯太そうたはゴクリと喉を鳴らした。

 なにせ、今更止めるわけには行かない。できるのは責任を背負う覚悟だけだ。


「マスター、聞かなくても良いのですか?」

「サンジェルマンに知られたら絶対に勝てない。あっちの方が強いんだからな。暗殺計画がバレてどうする」

「むむ、ではそのように」

「あんたの方は計画進んでるの? 屋敷に引きこもるサンジェルマンを暗殺って、私の力無しじゃ普通は不可能よ?」

「俺の方はカジノの落成式にサンジェルマンを招待して、その会場で始末するアイディアを考えている」

「あんたが怪しまれるじゃないの」

「サンジェルマンは拠点から拠点にワープで移動するから暗殺が難しい。逆に暗殺に成功した後、サンジェルマンが都に戻ってきたと周囲に思わせれば?」


 それを聞いて女神は笑う。


「何時居なくなったのか、殺されたのか、それすらもわからないと」

「まだアイディアの段階だ。カジノの準備もしつつ手札を増やす為にドワーフの鉱山に行こうと思っていた」

「じゃあ私はご一緒できない訳?」


 女神はむくれた。


「悪いな。実のところメンバーはもう決めている。許してくれ、どうしても必要な理由があってな。お前への埋め合わせはまたする」

「なにそれ。まあ私がついていっても丘人ドワーフに姿は見せられないけど……」

「そうそう、一人で来たと思われたらそれはそれで村長としての威厳というやつがな……。頼むよ、格好つけさせてくれ」


 と、言って頭を下げられると女神も悪い気分はしない。


「……も~! 良いわよ~!」


 だいぶ手慣れてきた颯太そうたなのであった。


「ありがとな。お前がついてくれば万事解決するんだけど、お前は切り札だからな」


 ――今回は村長の仕事をに見せておきたい。

 部下や生徒が増えてきたことで、運用と育成が楽しくなっている颯太そうたなのであった。

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