異世界麻薬王~元化学教師が耐毒スキルと科学知識で迫害されたエルフを救い麻王-まおう-となる~
第50話 パンとサーカス! クッキングバトルで発生したギャンブルでエルフの村民たちから金を巻き上げよう!【先行公開】
第50話 パンとサーカス! クッキングバトルで発生したギャンブルでエルフの村民たちから金を巻き上げよう!【先行公開】
「さあここまでの審査状況を纏めましょう」
クッキングバトルは激戦となっていた。
「ジャワお婆ちゃんのドライフルーツ
テーブルの上に並ぶジャワお婆ちゃんの
「一方、村長の新しいパン……プーリーは! サクサクの生地に香ばしいソースが絡み、甘くてしょっぱくて脂たっぷりの悪魔的風味! これは危険です! 直ちに健康に問題が出かねませんがそんなこたどうでもいいので何個でも食べたくなる!」
「現在の審査員の票は村長とお婆ちゃんにそれぞれ一票ずつ! 戦いの行方は前村長の投票に委ねられた!」
この勝負の結果を決めるものは味に他ならない。
――訳ねえよなあ。
この状況、既に
「引き分けだ!! どちらもそれぞれ……美味い!」
アッサムの高らかな宣言と共にエルフたちがノリで歓声をあげる。
――先にこの人だけ買収しておいて良かったな。
「大したもんじゃないか。あとで村長の料理も食わせてもらおうかしらね」
「あとで、などと言わずにすぐにでもお手伝いしていただきたいことがあるんですが」
「なんだって? 言ってみな」
一方その間も、エルフたちはしばらく惜しみない拍手を送っていたのだが、やがて気づく。
「なあ、引き分けの場合って賭けた酒どうなるの」
「あっ、確かに」
「俺も金賭けた」
「ニルギリ、どうなってんの?」
「お前が持ってくとかはねえよな?」
ひとしきり勝負が終わったことで満足したエルフたちはニルギリに詰め寄る。
ニルギリは
「……実は、一人だけ引き分けに賭けた奴が居る」
「誰だ!?」
「クソッ、そいつの総取りかよ!」
「ゆ、ゆるせねぇ~~~~」
そんな声が上がる中、高らかに名乗り出た男が居た。
「俺だ」
「ずりぃぞ村長!」
「選手が賭けるなーっ!」
ヤジを制しながら
「この後、ジャワお婆ちゃんに作ってもらった料理で宴会を開く! 俺の奢りだ! 狩りの獲物とか畑の作物が余ってる奴はおつまみにするから売りに来い! 家族も連れてきて良いぞ!」
エルフたちは瞬間瞬間を雰囲気で生きている。
タダメシとタダザケと村長命令があるなら大抵のことは許してしまう。
それを
「村長最高!」
「ちょっと
「酒飲んでる場合じゃねえ!」
*
その日の深夜。
「……そんな訳で、今晩は帰りが遅れました」
「あらまあ」
「村長ともなるとお忙しいんですね」
隣で横になっているアスギは、耳元で囁く。少し恨めしそうに。
「まあそんなところです」
すると、アスギは
「なんてね。ソウタさん。いつもお疲れ様」
「怒られるかと思ったんですが……調子が狂うな」
――考えてみると、いつも宴会ばかりしているし。
今回はなんと言ったものかと、悩んでいた意味がなくなってしまった。
「必要なことだったんでしょう?」
「まあ、そんなところかなあ」
「なぜまた宴会を?」
アスギの肩を抱いたまま、
「小麦粉を使用した料理文化の推進・定着、それを通じた農産物の管理体制の確立、宴会を通じた村の成員全体への資産の再分配、そして村人の皆に村長の力と知恵を示す目的がありましたね。いずれも村の安定した運営に必要な行為です」
「そうなんですか……すごいですね……?」
アヤヒやヌイのような賢く柔軟な子供たちならば即座に理解できたことだろう。けどアスギに理解はできない。
「だって、みんな楽しく暮らせるのが一番じゃあないですか」
真実はともかく、アスギにも分かりやすく噛み砕く。だがアスギは不安そうな顔をしていた。
「……人を殺すためとかじゃないですよね?」
「まさか」
――いつか人を殺す為に使われるかもしれない、けど、今は違う。
そんな
「ソウタさんが村を守る為に恐ろしいことをしているのは知っています。今はそれで良いです。けど、そんなことを続けて、ソウタさんが死んでしまったら……」
「大丈夫。御存知の通り、しぶといんですよ」
寝室の暗がりの中でも、
――死んだ旦那のことでも思い出して、不安になっているのかな。
少しだけ、妬ましかった。
「けど、私は、弱くて、グズで、落ちこぼれ……なので」
「そんなことありませんよ。助かってます」
アスギは
「そういうことじゃなくて、本当に落ちこぼれてたんです。父は、母が死んだ上に私が傭兵として使い物にならないと見切って、村に戻ってきたので……。あなたが死ぬのも、私があなたの役に立たなくなるのも怖いんです」
「だから、何も変わらずに、ここに居て欲しい……と」
ムリな相談だ。けど、忘れてはいけない思いだ。
と、
「はい。私が逃げた世界に、あなたは向かっていくような気がして、それが怖いんです。だからね……ソウタさん。行くなとは言いません。あまり遠くならないでください」
アスギが
「分かりました」
「あなたが遠くなっても、待ってますから。だから……遠くならないでください」
それから彼女の頭を撫でた。
「あなたの作る麦粥が好きなんですよ」
いつも傍に居るとは約束しない。嘘は苦手だ。なにせ嘘は、
「……飽きていたくせに。自分で人間みたいなパンまで作って」
ずるい、とアスギは言外に責める。
「あの麦粥はこっちに来て最初に食べたものですからね」
「毒が入ってるかもしれませんよ?」
「全部飲み干しますよ」
そう言って、
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