残酷幼女による異世界征服

神代 翔

第1話 はじまり

決して、珍しい話ではなかった。


朝日が昇る前に寝床を抜け、日の昇っている間は村全体で畑を耕し、日の沈む頃には家族と共に床につく。そんな、なんてことはない誰もが過ごす日常が奪われることは。


たまたま不作が続いてしまった、領土をめぐっての戦争に巻き込まれた、原因は数えきれないほどに存在する。


戦禍を被り、それまでの日常すべてが失われた。財産、食料、そして農民の命が略奪者たちによって奪われた。重い税に喘ぐ農民は抵抗らしい抵抗もできず、悲鳴をあげ絶叫し、命の灯を消し去るしかなかった。


略奪者は己の欲望のままに女を犯し、男は殺した。逃げようとする農民を遊びがてら追いかけ、矢を射かけた。



そんな地獄の一端に一人の幼い少女はいた。

今日まで両親とともに過ごしてきた家は大きな岩によって打ち崩され、火矢によって燃え落ちようとする中に、その少女はいた。


「…お前、は…お前だけでも……い、きろ」


家に衝撃が走った拍子に倒れた箪笥から少女をかばったその壮年の男性は、きっとこんな状況でなければ生命力に溢れていたのだろう。

下半身が箪笥の下敷きとなり右半身が岩でつぶされていながらも灯を消さず、苦しげながらも強烈な強さを感じさせる声で少女に伝える。


果たして少女にその声は聞こえているのだろうか。声に応えるでもなく、瞬きすらせずに虚空を眺めていた。



カッ 

その時、少女と男性のいる家に火矢がささる音がした。略奪者たちがこの村でやることは終えたといわんばかりに村のいたるところに火をかけ、隠れて生き残ろうとした農民を皆殺しにしようとしたのである。


集落を囲い、火に煽られて逃げ出してきた農民に矢を射かける。そうして火が育つまで見守り、生き残りがいなくなったことを確認し、次の標的に移るのだ。


「はぁ、めんどくせえな。なんでこんなことしねぇといけねんだよ。」


昨夜、村を襲った略奪者の一員はそう愚痴る。男は強い使命感を持っているわけでも、誰かに憧れているわけでもなく、ただ人一倍欲求が強かっただけである。

己の欲求を満たすためにこの部隊に参加した男にとって、欲求を満たせる相手が存在しない場所はひたすらに退屈でしかなかった。


「まあそういうなって。俺もそうは思うけどよ、こうして確認するのも大事だって隊長も言ってただろ。」


先の男と共に確認作業をしている男はそういって作業を進めていく。


「ここで最後か。」


「ああ、これでようやく終わりか。さっさと終わらせて一杯やろうぜ。」


「おっ、そいつはいいな。」


自分たちの最後の担当である一軒家にたどり着いた男たちは雑談しながら家の中を漁り、生き残りがいないかを確認していく。


「こいつは…大丈夫そうだな。」


その家には、箪笥の下敷きになり投石によって右半身がつぶれた男が見つかっただけで、他に目ぼしいものは無かった。

家屋は完全に焼け、黒焦げているのだから当然の結果である。


「よっし、これで俺たちの担当は終わりだ。隊長に報告してさっさと休もうぜ。」


男達はそういってその場を後にした。どうやら略奪者の中で帰るのが最も遅かったようだ。男達が報告を終えてすぐ、その集団は焼け落ち、灯の光らない集落を去っていった。





































ガコンッ


略奪者たちが焼け落ちた集落を後にした数時間後、下半身と右半分が潰れた男の家の中には煤で少しくすんだ銀髪の少女がいた。

死んだように生きていた少女は男の残した言葉を守り、生きていた。そう、目的も、何かかも失っていた少女は、それでも死ねなかったのだ。

少女はあたりを見渡し、男の死体を見つけると、ぽつりとつぶやいた。


「あなたはちゃんと死んだのね。ねえ、死ぬのってどんな感じなのかな…あなたなら分かるのかな?もし分かったら、私に教えにきて。それまでに、きっとあなたがこれるようにしておくから。」

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