運命の四人

 再々決戦当日の早朝六時。純真の乗るパーニックスと、二機のビーバスター、そして諫村の乗るオーウィルが、サイパン島から宇宙へ飛翔する。


 今回の作戦の鍵は諫村ではなく純真。未来予測能力を持つNEOは未知を最も警戒する。これまで諫村とオーウィルは最低限の能力しか見せていない。よって、諫村に最大の注意を払い、既に何度も戦闘を見せている純真への警戒は比較的薄くなる。

 その隙を衝いて、NEOのだ。純真が露払いを担うと見せかけて、諫村は後方からのフォローに徹する。



 二時間かけて衛星軌道上に到着した四機は、そこでNEOの大群を見た。無数の子機に囲まれるNEOの本体は、直径五十メートル程度。

 他の子機も同程度の大きさで、外見の差異も少なく、見分ける事は困難だが、適合者である四人には判別できる。


 リーダークラスのエネルギー生命体は、他のエネルギー生命体を従属させて、群体を構成する。その際に、リーダークラスのエネルギー生命体は、群体の中で最も大きなエネルギーを持つ。これは下克上を防止するためだ。

 エネルギー生命体のリーダークラスとフォロワークラスの違いは、エネルギーの吸収限界にあるが、何を以ってリーダーとフォロワーに分かれるのかは、実際は曖昧である。

 誕生時にはリーダークラスとフォロワークラスに明確な差異は見られない。エネルギーを吸収して群体となる中で、初めてリーダーとフォロワーに分かれるのだ。それは魚類の性別が集団の中で変化する様に、群体の中で最も大きなエネルギーを保持していた物が、リーダークラスに昇格するのである。

 この性質があるので、エネルギー生命体のリーダークラスは一度決まると滅多な事では変わらないが、例えばエネルギーを効率的に回収するために「サブリーダー」を生み出すと、場合によってはサブリーダーがリーダーを上回って、集団のリーダーが交代する。

 「人間の心」を持った適合者の存在は、エネルギー生命体にとってはイレギュラーなのだろう。本来エネルギー生命体は単純な本能しか持たないが、適合者には意思がある。これまでエネルギー生命体は、単純に個々が保持するエネルギー量でリーダーを決めていたが、そこに「人の意思の強さ」という不確定要素が加わった。

 NEOは二月前から宇宙空間で太陽の強力なエネルギーを蓄え続けているが、それでも適合者たちに勝てるかは分からない。

 人類、地球、太陽系、全ての存亡が、この戦いで決まる。


 先行するのはパーニックス。ソーヤとディーンの乗る二機のビーバスターを引き連れて、NEOの本体を目指す。オーウィルは後方から全体の動きを俯瞰して、NEOを逃がさない様に行動する。

 パーニックスを迎撃すべくNEOの子機が動き出すが、オーウィルを警戒して、大部分は本体の防衛に止まっている。


 やや突出しているパーニックスに向かって、NEOの子機は早期撃墜を目指し、集中砲火を浴びせた。まず冷凍砲を斉射。それに対してパーニックスを守る双三角錐のシールド型スレーブユニットが六枚のパネルに分離・展開し、純真の思い通りに動いて、断熱装甲で冷凍砲を防ぐ。

 続いてNEOの子機はレールガンを斉射。だが、同じ手は通用しない。スレーブユニットは表裏反転して、衝撃熱変換装甲で弾丸の軌道を逸らした。

 パーニックスの新装備のシールド型スレーブユニットは、単なる遠隔操作型の子機ではない。純真の中のエネルギー生命体から生み出された、小さなエネルギー生命体が宿っている。故に不完全ながらも自己判断能力を持っており、ある程度は自律的に動く。対NEOの秘密兵器の一つだ。

 一方でNEOも諫村や純真に対抗するために、子機を改造している。熱量に押し負けない様に子機を大型化させ、更に全体を厚い断熱装甲で覆う事により、外部からの干渉を防いでいる。かてて加えて攻撃機と防御機に役割を分け、それぞれが連携して行動する事で隙を減らす。


 ソーヤとディーンはパーニックスの陰からレールガンを打ち込む事で、NEOの子機を牽制する。

 断熱装甲は衝撃熱変換装甲と相性が悪い。熱を吸収するエネルギー生命体との相乗効果で強度が増す衝撃熱変換装甲と、エネルギー生命体を外部の干渉から隔離して守る断熱装甲は、両立不可能だ。このために断熱装甲は衝撃熱変換装甲よりも強度面で劣り、高威力の兵器で破壊できる。また断熱装甲は冷気には強いが、何万度という超高温にも耐え切れない。断熱装甲を剥がされると、エネルギー吸収現象を通じて、子機を乗っ取られるか、無力化されてしまう。

 よって、NEOの子機はレールガンを回避せざるを得ない。子機もまた未来予測能力を備えているので、命中させるのは難しいが、攻め手を緩める結果にはなる。


 断熱装甲の欠点は、もう一つある。それはエネルギーを解放できないので機動力が落ちる事。NEOの未来予測と、エネルギー生命体を動力としたスラスターの出力があれば、攻撃を食らう事は皆無と言って良い。

 しかし、断熱装甲で機体全体を覆えば、当然スラスターの出力は落ちる。一応、NEOの子機も断熱装甲と衝撃熱変換装甲の多層構造を備えているとは言え、余りにもデメリットが大きく見える。だが、そうまでしても「乗っ取られない」というメリットを重視しているのだ。


 純真の乗るパーニックスは加速を続けて光の矢となり、彗星の如き速度でNEOの子機をアンカーランスで串刺しにして行く。超高熱の槍と一体になって、断熱装甲に覆われた球体を一瞬で貫通し、中のエネルギー生命体を吸収する。

 だが、一機、また一機と落として行くも、子機の数は増えるばかり。これでは際限が無いと、純真は槍を蒸発させて、エネルギー生命体を宿す光の束へと変えた。光の束は如意棒の様に無限に伸びて複数の子機を打ち貫き、また長大な鞭の様にしなって複数の子機をなぎ払う。


 パーニックスとビーバスター二機はNEOの子機を次々と落としながら、少しずつ本体に接近する。それを見届けたオーウィルは静かに三機から離れ、NEOの本体に逆方向から回り込んで挟み撃ちを狙う。

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