純真の決意(後編)

 それから純真は訓練室の中で、一人あれこれと思いを巡らせていた。

 上木研究員の言葉は嬉しかったが、自分の中のエネルギー生命体が制御できなければ、結局は同じ事ではないかという思いは変わらない。最悪の事態を想定した覚悟が必要だと、彼は真剣に考えていた。上木研究員は個人的な感傷に引き擦られて、冷静な判断ができなくなっているのだとさえ思う。

 祖父・功大が十年前にレジスタンスを結成して宇宙人と戦っていた事には驚いたが、それなら普通ではありえない人脈を持っている事にも納得できる。その事について、特に思う事は無い。世界が窮地を脱するためにも、日本の良心として活動を続けて欲しいと思う。

 ここに至って純真は、自分の中のエネルギー生命体を制御する事を、ほとんど諦めていた。上木研究員には「諫村忠志の様にはなるな」と言われたが、逆に純真は自分でも世界を救えるなら、そうするべきだと感じていた。



 翌日の昼前、上木研究員は訓練室を訪ねて、真剣な表情で純真に告げる。


「純真くん……残念なお知らせがあります。研究所はエネルギー生命体との戦いに備えて、あなたにも戦闘訓練をさせられないか提言しました」


 その時が来たかと、純真は力強く頷く。


「やります。やらせてください」


 それに対して上木研究員は悲しげな瞳で優しく言った。


「断っても良いんですよ」

「いいえ」


 純真はエネルギー生命体との戦いを軽く見ていると、上木研究員は感じた。本気の喧嘩すら経験した事もない純真が、命懸けの戦いを続けられるかというと甚だ怪しい。故に、後の変心を期待して、今は強く反対しない。


「嫌になったら、いつでも言ってください」


 彼女は露骨に退路を示す。その意図が読めない純真ではなかったので、彼は内心で少し反発した。


 こうして純真は対エネルギー生命体用の巨大ロボット、ビーバスターに搭乗する六人目の戦士となったのだった。



 その日の午後から早速、純真がロボットを動かす訓練が、研究所の地下格納庫で始まる。その前に、純真と研究所の適合者たちは改めて、ミーティングルームにて顔を合わせた。

 上木研究員が英語で説明を始める。


「He was assigned to your team. The decision is assumed for the worst-case scenario」


 英語が得意とは言えない純真でも「ユア・チーム」と「ワースト・ケース・シナリオ」は聞き取れたので、何となく内容は分かった。彼は「最悪の事態」のために、今ここにいるのだ。

 しかし、適合者たちの反応は好意的ではなかった。皆、厄介者が来たとでも言う様な、面倒臭そうな顔を隠しもしなかった。

 その中でウォーレンが歓迎の言葉を口にする。


「純真くん、今日から君も私たちのチームの一員だ。宜しく」


 友好的な態度の一方で、握手は求めない。純真は日本人だから違和感を持たなかったが、ウォーレンも純真を警戒しているのだ。

 純真は姿勢を正して深く一礼する。


「宜しくお願いします」


 適合者たちは「まあしょうがないか」という様な反応を見せる。年齢的にも能力的にも、ウォーレンが適合者たちのリーダーなのだ。彼が歓迎の意思を見せれば、それに倣う。

 上木研究員は続けて適合者たちに説明する。


「He is supposed to receive a basic training individually. Thus he is going to join up with you a few weeks later」

「A few weeks?」


 ミラが高い声を上げると、上木研究員は手の平を上に向けて肩を竦めた。


「Or more, if not less」


 最後にウォーレンが彼女に問う。


「Alright, is this over?」

「Yes, it's over」

「Let's break up」


 やり取りの意味が分からず、純真が立ち尽くしていると、適合者たちはミーティングルームから出て行く。

 上木研究員は改めて純真に説明した。


「純真くん、これからあなたにはビーバスターの基本的な操縦訓練に取り組んでもらいます。ところで純真くん、英語は得意ですか?」

「いえ、全然」

「そうでしょうね。ここのスタッフに私以外の日本人はいないので、日本語でのサポートができません。なので、私がオペレーターを務めます」

「あ、はい、すみません……」

「謝る事はありませんよ。では、行きましょう」


 淡々とした彼女の言い方に申し訳なさを感じながら、純真は期待と不安を胸に彼女の後に付いて行く。

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