それぞれの思い
純真と上木研究員はコントロールルームを出る。その際、純真は彼女に自分の思いを打ち明けた。
「上木さん、俺にも何かできる事はありませんか?」
「何か……とは?」
「その、オレも適合者なんですよね? 同じ適合者なのに、小さな子供が戦って、オレは何もしないっていうのは……どうなのかなって」
上木研究員は目を剥いて驚き、即座に否定した。
「同じ適合者でも、彼らとあなたは違いますよ」
「何が違うんですか?」
誰もいない廊下で二人は足を止めて話し合う。
「あなたが適合者になったのは偶然でしょう。しかし、彼らは来るべき時のために適合者になったのです」
「適合者って、なろうと思ってなれるものなんですか?」
素直な純真の問いに、上木研究員は言葉を詰まらせた。この研究所にいる適合者は偶然に生まれた訳ではないのだ。
これは言ってはいけない秘密だったのではないかと、純真は予想する。つまり今の彼女の発言は口を滑らせた――失言だったのではないかと。
上木研究員は目を伏せて、彼に告げた。
「今の戦いだけで判断してはいけませんよ。NEOとの戦いは今後、激化していくでしょう。もしかしたら命を落とすかも知れません」
「だったら尚更、小さい子だけ戦わせるのは……」
「純真くん、あなたには家族がいるでしょう」
「あの人たちには家族がいないんですか?」
純真の指摘に上木研究員は再び沈黙する。
数秒の間を置いて、彼女は覚悟を決めた様に語り始めた。
「この研究所の適合者は全員孤児でした。孤児の中から適合者を見繕ったのです」
「死んでも悲しむ人がいないからですか?」
自分でも酷い事を言っているなと純真は思ったが、事実そうなのだ。
「……純真くん、ちょっと付いて来てください」
上木研究員は否定も肯定もせずに、彼を研究室の正面玄関に連れて行く。
◇
そこでは大勢の報道陣が詰めかけており、四人の適合者たちはインタビューを受けていた。やはり英語なので純真には具体的な話の内容までは分からなかったが、適合者たちの誇らしげな態度から、彼らはヒーローの様な扱いを受けているのだろうと思った。
上木研究員は純真に告げる。
「孤児だった彼らは戦いに身を投じる事で、アメリカの――いえ、世界の英雄になったのです。社会に必要とされる存在になった事で、彼らの心は慰められました」
それならそれで良いかと純真は思ったが、語る彼女の眼差しは悲しげだった。矛盾を感じて彼は問う。
「本当にそう思ってるんですか? 上木さん自身は……」
「悲しい事ですが、私たち人類が生き残るためには必要な犠牲です。諫村忠志がそうだった様に」
「イサムラって、確か――」
「日本人の高校生。地球人では最初の適合者。十年前、彼の犠牲で地球は救われました」
「高校生……」
「あなたは死なないでください」
純真は複雑な気持ちだった。自分は彼らに適合者であるが故の苦痛や困難を押し付けて、適合者ではなくなろうとしている。深く考えない様にしても、その事実から逃れられる訳ではない。
自分には家族や友人がいるのだから、命を落とすかも知れない危険な戦いに首を突っ込むべきではないとは思うものの――では、家族や友人がいない人間なら死んでも良いのかという疑問が浮かぶ。
真剣に考え込む純真に、上木研究員は告げる。
「とにかく、純真くんは自分の中のエネルギー生命体を制御する事だけを考えてください。それが第一です」
「……はい」
これから何をするにしても、まずはそれが肝心だと純真は納得して頷いた。NEOと戦うにしても日常に戻るにしても、自分の中のエネルギー生命体をどうにかしない事には始まらない。
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