モンスター・クライシス

卯双誉人

序章

 ああ、何故こんなことに……。

 

 娘と息子はぐったりとして寝込んでいる。


 なのに……。更に最悪なことに、今、我が家をモンスターたちが取り囲んでいるのだ。

 今にも入ってきそうだ。ドアや壁が何かに叩きつけられている。


 国を守ってくれている兵士たちも大勢死んだ。そして今、モンスターが街にまで現れて、一般国民たちまで襲われ始めた。死人も出ている。

 それなのに、国から支給されたのは一家庭に二枚のチーユ草のみだ。チーユ草は自己治癒力を高めて回復を促してくれる。しかし、備蓄していたチーユ草も貰った二枚も全て子供たちに使ってしまった。それでもまだ、子供たちは衰弱している。


 バリンという嫌な音がした。見ると、ガラスが飛び散り窓が割れていた。そして、部屋の中にスライムが侵入してきた。

 ただのスライムでも一般国民からすれば十分脅威なのに、このスライムはただのスライムではないのだ。このスライムは――。


 ゼリーのような体をうねらせながら、このスライムがこちらに向かってくる。妻が叫び声を上げた。私は妻をかばうように抱きかかえた。

 しかし、きっと、私たちはここで死ぬだろう。そして、ベッドに寝ている子供たちも……。


 スライムはもうすぐそこまで迫っている。絶望の中、私は神に祈った。


 その時、家のドアが勢いよく弾け飛んだ。私は身を伏せた。


 ばしゅっ。


 何かが弾けるような蒸発するような奇妙な音が響いた。


「大丈夫か?」

 何者かの声がこちらに呼び掛けた。


 私と妻は恐る恐るそちらを見る。

 すると、スライムの姿は消えており、一人の男の姿が目に映った。

 

「あっ」

 私は声を上げた。その男は微笑んだ。


 ああ、私はこの方を知っている。この方は――。


 男は子供たちに回復魔法を掛ける。

 そして、再び戦場と化した家の外へと出て行った。


 私はその後姿を涙を浮かべながら見送った。すると、子供たちが私と妻に駆け寄った。その顔色はすっかり良くなっていた。私は妻と子供を抱きしめて泣いていた。

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