第2話 謎の2人の、長い長い説明 の続き

 ソウルセイバーが与える特典について、ルールの話をするね。

 本当にごくごく稀にいる、魂が生まれた時より増量される、善い行いを積み重ね続けた人間、彼らにはご褒美が与えられる。これは、さっき彼が説明したとおり。だけど、いくらご褒美とはいえ無条件で何でも聞き入れられるわけじゃないんだ。


 ひとつ、

 記憶を保持したまま、人生のある時点に、当時の姿 もしくは 今の姿で戻れる


 ふたつ、

 滞在時間は、最大で9時間。続けて9時間でも、時間を早回しして必要なところで止めて合計9時間でもいいけれど、逆戻しはできない。滞在期限は1週間以内。

つまり、ある特定の1週間のうちの9時間、過去に滞在できるってことね。


 みっつ、

 滞在や過去への干渉は、過去を大きく変化させるものであってはならない。過去の自分との長期接触や、過去の知り合いに自分の正体を明かすのもNGになる。


 よっつ、        

 過去の他者を傷つけるのもNG。


 端的に言うと、歴史を大きく変えることは認められない。ごく個人的で過去から見た未来にほぼ影響しない内容であることが必須だ。


         ***


「たとえばね、兄弟喧嘩して、お前なんか死んじゃえ! とか言ってしまって、その直後にその兄弟が事故死したとする。後悔が残るよね、どうしてあんなことを言ってしまったのかって。そんな場合、過去に戻って喧嘩を避けたり、投げつけた言葉を言わないようにしたり、言った後も、すぐ謝るといったことはできる。けど、兄弟の事故死を防ぐことは許されない。それならば意味がないと見るか、救いにはなると考えるか。それはその人次第だね」


         ***


 いつつ、

 もしも違反したら、魂は極限まで削られる。君のだけじゃない、その違反で利益を得た相手のものも。さっきの兄弟喧嘩の例で言うと、事故を防いだ本人も、それにより救われた兄弟も、揃って魂が芥子粒くらいにされるってこと。自分ではそうと知らないままで、ほんの爪の先ほどの魂になって、プランクトンレベルから何度も生き直すことになるわけ。

 だから、十分に気を付けてよ。


         ***


「まあ、そう難しく考えなくていい。願いがルール違反だったら、考え直すよう言ってやる」


 冗談だろ、と思ったけれど、どうやら彼らは本気のようだ。とはいえ、本気だとして、この話が本当かどうかはわからない。あまりにも荒唐無稽じゃないか―。

 一瞬の逡巡の後、ふ、と思考がクリアになった。なら、この茶番に付き合おう。本当にそんなことが可能なら、戻りたいのは1つだけ。あの日、あの瞬間しかない。


「戻りたいのは…」

 10年前の、小学生になって最初の長期休み前の終業式の日の、集団登校のとき。あのとき、大切な友だちを、臆病さゆえに裏切った。あの瞬間を、やり直したい。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る