第25話 最後にこれからの幸せを確信する私

 ヴァルゴは紙芝居の様な三枚の羊皮紙を喜んだ。絵で何となく意味が分かるからだろう。兄が読んで聞かせると、ただの写本の時より意欲的に学習していた。

 お土産に買って帰った焼き菓子も随分と喜んでいた。盗賊暮らしではあまり良い物は当たらなかったのだろう。数少ない菓子類も、最近は私達の村の子供に分け与えていた様だし。

 それからは合間に何度もその羊皮紙の紙芝居を読み、それ以外の時間はマナーや一般常識をヴァルゴに教えた。二週間でヴァルゴは数字を覚えた。文字はもう少しかかりそうだった。食事や風呂のマナーも覚え、これなら孤児院に連れて行っても大丈夫だろうと私と兄は判断し、領主にお伺いを立てる事にした。

 領主は実際にヴァルゴが食事を摂る様や入浴の様子を見、数字を書くのを見、これなら大丈夫だろうとお墨付きをくれた。私と兄はハイタッチしたい気持ちを抑え、頷き合った。

 そこからは早かった。領主が孤児院の院長を呼び、話をし、私と兄、そしてヴァルゴは孤児院へ入る事になった。子供達には、私と兄を引き取ろうとした家では、やはり二人揃っては難しかったと話す事になった。ヴァルゴは、偶々同時期に人買いから保護されたと云う事になった。

 私達兄妹もヴァルゴも、暖かく迎え入れられた。私と兄が引き取られなかった事を(嘘なのだけれど)皆我が事の様に残念がってくれ、ヴァルゴの事もとても心配してくれた。ヴァルゴが喋られないのは恐らく人買いの元で酷い目に遭ったのだろうと、皆そう思っている様だった。

 それから更に一週間程経って、私と兄は領主に呼び出された。院長からお遣いを頼まれた事にして二人領主邸へ向かう。

 話は私達の村から攫われた子供達についてだった。

 皆、無事に保護されたとの報だった。私と兄は領主の前だと云う事も忘れて手を取り合い小躍りした。

 咳払いをする領主にはっとして、すみませんと頭を下げる。

「いや、良い。お前達の気持ちも分からないでもない」

 お叱りは無い様だ。

 領主は話を続ける。

「子供達は、王都にある孤児院に入る事になった。……お前達も、王都の孤児院に移っても良いんだぞ。旅費の全額は出せんが……私兵だった時の報酬が残っているだろう」

 私と兄は顔を見合わせる。

「確かにみんなに会いたいですけど……ヴァルゴ置いては行けませんし、ヴァルゴを私達の都合で連れ回したくはありません」

「それに、俺達はこの町で生きて行く事にしたんです。みんなも、王都でそれぞれに生きるでしょう」

「……そうか」

 私達は失礼します、と頭を下げて領主邸をあとにした。

 そう、私達はこの町で生きて行くのだ。

 兄と、私と、ヴァルゴの三人で。孤児院のみんなと一緒に。この町の大人達に見守られて。大人になって、お金を稼いだら、いつか王都に居るだろうみんなに会いに行くのも良いかもしれない。

 孤児院への道を歩きながら、隣を歩く兄の手を握る。兄は一度足を止めて私を見ると、照れ臭そうに笑った。そして私達は並んで歩き出す。

 前世では二十歳を目前に死んでしまったけれど。現世だって波乱万丈だったけれど。

 これから私は、きっとみんなと幸せになるのだと、根拠も無いのに確信するのだった。

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