1章:甘くて可愛い彼女ができました その1
中流サラリーマン気質とでもいうのだろうか。地位や名誉を望まず、無病息災、家内安全といった『現状の維持こそ幸せ』を信条とするマイペーススタイル。
そんな人畜無害さを評価され、小中時代、さらには高校2年生になったばかりの今現在も、『程良い』ポジションで『それなり』の学園生活を
人気者ではないが、クラスメイトの誰にでも話しかけられる、クラスに1人はいますよね的なキャラ。
良く言えば。
悪く言ってしまえば、中途半端なのだ。誰とも会話できるからといって、誰とも仲が良いかといえば話は別なわけで。
エグい話、夏彦がいなくても世界は回る。いたら楽しいし、彩りを加えることはできるが、いなければいないで特段支障は出ない。
おでんでいうところのハンペン、
色鉛筆でいうところの白、
モンハンでいうところの狩猟笛、
アニメには出演するが、映画には出演しない
そんなクラスの打ち上げには誘われるが、仲良しグループで行く旅行には誘われない悲しき業を背負った男。
とはいえ、夏彦自身、満足しているといえば
中途半端な立ち位置こそ、自分の強みだと理解していたから。誰にでもできるポジションのようで、誰にでもできないポジションだと自負していたから。
中間管理職的ポジションを苦と思っていない点も大きいだろう。
向こうがどう思っているかは不明だが、気を許す友だっている。少々風変わりな
以上、中流サラリーマン、中途半端、中間管理職など、『中』の文字に愛されてやまない平凡な少年こそが傘井夏彦である。
※ ※ ※
夏彦がおっぱいを揉みたいと叫ぶ30分程前まで時は遡る。
学校も終わった放課後、高校2年生になったばかりの夏彦たちは、コンビニ前のベンチで時間を潰していた。
今現在、夏彦は買ったばかりの週刊少年誌を満喫中。水曜日といえばマガジンである。
そんなマガジン派の夏彦のページを
「ナツ読むの早い。ウチがまだ読めてへん」
ページを捲ろうものなら、この腕引きちぎるぞと言わんばかり。
関西弁だから威圧的に感じてしまうのか。はたまた、あっけらかんとした態度から威圧的に感じてしまうのか。
分からない。分からないが、夏彦は次のページを捲りたい気持ちをグッと抑える。
ちぎられたくはない。
「……。読んだ?」
「ん」
許可を
当然、2人の関係は飼い犬と主人ではない。
相棒である少女の名は、
容姿やスタイルだけ見れば、琥珀は美少女と呼べる存在に違いない。
切れ長で黒目がちな瞳は、人々を魅了するには打ってつけ。明るく染められたミディアムヘアは、華やかな容姿を一層華やかなものに際立たせている。
制服と派手目なスニーカーのコーデは中々に人を選ぶが、琥珀が着用すれば、都会的なストリートファッションまで昇華。唯我独尊という言葉さえ相応しい。
総評、とても美少女。
容姿やスタイルだけ見れば。
琥珀の性格を一言で言い表すと男勝り。
ボーイッシュなどと可愛げある表現はそぐわないレベルで、そんじょそこらの男子より男が勝っている。
「琥珀、次のページ捲っていい?」
「あかん」
「……」
夏彦は思う。
何故、ジャンプ派の奴にページを捲る権利を握られているのかと。
ジャンプの日は、琥珀の金で買ったものだから途中で捲られても俺は我慢しているのにと。
反抗心が芽生えた頃には、夏彦は次のページを捲っていた。
「あっ」という言葉が横から聞こえる。隣を見れば、琥珀がムスッとした表情で
「だって琥珀読むの遅すぎ。バトルシーンで読むとこ
「何言ってんねん。今の戦闘シーンに、どんだけの熱量が込められてるのかナツには分からんの? 漫画は読むだけじゃなくて、見るのも楽しみの1つちゃいますのん?」
「にしても時間掛けすぎだから。言いたいことは分かるけど」
「分かってくれるなら、ページ戻して」
「いやだ」
「戻って」
「やだ」
「……」
「……」
「戻って!」
「やだ!」
「……」
「……」
「「やんのかコラァ~~~!!!」」
ついには、雑誌の取り合い。ギャースカ騒いでワチャつく光景は、高校生とはとても思えない。小学低学年にも鼻で笑われるレベル。
「ナツかてラブコメ読むとき、めっちゃ遅いやん!」
「ラブコメは心理描写が大事だから仕方ないだろ!」
「いっちょ前にキュンキュンしとんちゃうぞ! 童貞のくせに!」
「ど、童貞関係ねーだろ! そもそも、童貞にこそキュンキュンする権利があるだろ!」
「はんっ。エッチなシーンになったら、そそくさ読んだフリするくせに。どうせ家で1人のときは、コソコソそのページ使ってるくせに」
「使う言うなぁ! せいぜい、ガン見程度──、うわぁぁぁぁぁ!」
「その程度でうろたえんな。だから童貞やねん」
「コイツのデリカシーのないところ大嫌い……」
言葉の殴り合いの勝者、琥珀。
黙っていれば美人。琥珀のためにある言葉と言っても過言ではない。
口を開けばこのザマなのだから。
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