『おっぱい揉みたい』って叫んだら、妹の友達と付き合うことになりました。

凪木エコ/角川スニーカー文庫

プロローグ:おっぱいと恋人は同時にやって来る

 願いや望みは、声に出したほうがかないやすい。

 抑え込んだ衝動は、声に出したほうが解消しやすい。

 そんな気がする。

 そんな気がするからこそ、少年はひとのない高台で目一杯肺を膨らます。

 そして、喉が張り裂けそうなくらい、柄にもなく叫ぶ。


「おっぱいみたーーーーーーーー~~~~い!!!」


 かさなつひこ。高校2年生、残念な春。

 夏彦は人一倍性欲が強いわけでも、年がら年中、胸を揉みたいと目を光らせている危険分子でもない。むしろ人畜無害な部類だ。

 しかし、今はとてつもなく胸を揉みたくて揉みたくて仕方なかった。

 夏彦が暴走したキッカケは、また別の話。

 願望は天井知らず。

「俺だってそうみたいに彼女が欲しいさ! 放課後は校門前で待ち合わせして、あいのない話しながら帰りたい! 週末のデートでは服の選び合いっこしたり、映画ながらイチャイチャしたい! おうちデートとか超したい! はくのアホ! あと、おっぱい揉みた~~~~~い!」

 ゆっくりと落ちていくゆうでさえ、ズッコケそうになる願望の数々。

 ひねくれた神ならば、近所のオバハンを召喚したり、牧場でやってるヤギの乳絞り体験コーナーにでも転送しただろう。

 ひねくれた神ならば。

「あ、あのっ!」

「おっぱ──! へ?」

 景気づけに、もうひと揉み叫ぼうとする夏彦が固まってしまう。

 それもそのはず。声のする後方へと振り向けば、少女が立っているのだから。

 同じ学校の制服を着ていて、ちようリボンは赤色。入学したての新入生だろう。

 とても可愛かわいらしい子だった。小柄な背丈に相応ふさわしいあどけない童顔。幼さの中にもパッチリ大きく開いた瞳が、意志の強さと愛くるしさを見事に両立させている。少し緊張しているのか、瞳は若干潤みがかっていて、胸前で握った両拳は小刻みに震えている。

 その姿は子猫そのもの。守ってあげたくなるような、段ボール箱の中で鳴いていたら拾って帰りたくなるような。そんな可愛らしい子。

 そんな少女に夏彦は見覚えがあった。

 数年ぶりだろうと、多少外見が変わっていようとも忘れてはいなかった。

 しかし、今は当時を懐かしむ余裕など皆無。懐かしさを感じる以上に、羞恥心のメーターが振り切っている。

 当たり前だ。今までの発言、おっぱい揉みたい発言を、年頃の女子高生に聞かれているのだから。

『穴があったら入りたい』どころか、『穴があったら土葬してほしい』レベル。

 丁度、高台だし、このままフライアウェイするのも悪くないと考えていると、

「おっぱい!」

「ひゃい! ……え?」

 少女の口から出るおっぱい発言に、夏彦は目が点に。

「おっぱいがどうしたんですか?」と顔に書いたまま硬直していると、少女は距離を1歩、2歩、と詰めてくる。

 ついには、小さな少女が目の前に。

 そして、

「あの……、お、おっぱい揉ませたら、私と付き合ってくれますか……?」

「…………。え?」

 まだ伝わらないのならと、少女は声を大にして思いの丈をぶつける。

 夏彦の叫びに負けないくらいの声量で。

「ずっと大好きでした! おっぱい揉んでいいので、私と付き合ってください!」

「……………………。ええっ!?」

 傘井夏彦、16歳。

 おっぱいモミモミする権利及び、彼女ゲット?

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