第5話 題5:「聞き覚えのあるの声が聞こえた気がした」で始まり「そのときの手紙はまだ大切にしまってある」で終わります。

 朝市 

 無明都市内で怪しい品から、掘り出し物まで多種多様な品物が手に入る市である。中央広場付近から、東側の主要道路に向かって広がっている。市場の雑踏と威勢の良い呼び込みは、げんなりする時もあるものの元気が貰えるような活気に溢れている。

 リーナシアは、一仕事を終えて消耗品の補充ついでに便利な道具が無いか見に来ていた。ふと誰かに呼ばれる声がして辺りを見回す。

 そう『聞き覚えのある声が聞こえた気がした』んだ。

その声は聞き覚えがある所ではなく。完全に知っている声……

「……アリア……?」何かある度に飛んでくる虫の知らせか?

 確か今日は東の春の洞窟を調査している筈。

今回は、折り悪く仕事が被り別行動になってしまったのだ。

「また、ババ引いたのかな?用意して後詰め依頼無いか見るか。

恐らく何とか時間は稼いでくれると信じよう。」

悪い予感に背中を押されつつ、即下宿先に戻り用意をする事にした。


 ̄ ̄

 ギルド

無明都市の中央下部にある組織。基本的にはお役所仕事ではある。

冒険者の仕事の仲介をしている所、一応ランクは有るものの自己責任で無謀な仕事を請けることが出来る為に別のパーティーと仕事が被ることもしばしばある。

冒険者同士のいざこざは、警備兵達が対応してくれる。


 ガラランっと音を立てて扉を潜ると、受付カウンターに向かう。

カードを渡しつつ「東の洞窟の救出依頼出てないか?」っと問い合わせる。

 落ち着いた声で「少々お待ちくださいね?」と言って、

いつも対応してくれる受付のおばさんが、すぐにリストを見てくれる。

カタカタカタカタ キーを入力すると情報が端末に表示される。

「特にはまだ受けてないみたいですね。また、いつもの直感ですか?

あまり、一人で動くのは感心出来ません。アリアちゃん絡んでるから言っても聴かないと思うけど、気をつけて行ってくださいね。」

 俺は、頷いて「判ったよ。ありがとう」と言うと、紙にさらさらと手紙を書くと、受付に渡す。

「万が一すれ違いで戻ったら、アリアに渡しておいてよ。頼むな」っと言うと東の春の洞窟に向かうことにした。


……

 春の洞窟

セカンドコロニー近くにある洞窟。常にひんやりとした空気が流れている。定期的にセカンドコロニーから、調査依頼が来る。

春の洞窟は、五階層からなる自然洞となっており、実の所対して調査されていない。 


 今回、僕は、久しぶりに仕事が被った為、リーナシアとは別行動で春の洞窟に来ている。

 依頼内容は、春の洞窟内部に異常がないのを確認する事と、最近起きた地震で洞窟内部のルートが変わってないかの調査をでギルドから紹介された五人と共に行う。そして、フロアマップを埋めていく形になる為、数週間の工程となる。


 「さて、既知の所潰して、最後に新しい通路が出来てたら時間かけて調査しようか。」

テキパキと指示を出し、用意を終わらせると洞窟に入っていく。

最初の数日で、既知の部分は調査が終わり、今回は新しい通路が二階層と四階層に出来ていた。ここからは、調査隊の危険と隣り合わせのボーナスタイムである。

運良く何か見つかれば報酬に上乗せされる。そんな期待で溢れていた。

 二階の新しい通路の探索が思ったよりも不発で、気が緩んだのか四階層では小さいミスが起き始めていた。ボーッと歩いて前の人にぶつかる。簡単な罠を踏み抜く(こういうのって誰がセットしてるんだろう?)

これは、流石に不味いと一度後退する事にする。奥まで行った時に何かが住み着いているかも判らないのに、これでは自殺するようなもんだ。

後退中、罠が残っていたのか落とし穴を戦士が踏み抜いた。

反射的に腕を掴み引っ張るが、勢いが強すぎて反動で位置が入れ替わる。

落ちる瞬間思わず「リーナ助けてっ」と心の中で叫んだ。


 ̄ ̄

 春の洞窟へ向かう途中で、急ぐ調査隊に出会った。救出依頼を出しに移動していたらしい。場所の情報をもらい急ぐ事にする。

 感覚と、情報を照らし合わせた結果直ぐに落とし穴を発見した。

音はしていない。高さが判らないのでコインを落として確認は不味いか。ロープとカンテラだな。ロープの端を杭で固定するとズルズルと下ろしていく。高さ30m位か?アリアの事だ、そのまま落ちるくらいなら、オキクルミで殴って速度落とそうとするだろう。取り敢えず降りる前に縄はしごを下ろす。

 下に降下しカンテラを取り敢えず設置する。穴の底は、直径数十mのホール状になっていた。調べてみると通った道らしき場所にしるしが着けてある。それを追うことにした。

 遠くから爆音や破壊音が聞こえる。ちょっと爆発頻度から言うとほぼ全力で戦っている音がする。急いで音のする方に向かう事にする。


 「うおりゃぁ」ドゴォンっと音をたてて籠手が地面を爆砕する。

目をくらませてから、下に潜り込んで、打撃で怯んだ所を逃げるしかない。僕はそう作戦を立てて巨大な蜥蜴の顔を殴り付けると同時にトリガーを引き爆発させる。はたしてドラゴン種に効くのか? やった?

 衝撃で顔が横を向くものの効いた感じがしなかった。一瞬動揺するものの必ず助けに来てくれると信じて前を向く。一瞬の動揺を見抜かれたのか尻尾が飛んでくる。

前に走って回避し巨大蜥蜴を殴り付ける。


 俺が到着すると蜥蜴のしっぽを回避しつつ巨大な鉄の塊の籠手オキクルミで蜥蜴を殴るアリアが見えた。予想だにしなかった相手と互角に……全長15m位の蜥蜴と戦っていた。

 よく洞窟が崩れなかったな、しかもあれドラゴン種だろ……俺やれんのか? 俺は、ショートボウを取り出すと爆裂弾を取り出し構える。

 「アリア下がれ‼️」っと叫び放つ。アリアはタイミングを併せるように後ろに飛び退くと「リーナ来てくれると思ってたよ‼️」叫んだ。

 噛みつこうと口を開けた所で爆裂弾が爆発。咄嗟にアリアの手を握り走り出す「あんなの相手してられねぇ。逃げるぞ」必死で言うと爆裂弾を天井に向けて投げ天井を崩落させる。

 「急ぐぞ!縄梯子垂らしてあるからそこから逃げる」

走りながら、そして祈りながら天井を爆発していく。

「頼むぜ。良い感じに崩れてくれよ」追って来れないように洞窟を崩しまくる。走りながら、爆裂弾を残りの10本程束ねる。これ使ったら、しばらく休めない位の赤字だと苦笑する。


 落とし穴に到着し、先にアリアを登らせて後から追うことにした。

20m程登った所で下から、ドラゴン種の口が迫る。

ニヤリっと笑って「あばよっ」っとドラゴン種に声をかけると同時に爆裂弾の束をドラゴン種の口に投げ入れた。慌てて登っていく穴の淵に届くと同時に、手を掴まれる。

 轟音と衝撃、そして熱が縦穴を襲う。こんな所で火薬使うこと事態がヤバいのにっと一瞬後悔する。落とし穴が崩れ、土埃が舞う。

「ゲホッゲホゲホ…… はや゛ぐに゛げる゛ぞ 」

と声かけをして逃亡に成功した。ドラゴン種が倒せたかは知らないし興味がない。助かっただけで良いと思う。ギルドには、新しい行動は危険と報告した。


 遠くを見るような眼差しで、言い始め「おじいさんは、何かあると直ぐに飛んできた。その時だけは、まるで英雄譚の英雄のようだったよ。普段は細かく口煩いだけの面倒臭がりで、頼りないんだけれどね。陰で色んな知識を溜め込んで、直感だけで人助けをして気付いたら「偏屈爺」あるいは「聖者」と呼ばれていたよ。」と困惑した表情で笑って言った。「おじいさんは、聖者? 英雄? くそくらぇ。偏屈爺で十分だって言ってるんだけれどね。おじいさんは、今でも僕の中ではヒーローなのさ」と言うと中がくり貫いてある分厚い本を閉じて言った。

「そのときの手紙はまだ大切にしまってあるんだよ」

はにかんだ笑顔を浮かべながら、僕の頭を撫でて、

口にシーって指を宛てて、おばあちゃんは、言ったんだ

「おじいちゃんには内緒だよ?」


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