となりのコーヒーお兄さん

はな

第1話 振られまして

「せりちゃんはさ、何も言わないけど俺といても楽しい?普通デートしたいとか、ごはんいきたいとか、なんかないわけ?」






おいおい。

久しぶりに過ごす休日なのに目覚めて一言目にそれ言います?



24歳 芹沢 あい

大学を卒業し、たまたま浴衣を買うために入った呉服屋さんで出会った彼と仲良くなり2か月前にやっとお付き合いが始まったばかりである。


お付き合いするまでの仕事終わりの居酒屋さんでのごはんデートを数か月含むと半年くらいになるが、ここ最近は仕事が忙しいのか会えない日が続いていた。

忙しい彼のために、手料理をもって二回目のお泊りにきたのだ。





「最近夜遅いし、仕事大変なのはわかっているか別にいいかなって・・・」


休日だからと言って毎回出かけたりしたいと思うほどアクティブでもない。

疲れた時は休むのが一番だ。



「そういうのってさ、どうなの?いいたいこともいえなくてさ付き合う意味あんの?」



今日の彼はすこぶるご機嫌が悪いらしい。

悪い原因として考えられるのは、目の前の棚からちらりとみえているプリクラの女の子か洗面台においてあるリキッドファンデの持ち主となにかあったのかそれとも流しにおいてあった彼以外が使ったと思われる食器の相手なのか。



「なんも言えないんだったら言わなくてもいいって言ってくれる彼氏をつくったら?」



「どういう、いみ・・・?」



「付き合ってても楽しくないから別れよ」




彼はいいたいことだけいって背を向け、隣の部屋にいてしまった。

顔も見たくないから帰れということだろうか。



ここ最近連絡も遅いし、会えないし何となくおかしいなぁとも思っていた。

連絡がなさ過ぎて心配で内緒で彼のマンションに車があるか確認にきたこともある。彼が帰宅していても連絡は翌日の夜までなかった。つまり、誰かと過ごしていたのだろう。




「た、楽しくない、か・・・。私は一緒にいられるだけでよかったんですけど」


と小さくつぶやく。





ぼんやり壁に目をやるとカレンダーが目に入った。いつか見つけた時に読んでもらおうと挟んでいたメッセージカードがそのままになっていた。いつもありがとう、だいすき。



「わざとおいて帰ってやろうかな・・・」



きっとそのうち私以外の女の子がやってくるに違いない。その時に女の影を見つけて喧嘩になればいい、なんて思う自分もいる。




「そこまでいわれて付き合う意味ある・・・?」




自問自答しながら帰る準備を始めた。別れ話が出て、再度付き合えたとしてもまた同じような展開になって結局別れるのだ。あいは過去に一度体験済みだ。彼の場合は再度やり直す気もなさそうだが。


お付き合い当初に準備しておかせてもらったお泊りセットも今後使うことはないだろう。ゴミ箱に投げ入れる。

着物デートしようと置かせてもらっていた帯たちは持ち帰ろう。



かざかざと荷物のまとめながら、いるいらないをしわけてしんみりしたきもちになった。

女の影が何となくあるようなこんな男でも好きだったのだ。たまに仕事の愚痴を言い合っておいしいお酒を飲みながら朝まで語るのが楽しかった。



荷物をトートバッグにまとめ、肩にかけた。

隣の部屋からは彼は出てくる様子はなかった。物音もしないから寝てしまったのだろうか。




静かに玄関までいき、スニーカーを履く。



もう二度と来ることは無いであろう部屋を見つめた。




「いままでありがとう」


小さくつぶやいて部屋をでた。

カギはポストにでも入れておけばいいだろう。










「・・・っていうのが昨日あった出来事です。」


「なるほど~。なんか元気ないとおもってたんですよ~!

やっぱあいつクズですね!!」



仕事終わりに同僚につかまり、昨日の出来事を報告させられた。

ふわふわとした陽気な雰囲気の彼女だが、勘がとても鋭い。彼と付き合った時も翌日合った瞬間に何かいいことありました?と聞いてくるような人間である。

元カレではあるが、元彼女に対してクズとはっきり言うところが逆に好感が持てる。





「でもせりさんそんな彼と別れてよかったですよ!

元カノかどうか分かりませんけど、そんなもん取っておくのも意味わかんないし捨てればよかったじゃないですか!ぽいですよ!ぽい!!」



「確かにね・・・

一応最初見た時に一回聞いたよ、これ元カノ?って」


初めて家にお邪魔したときに、見えてるよ?って遠回しに片付けろとはいったのだ。捨てようがどうしようが本人の自由だし、大事な思い出かもしれないので強くは言えなかった。



「そんなんじゃだめですよ!

わたしならその場で燃やすか捨てさせます」



「・・・次はそうする」



「そして失恋を立ち直るには新しい恋ですよ!いい人いたら紹介してと雅にいっておきますね!!」


「咲さん・・・・あ、ありがとうございます」




森崎 咲、22歳。

職場の同僚で、年下先輩である。彼女は契約社員として数年勤務しているが、私は正社員で入社したため立場上は上だが勤務地では後輩になるというややこしい関係だ。そんな関係でもギスギスしないのは彼女の性格のおかげである。

咲は人懐っこい性格で、上司からも後輩からもかわいがられてる。人が聞きにくい話題もうまく聞き出せてしまうので職場の人間関係や恋愛事情にも詳しい。

ふわふわろしたウェーブの金に近い茶色のロングヘアに白い肌でかわいらしい。ハーフではなく、純日本人らしい。


そんな彼女とは対照的で芹沢あいは純日本人の容姿である。

黒髪が幼くみえるので茶色に染めているが、ストレートヘアだ。肩より少し下まで長さがあり、広がりやすいのでいつもヘアアレンジをしている。





さっそくだれかいないか彼氏の雅(マサ)にメッセージの作成を始めた。

以前咲から雅を紹介してもらったことがあるが、とんでもないイケメンだった。

そんな彼の友人たちは逆に彼女がいない人なんているのだろうか。




ちょうど咲の後ろ側にカフェのキッチンが見えたので咲のメッセージが終わるまでカフェウォッチングでもしていようと店内を見渡す。

コーヒーを入れる人、レジでお会計する人、入り口で案内する人・・・・。

ふと目に入ったおしゃれな着こなしをしているお姉さんと手袋をして眼鏡をかけた店員さん。


常連客なのか知り合いなのかわからないが、コーヒー豆を売っている棚の前で立ち話をしているようだ。



「なんだか執事みたい。」



眼鏡の彼の第一印象はそんな感じだった。






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