凡人論

吾音

あなたには、話していません

 世界が新たな疫病への対策で揺れる中、ある為政者がこんなことを言った――


「あなた自身と、あなたの家族を守るため、あなたの大切な人を守るため、私たちの社会を守るため――」


 ふと、考えた――。

 この言葉は一体誰に向けられているのか?

 しっかり、考えた――。

 自分と、自分の家族、自分の大切な人、自分たちの社会を守るため?

 何から、守る――。

 命を落としかねない、疫病から?なぜ?

 だって――

 

 自分の命は大事でしょう?

 自分の家族の命は大事でしょう?

 自分の大切な人の命は大事でしょう?

 自分たちの社会は大事でしょう?


 それって、じゃない――?

 

 だとすれば――


 自分の命なんてどうでも良くて、

 自分の家族というものが居なくて、

 自分の大切な人というものが居なくて。

 自分たちの社会から排斥された――


 私には――何の関係も無いじゃないか


 為政者は大衆に語る。大衆の心情に訴えかける、より良い言葉を選りすぐり、語り掛ける。それはとても効率的で、とても情熱的で、とても扇動的で、とても排他的で、とてもだ。


 大衆とは、凡人、つまりの集団を指す。

 つまり、為政者が語りかける相手たいしゅうは、凡人の集まりということになる。凡人とは悪い意味に捉われることがあるが、輪を乱さないもの、という捉え方もできる。


 自分の命は大事で、

 自分の家族の命は大事で、

 自分の大切な人の命は大事で、

 自分たちの社会は大事だ――


 ――わが民は、大衆は、世界はこうあるべし。為政者は残酷に語る。

 価値観の多様性、生き方の多様性、果てには性的趣向の多様性までが叫ばれる時代ではあるが、未だに私の生き方に賛同してくれる者に出会ったことが無い。


 あぁ、私は世界ではない。。では、私は一体、になれなかった私は、に届かなかった私は――


――?


 私は、なぜ当たり前になれなかったのか?

 私は、なぜ凡人に届かなかったのか?


 私は。どうすれば当たり前になれるのか?

 私は、どうすれば凡人に届くのか?


 ひとつ、ひとつ、自分のを検証しなければならない。これは、私にしかできない、私が凡人に届き、世界になるための作業なのだから――。

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凡人論 吾音 @Naruvier

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