第48話 幼馴染みと変な奴 side アルフレート
幼馴染みのクラウスと和解したその夜、身体は疲れていたが気分が高揚して全然眠くならなかった。
しかしクラウスは夜の点呼に姿を見せなくて、どうやら眠ってしまったらしい。
クラウスの部屋の前に人集りが出来ており、翌朝には幼子を見る微笑ましい目で見られて恥ずかしがるクラウスが居た。
筋肉痛でヨタヨタ歩く姿が余計に庇護欲をそそっているのを本人は気付いてないのだろうか。
俺だって匙を持つ手が震えてしまうくらい全身が痛い、しかし伯爵家の人間としてみっともない姿を晒してはならないと、思いきり痩せ我慢してるだけだった。
そんなクラウスだが、恥を忍んで清浄魔法のコツを聞きに行くと凄く分かりやすく教えてくれ、練習にまで付き合ってくれた。
クラウスは可愛くて優しいところは全然変わってない、しかも兎の捌き方の指導の時に分かったのだが、料理まで上手かった。
俺は焦がしてしまったというのに…。
その後もクラウスは色々な才能を見せた。
野営交流会の時には騎士科の教師の命を救い、騎士達も気に入った訓練にもなる色々な遊び、清浄魔法もやり方を先輩が聞きに来る程だったし、水練も余裕でこなしてしていた。
しかもお菓子まで作れるのには驚いた、それもとても美味しかった。
ただ、それを兄のカール様に差し入れに行った時に我儘で有名なビューロー侯爵家の嫡男に絡まれたらしい。
ヨシュア先輩の話を聞いた限り問題無さそうで安心はしたが。
しかし抜けているところもあるので見ていて危なっかしい時も多々ある。
休日に出掛けた時も花街に続く道に行こうとしたり、お酒を飲んでみたいと言い出したり、いつの間にか寮の副料理長と仲良くなってたり、保養地に行った時も街で噂になった様だし。
保養地と言えば色々あったな…。
クラウスの海に対する知識にも驚かされたし、ライナーの実家に作らせた浮き輪というやつも便利だった。
まぁ、そのせいで油断して波に拐われたとも言える。
カール様とクラウスが戯れる姿を微笑ましく見ていたが、それで自分の周りを見る事を怠ったせいなのだが。
あの時は本当に怖い思いをした、川よりも温かくて身体も浮きやすかったのに、寝そべる様な体勢から身体を起こした途端に足元だけがヒヤリとしたんだ、まるで冷たい手で水底に引き摺り込まれそうな感覚だった。
結局デニス先輩の魔法で助けて貰ってとても恥ずかしい思いをした。
保養所で風呂に入る時もクラウスの勧めに従って温いシャワーにして正解だった、川では平気だったのに海ではあんなに肌が痛むなんて初めて知った。
風呂上がりではクラウスのシャンプーの香りに当てられた騎士達が騒ぎ出して焦った。
第三騎士団の者は大抵知っているが、他の寮の者はカール様以外クラウスが甘い花の香りの物を使っている事を知らない。
一番上の兄が騎士団に入る前に教えてくれたんだ、騎士団では嫡男で婚約者がいる人を除くと男同士で性的欲求を解消する事がよくあると。
性的欲求というのはなんとなく分かる気がする、正騎士なんかはそれを踏まえて従士を選んだりするらしい。
出征前に緊張を解す為に友人同士で抜き合いというものをする事も普通にあるとか。
可愛くて良い匂いさせたクラウスがそんな奴らに捕まったら大変な目に遭うと思い恐ろしくなった。
俺の場合は可愛いなんて表現するのは家族くらいで、他人からはそんな風に思われないだろうから平気だろうと思っていた、ライナーみたいに幼い雰囲気を残した可愛げがあるわけでもないし。
港街を皆で散策したのも楽しかった。
俺の考えた土産は却下されたが、自分が気に入ったので一つ船の模型を購入した。
狩に行く様になった時に父上が買ってくれたマジックバックはこういう嵩張る物を買った時に凄く便利だ。
クラウスは料理やお菓子が作れるだけあって、美味しい物を見つけるのも上手かった。
お陰でパウルにもいい土産が見つかったし。
ただ帰りの馬車では途中から第二騎士団のケヴィンとか言う変な奴が落馬した為乗り合わせる事になった。
アイツはクラウスに慣れ慣れしく話し掛けては頭を撫でたり肩を抱いたりと俺の神経を逆撫でた。
途中の休憩でクラウスに忠告したが、クラウスもライナーも俺を揶揄う為にやってると言い出した。
それならば俺が隣に座ればクラウスが触られる事も無いだろうと席を交代したが、アイツは予想を超える反応をした。
「あれ? アルフレート君が隣に座ってくれるの? 俺の事気に入ってくれたのかな? 嬉しいな~」
「そんな訳あるか! 馴れ馴れしいぞ」
ズイッと離れていた距離を詰めて顔を近づけて来た。
「アルフレート君って貴族なんだよね? アルフレート様って呼んだ方がいい? ああ、何か良い響きだな、これからはアルフレート様って呼ぼうかな」
恍惚とした表情でそんな事を言われて背筋がゾワゾワとした。
「やめろ! それならばクラウスの事もクラウス様と呼ぶべきだろう!」
思わずなかば悲鳴の様に叫んでしまった。
「え? じゃあアルフレート君で良いんだね? ありがとう! それにしても綺麗な金髪だねぇ、金の絹糸みたいだ。 それにとても良い香りがする」
ひとつに纏めて背中に垂らしてある俺の髪を指で櫛づけ匂いを嗅ぐ、髪に触れられゾクゾクと変な感じがした。
この髪はクラウスへの贖罪として伸ばしているのであって、お前に触らせる為じゃないんだ!
「やめろ! 勝手に触るな、嗅ぐな!」
鳥肌を立てて手を払い除けると眉尻を下げて作った様な寂しそうな顔をした、今までの慣れ慣れしさと打って変わった態度に少し怯んでしまった。
「哀しいな…、俺はアルフレート君と仲良くしたいんだけどなぁ。 騎士団同士の連携も大切だろう? 普段から仲良くする事って必要だと思うんだよね~」
全然めげても反省もしていなかった…。
それからも馬車に乗っている間中ベタベタ触られ、話しかけられて神経がすり減っていく思いをさせられた。
こんな慣れ慣れしい奴は人生で初めてだ。
「騎士団っていう大きな括りにしたら俺が先輩だよね~、だからアルフレートって呼ぶね。 でも身分はアルフレートの方が上だから俺の事はケヴィンって呼び捨てでいいからね」
王都に入った頃には殆ど返事をする気力も無かったが、ケヴィンは返事をするまで隣で話続けるので思わず勝手にしろと言ってしまった。
余程会う事も無いだろうから大丈夫だろうと思っていたが、あれから訓練場の向かいにある魔法防壁のある魔法訓練場から妙にタイミング良く鉢合わせたりする事がある。
その度に一瞬片目を瞑り視線を投げ掛けて来る、あれが色目を使うというやつだろうか。
保養地から帰寮した後、クラウスがクルト先輩とヨハン先輩に骨煎餅を強奪された後に頬を玩具にされ弄られていたが、あの馬車での辛さを分かち合えると思い眺めるだけで助けなかった。
そのせいかクラウスの誕生日パーティーでは令嬢達に囲まれる時は令嬢達から見えない様にガッチリ捕まえられて巻き込まれた。
色んな香水の匂いに囲まれてクラクラしそうだった、クラウスの優しい香りを見習えと言いたかった程だ。
でもまぁ、ダンスの時に触れる柔らかな身体は嫌いじゃ無い。
腰の辺りはコルセットでガチガチだったりするのだが。
コレがクラウスだったら、クラウスが実はクラリスという令嬢だった、なんて事があれば迷わず婚約を申し込むのだが…。
そんな事を考えて実家で眠ったその日、俺は精通を迎え、何故あんな事を考えた夜になったんだと少し自己嫌悪に陥った。
そして清浄魔法が使える事をこんなに感謝した事はない、最初の日にアルバン訓練官が言った意味が良く分かった。
この事は誰にも言っていないのだが、帰寮した時ヨシュア先輩と目が合い訳知り顔でニヤリと笑い掛けられた、犬の獣人だから気付かれてしまったのかもしれない。
クラウスの誕生日の翌朝、朝食を食べ終わった頃にフラフラの状態でカール様に連れられて帰寮してきたのでどうしたのか聞くと、蕩ける様な笑顔で叔父さんになったと報告してくれた。
パーティーの後エミーリア夫人が出産したらしい。
その後週末の度に実家に戻り、夕食の時間に戻って来る事が殆どなのでその度にヨシュア先輩に弄られている姿を見る。
すっかり甥にメロメロの様だ、この様子じゃ来週に俺の誕生日がある事も気付いてないだろうな…。
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