第19話 平日の騎士団寮

 野営交流会から数日、あれから顔見知りも増えて緊張した顔が多かった寮の雰囲気もなんだか和やかになった気がする。


 同期のパウルも清浄魔法クリーンが使える様になって洗浄係のローテーションに加わり、洗浄室には同期全員分の服も置かれる様になっていた。


 今日は俺の当番の日だったので朝食後に洗浄室へ向かうと久々にライナーと同室のゲルト先輩が居た。


「おはよう、なんだか会うの久しぶりな気がするね。 野営地で話しなかったからかな? お昼のスープは美味しく頂いたけどね」


 ニコニコと優しい緑の眼を細めて笑う。


「おはようございます、スープ食べたんですね。 お口に合って良かったです」


 挨拶を交わして清浄魔法クリーンを掛ける。

 その様子をゲルト先輩がじっと見ていたので首を傾げた。


「どうかしましたか?」


 声を掛けると。


「いやぁ、今年の新人の服だけ異様に綺麗な状態が保たれてるって他の皆の噂になってるの知らなかった? ほら、見比べてみてよ」


 言われて他の棚に置いてある服と俺が担当した服を見比べると、俺が今清浄魔法クリーンを掛けたものが新品と言われても納得出来そうなくらい綺麗なのに対して、他の服はそれなりに蓄積されて取れなくなった様な汚れがうっすら見える。

 訓練服はサイズも変わるので、毎年新しく支給されるから古いせいで薄汚れてるという訳ではない。


「でも同じ魔法使ってますよね?」


 不思議に思い、腕を組んで顎に手を当てて考え込む。


「今日学校の魔法学の先生に聞いてみるよ、夕食の時に結果報告するのでどう?」


「じゃあ今日は夕食は食べずに待ってますね、食事に行く時声を掛けて下さい」


 コクリと頷き一緒に夕食を食べる約束をした。


  部屋に戻ってサミュエル先輩を見送り、年少三人組が合流して中庭へ向かう。

 野営から帰ってからはまずストレッチしてランニングを段々時間を伸ばして現在三十分、訓練場前で各自武器の素振りと足運びの練習。

 足運びは武器によって違うし、間違えると大変な事になるので皆真剣だ。

 例えば右上から左下へ斬りつける時に左脚が前に出ていたら自分の剣で自分の脚もバッサリ、なんて事にならない様に。


 それが終わるくらいに昼休憩となる、出動命令の出てない第三騎士の人達も同じ食堂を使うのでたまに一緒に食べる時もある。

 殺伐とした訓練をした後でも小さい俺達を見ると気持ちがフラットに戻るらしいので、存在するだけで良い効果だそうな。

 

 たまに怖い雰囲気で血が付いたまま食堂に来て怒られてる人も居るので、治癒魔法はまだ擦り傷程度しか治せないけど清浄魔法クリーンと初歩の治癒魔法ヒールを掛けたりして話す仲になった人もいる。


 そういう人達とは別に、俺達がアホな遊び(前世の知識)をしているのを見て混ざりに来る人達も居た。

 あっち向いてホイは瞬発力と判断力が鍛えられると好評だった。

 

  一人が人差し指と親指で輪っかを作り、ハンカチを通してもう一人がハンカチを引き抜く瞬間輪っかを縮めてハンカチを止めるという遊びも瞬発力を鍛えられると流行った。

 

 口に水をたっぷり含んで向かい合って、第三者が面白い一言を言って水を吹き出さずにいられるかどうかという遊びも平常心を鍛えるのに良いと言って推奨されたが、面白い一言が難しいとイイ大人が真剣に悩んでて笑ってしまった。

 汚い表現になるが個人的には真面目な顔で「うんこブリブリ」が最強だと思ってる。

 男っていくつになっても下ネタ好きだよね!


 ちなみにこの子供の遊びの数々は騎士に憧れて夢を持って目指している見習い少年達の為に学校に皆が行ってる間にのみ行われている。

 俺達はやり始めた当事者だから見られてもいいらしい。

 むしろたまに一緒にやってるが、騎士の瞬発力を見せつけられて尊敬した。


 大抵は食後にそうやって遊んだり話をして過ごす。

 午後は一時間程見取り稽古という事で、騎士が使っている訓練場の中で自分と同じ武器を使う人達の訓練の見学をする。

 その後見た動きを真似たり、イメージトレーニングしたり、筋トレとランニングの後ストレッチをして一日の訓練が終わる。


 騎士団の訓練は見習いの俺達より当然長いので、いつも年少組が一番風呂だ。

 何だか大浴場が一日の反省会の場となるのが恒例化してきている。

 ふと思い出したので、今朝ゲルト先輩が言っていた服の綺麗さについて二人に話した。


「そういえばゲルト先輩が言ってたね」


「やはり気のせいじゃ無かったか、洗浄室で並んでる籠を見た時に俺達の服が他の棚にある物より綺麗な気がしたが、自分で魔法掛けてる欲目でそう見えてるだけかと思ってたんだが…」


 アルフレート…、そんな事思ってたのか、コイツ将来親バカになるの決定じゃないか?

 自分が魔法掛けただけの物に対してにすらそんな欲目って…!

 今口に水を含んでたら吹き出したかもしれない。


 笑っちゃいけない時って笑いの沸点下がるもんね、前世で法事の時に四人が偉いお坊さんと焼香台の周りをグルグル回りながらお経唱えてるのがジワジワ笑えてきちゃった時とか凄い苦行だったし。


 そんな事を考えながら頬の内側をそっと噛んで笑いを堪えた。


「それで今日ゲルト先輩が魔法学の先生に聞いて、夕食の時に教えてくれる約束をしてるんだ」


「それなら俺も教えて欲しい」


 そう言うのでアルフレートも夕食の時に誘う約束をして部屋にもどった。

 しばらくしてサミュエル先輩がシャワーに行き、戻って来て暫くするとゲルト先輩が呼びに来たのでアルフレートも一緒に行く旨を伝えて皆で食堂に向かった。


「いただきます」


 ポソっと呟いて食事を始める、運動量が増えたせいか食事が美味しい。


「で、魔法学の先生が言うにはイメージの仕方の違いじゃないかって話なんだ。 僕は普通に汚れと臭いが落ちるようにイメージしてるんだけど、二人は違うのかい?」


「俺は最初上手く出来なかったのでクラウスに絵を描いてもらって頭に浮かべやすくして貰いました」


「絵? どんな絵を描いたか見せて貰えるかな?」


「はい、確か裏にまだ書けるから引き出しに入れっ放しなので部屋に戻ればありますよ」


 俺達は話しているからゆっくり食べていたが、サミュエル先輩は既に食べ終わっていた。


「じゃあオレは先に部屋に戻ってすぐ部屋に入れる様に鍵開けておくか」


 そう言って立ち上がる。


「ありがとうございます、お願いしますね」


 お礼を言って食べるスピードを早めた。


 食後ゲルト先輩とアルフレートも一緒に部屋に来て絵を見た。


「こっちが汚れが付いてる布の絵で、俺のやり方だと水をこっちの絵みたいに糸の隙間にギュッと押し込んで汚れを押し出す感じです。 そのあと布から水を全部引き剥がすというか、それを水を出さずに空気中の水分を使ってやるイメージです」


 アルフレートにした説明より幾分丁寧に絵を見せながら話す。


「ああ、成る程。 僕が今までやってたイメージは大雑把過ぎたんだね、というより君達のイメージが繊細過ぎるくらいというか…」


 納得できたのか、とてもスッキリした顔で頷いた。


「他の人達にも教えてあげたいから、この絵貰ってってもいいかな?」


「はい、俺が話すよりゲルト先輩が話してくれた方が皆も話を聞いてくれそうですし」 


 聞かれる度に説明する面倒が避けれてラッキーと思いゲルト先輩にいい笑顔で丸投げした。


「もうすぐ点呼だし、部屋に戻るよ。 邪魔したね、ありがとう。 おやすみ」


 優しく微笑んで部屋に帰って行った。


「俺も戻る、おやすみ。 サミュエル先輩もおやすみなさい」


 ペコリと頭を下げてアルフレートも出て行った。

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