第2話 入寮1日目

 入団式が終わり、各自寮へ行き同室となる先輩との顔合わせが行われる。

 近衛騎士の第一騎士団寮、魔術師騎士の第二騎士団寮、俺が所属する第三騎士団寮。

 故に近衛騎士団であるカール兄様とは寮も別々という事になる。



 同室の先輩の年齢によっては最長四年共に過ごす事になる。

 騎士見習いになれるのは十歳からで、十二歳から十五歳まで学校へ通いながら鍛錬して卒業と同時に一人前の騎士になれる。



 騎士へと昇格すると一人部屋が与えられる。

 学校は一年基礎学問を習った後にそれぞれなりたい職業の為の選択科目が選べるので、遅ければ十三歳から騎士見習いになる者もいる。



 横暴な先輩でない事を祈りながらドアをノックする。



「どうぞ~、鍵は開いてるぞ」



 中からのんびりした声が聞こえた。

 少しホッとしつつドアを開けてから



「失礼します、今日からこちらでお世話になるクラウスと申します。 よろしくお願い致します」

 


 右手を左胸に当て、頭を下げて騎士の礼をとる。

 この第三騎士団は身分が関係ないので皆名前だけで家名があっても名乗る者は少ない。



「そんなに緊張しなくていいぞ、オレはサミュエル十三歳だ、よろしくな」



 近付いて来て手を差し出された。

 握手をしようと顔を上げて手を握り返す。



「・・・・・・!!」



 サミュエルを見て歓喜の声を上げそうになるがグッと堪えた。

 目を見開いたまま声を失った様に見えるクラウスに苦笑いを浮かべ



「獣人を見るのは初めてなのか? 噛み付いたりしないから安心しろ」



空いている左手でポスポスと頭を撫でられた。

 サミュエルはホワイトタイガーの獣人で身長百七十センチ程で、凛々しいイケメン、銀髪で水色と灰色と銀色が混ざった様な不思議な色合いの瞳をしていた。



(ケモミミキター!!)

 内心とても荒ぶってはいるが引かれてはならないと平静を装う、貴族の嗜みでポーカーフェイスは慣れたものだ。



「獣人の方を見た事はあっても知り合ったのは初めてですが、怖がってるわけではありません! 同室になれて光栄です! サミュエル先輩、二年間よろしくお願いします!」



 ポーカーフェイスはどこへやら、満面の笑みで握った手を上下にブンブンと振る。



「げ、元気な奴が入ってきたな…、賑やかになりそうだ」



 サミュエル先輩の苦笑いが引きつった笑みに変わった気がするけど、きっと気のせい。

 気のせいという事にしておこう。

 先に届けられていた荷物を解いて片付けていると夕食の時間となった。



「クラウス、夕飯食いに食堂へ行くぞ」



 自分のスペースで寛いでいたサミュエル先輩が声を掛けてくれた。



「はい!」



 元気よく返事する。

 会って数時間だが完全に懐いた、むしろ一目見た時からと言ってもいい。

 前世から大型肉食獣をモフってみたいという願望を持っていたせいなのかもしれない。



(もっと仲良くなったら完全獣化とかできるのか聞いてみよう)

 サミュエル先輩が背を向けているのをいい事にニマニマと下心満載の笑みを浮かべてしまう。



 食堂に着くと見るからに初々しい新人(自分もだけど)と同室であろう先輩の組み合わせと立派な体格をした一人前の騎士達で百人程入れそうな食堂が半分以上埋まっていた。

 サミュエル先輩が食堂のシステムを教えてくれる。



 「で、ここに並んだら食べたい物をトレイに乗せて、空いてる席で食べればいい」



 先に手本としてひょいひょいと自分のトレイに料理を乗せ、フォークとスプーンも乗せる。

 就職した会社の社員食堂と同じシステムだ、なんだか懐かしい。



「飲み物はあっちだ、水とレモネード、あと熱い紅茶と冷たい紅茶だな」



 魔導具で温度調節された飲み物が並んでいたので隣に置いてあったコップに水を注いでトレイに乗せて空いている席に向かう。



「よぅ、サミュエル! お前の同室は随分ちっさいな、大丈夫なのか?」



 いただきますをしようとした瞬間、犬の獣人らしき人が絡みに来た。



 「クラウス、コイツは何も考えてないだけの奴だから気にするな」



 チベットスナギツネってこんな感じ、そんな表情のまま親指でクイッと犬の獣人を指し、何事も無かったかの様に食事を始めるサミュエル先輩。

 コクリと頷いて俺も食事を始める。



 いつもの事なのか犬の獣人はギュッと眉根を寄せてからサミュエル先輩の脇腹を数回強く指で突くと脱兎の如く姿を消した。

 きっと仕返しされる前に逃げたのだろう。



 犬の獣人の姿が見えなくなったのを確認して大きなため息を一つ吐くと



「アイツはオレの同期のヨシュアって奴だ、悪い奴じゃないが馬鹿なんだ。 見た通り犬の獣人だ、寮に住むんだから追々皆の顔と名前を覚えていけばいいだろ」



 食事を終えると返却口にトレイごと置く。



「ご馳走様でした」



 返却口にいた料理人に笑顔で挨拶すると、驚いた様にポカンとした顔をされた。

 そういえばこの世界では「いただきます」と「ご馳走様」って言わなかったな…。

 記憶が戻ってから日本人な『私』がひょっこり出て来るから気をつけねば。



「風呂は浴槽がある大浴場とシャワー室の二種類あるぞ、寒い時期は大浴場が人気だが暑い時期はシャワー室が人気だな。 まぁ、様子見て空いてる方を使えばいいさ」



 部屋へ戻りながらサミュエル先輩が教えてくれる、俺の中の日本人が大浴場へ行けと囁く。

 今は春だから人気の偏りは無いらしい、それならば選択は一つ。



「俺、今日は大浴場へ行ってみたいです」

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