【完結】転生騎士見習いの生活

酒本アズサ

第1話 プロローグ

 前世を思い出した切っ掛けは馬車の事故で両親が亡くなったと聞かされ、ショックで熱を出して寝込んだもうすぐ十歳になるという秋の事。


 兄二人姉一人がいる末っ子として両親に可愛がられていたので、兄姉達は自分達も辛いだろうにとても俺の事を気に掛けてくれた。



 近衛騎士団の副団長で伯爵位の父は四十五歳になる来年には二十六歳の長男に家督を譲って母と領地でのんびり暮らそうと引退後を楽しみにしていたというのに。



 明日には葬儀が行われるからしっかりしなければいけないという気持ちと、可愛がってくれた両親が亡くなった悲しみと、前世の自分の家族や友人に二度と会えない寂しさと記憶で頭がごちゃごちゃになって涙が止まらない。



 ぼんやりと自分の死因を思い出す。会社が一棟借り上げしているアパート寮暮らしの『私』はお正月の帰省で会う甥姪へのちょっと遅れたクリスマスプレゼント兼お土産を同期の友人と買いに出掛けた帰りに、右折したトラックが曲がりきれずに遠心力で倒れてきて咄嗟に友人を突き飛ばした…ところまでは覚えているけど、友人が助かったかどうかはわからない、助かってお土産を甥姪に渡してくれてるといいな。



 そう、前世の『私』は橘雅たちばな みやびという二十一歳の女性だった。

 雅なんて名前だったが自他共に認める野生児で、子どもの頃は冬以外はオヤツは海、山、川から現地調達する事も多かった。

 


 勉強はあまり得意ではなかったので高校卒業後、運良く大手企業に就職。

 家族は祖母と両親と歳の離れた姉、大学生の弟。

 前世の家族を思い出したら、止まりかけた涙が再び溢れてくる。



「クラウス、熱は下がったか?」



 そう問いかけながら俺の部屋の扉を開けたのは長男のアドルフ・フォン・ヘルトリング、葬儀の準備に忙しいだろうに様子を見に来てくれた事が嬉しい。

 ぐいっと目元を袖で拭い身体を起こす。



「ほとんど下がりました、明日には回復してると思います。アドルフ兄様が一番大変なのに…こんな時に心配かけてごめんなさい」  



 申し訳なくて俯いてしまう。



 兄様は近付いてベッドの淵に腰をかけると優しく頭を撫でながら  



「大切な弟を心配するのは当然の事だろ? 二人も後で様子を見に来るそうだ」



 そう言って笑いかけてくれる。

 一人だけ歳が離れているせいか兄姉達はとても優しい。




 翌日、近衛騎士団長を伴った陛下を筆頭に錚々たる顔ぶれが両親の葬儀に参列してくれた。

 そしてアドルフ兄様が家督を継ぐ事がその場で発表された。



 現在王都の屋敷には長男夫妻と来年結婚して家を出る姉、そして俺の四人の家族だけになった。

 次男のカール兄様は近衛騎士団の寮に住んでいる。



 俺はというと、十歳になったら騎士団見習いとして寮に入る事になっていた。

 来年両親が領地に行き、姉が嫁に行ったら使用人達がいるとはいえ、新婚家庭に一人というのが子供ながらに気まずいと思っていたからだ。



 三ヶ月の喪が明け、翌年の春になり姉のブリジット姉様の花嫁姿を見送り、翌週には俺の騎士見習い入団式がある。

 跡取りでも予備でもない俺が入るのは危険の少ない近衛騎士団ではなく能力さえあれば貴族、平民、亜人関係なく入れて、活躍すれば爵位ももらえるかもしれない実力主義の騎士団だ。



 入団式の当日、近衛騎士団や魔術師騎士団の見習いも一緒に入団式をするので儀礼用の制服を身に付けた騎士達が勢揃いしている光景は壮観だった。



 魔術師騎士団が魔法で祝砲の花火を打ち上げ、場を盛り上げる。

 文官として頭角を現しているアドルフ兄様は宰相補佐として入団式に参加していた、カール兄様と俺を見つけて嬉しそうに微笑んでいる。



 今日から騎士寮での生活か…、前世で寮生活を始めるにあたって実家を出る時に全て闇に葬った腐臭のする黒歴史が頭を過ったが、そっと記憶に蓋をした。



 俺はまだ十歳な訳だし、男同士の恋愛が普通にアリな騎士団でもイエス ショタスキー ノータッチ!…だよね?

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