ミキサー
珈琲を入れる。この深い茶色に溶ける眠気が、凝縮して瞳に映る。
気だるさは抜けない。昨日も一昨日も、仕事は詰まっていて、気が逸れる声がして、感情が渦巻いていた。
何かに手招きされているようで、でもそちらに何も無いのは見えていて、考えることがまた気だるさをうむ。珈琲を飲んだ。私の朝は、空っぽだ。
いる?いらない。
欲しい?いらない。
脳で繰り出す言葉に、頬杖から机に突っ伏す。タバコ。でもまだ珈琲があるから。
選択肢が多すぎる。選択しないと生きていけないけど、囚われすぎるのも、結構厳しい。
りんご。チョコレート。欲張り。頬張り。
はぁとため息が出た。今日は何を着よう。ブカブカのTシャツだけでいいか。珈琲をもう少し飲む。口の中で転がして、ずっと残り続けた眠気を飲み込んだ。
タバコを加えて、しばらく遊んで、火をつけて息を吸う。なにかになれる気がして、けれど何にもなりたくなくて、
吐き出した煙も浮遊するだけだ。蜂蜜みたいにドロドロ甘い感情を眺めて、葉を燃やして灰を落とす。それくらいが丁度いい。
手招きするなにかに、じっと見られている。気が付かない振りをして、もう一本火をつける。
スマートフォンが振動した。見れば広告のCMだ。はぁと大きな息が出る。こういう日には、余計なものはいらないのに、見えた真っ赤な口紅が今日は妙にグロテスクで、今化粧をしていないの事に、さらに嫌気がさす。
寂しいかい?いらない。寂しいのかい?いらない。
欲しい影がチラついて、目を逸らしてもまた見える。
りんご。チョコレート。飴玉。ビー玉。
絶対欲しい、全然いらない。揺れる電車。空っぽのホーム。燃えるタバコ。真っ黒な珈琲。
全てミキサーに入れて、一気に液体にして、全て飲み込んでしまえたら、細かいことを気にせずにすむのに。でも、どうせなら君は残しておこう。
欲しいのかい?馬鹿らしい。
いらないところは、ないのだから。
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