虹が世界を繋ぐ時〜Stolen Rainbow and the Maiden of Sugar〜
甘栗 秋香
1. 消えた色彩〜Disaster.
遠い昔、世界から色が奪われた。
パレトでは色彩を原動力として『魔法』を使う。
しかし、色彩を必要としていた『科学』と『機械』の国、カンヴァスによって色彩が奪われたが故に人々は魔法が使えなくなり、遂には凶暴化する妖精や幽霊、妖怪が現れた。
そんな中、突然現れたのは白髪の『砂糖の巫女』。
それはニホンと言う国から転生した神霊の力を使って祈祷する少女。
神秘的な少女は色彩の力を必要としないその圧倒的な力と、『七色の騎士』と呼ばれる砂糖の巫女の護衛の魔法使い達の力でパレトの色彩を奪い返し、パレトは少女を祝福した。
そうして、『色彩大戦』と呼ばれた戦争は終わり、パレトにはいつもの平和が訪れた。
「……と言うのが色彩大戦の神話です。質問ある人はいますか?」
オレ、ユウは時空の教科書のページをぺらぺらとめくった。
ここは王立エスポワール第七魔術学院。人間から天使や精霊、それから神様の使いなんかも通うパレト最大規模の学院だ。
ここは由緒ある学び舎で、校舎の正面にある大きな庭園では、透き通った恵みの水の噴水を囲むように七色の薔薇が咲き誇っていて、校舎横のホールには日光に照らされ煌めくステンドグラスの窓が設置されている。
オレら高校二年生は今の時間本来ならば時属性の魔法を習っているところが今年からはパレトの歴史を学んでいる。
今日のテーマは、この世界で起きた最悪の戦争についてだ。
「ふぁ〜あ……」
眠くなってきた。大体歴史なんて知ったって意味ないしつまんないよ。ほら、皆んな寝てるか机の下でゲームしてるし。
まともに授業を受けてる奴と言えばあそこにいるレオと……あとは三回も飛び級したって噂の天才児、ハヤだけ。
オレもこっそり寝よう。おやすみなさい……。
「うわっ、なんでオレここに……!?」
昼食の時間になったと思って起きたら、オレは何故か治癒室のベッドに横たわっていた。
それにしても、なんだか気分が悪いな。
「起きた、起きたよ! ピンクゴールドヘアーの子起きたよ!」
「うわあっ!」
突然ベッドを隠すカーテンの隙間から紫色の髪の女子吸血鬼が顔を出した。どういう訳か安堵の笑顔を浮かべている。
なんだ、この人。同じ学年に吸血鬼っていたっけ……?
「あ、あの、貴方は」
「そうだった自己紹介してなかったんだ。
改めまして! ごほん、私の名前はルカ。ルカって呼んで! 君はユウくんだよね? よろしく〜っ!」
初めましてとは思えない程の笑顔で握手を求められ、あまりの明るさに苦笑いをしながらも取り敢えず握手を交わした。
「気分は良くなった?」
「え、ああ、うん……?」
「実はさっき『白化』した後にユウがすごく苦しそうに唸り声をあげてた、っていうのをハヤから聞いて……。話したい事があるから一緒に図書室に来てくれる?」
それにしてもなんでかな、気持ち悪いし胸騒ぎがする。ルカの言ってた『白化』ってなんなんだろう。
オレは何も言わずに頷き、ルカに着いていった。
「な、なにこれ……」
「今日って天気が悪かったじゃん? 授業が終わった瞬間、大きな雷がパレトのどこかに落ちてさ……全ての物体はもちろん、私達以外はみんな泡のように消えちゃったの。
今や色彩が残ってるのは私たちの体だけ」
なんと、壁も、床も、美術の作品も、庭園の花も、窓の向こうの桜並木も、何もかもが色彩を失い、無機質な真っ白になっていた。
意味がわからなくて開いた口が塞がらない。
噴水から溢れる水は牛乳のように白く、木製の厚い焦げ茶色の扉も真っ白になっていた。
暖かみの無い、冷たい白。
「な、なんでオレ達だけ色彩が奪われていないの……?」
「分からない。
それでね、私達は魔法が使えなくなったの。
色彩石も国中のポーションが盗まれたっぽくて誰も魔力回復出来ないんだよね。出来たとしても祈祷師くらい?」
慌てて自分の右手の中指を見る。
「真っ白でしょ?」と聞かれて、放心状態で頷いた。
パレトに住む者は皆んな、自分の指に『色彩石』と呼ばれる石をつけた指輪をはめている。
色彩石って言うのは自分が生まれた瞬間に発する涙が個体化したもので、最初は真っ白なんだけど成長するにつれて自分の得意魔法──すなわち『属性』が決まって、その属性を表す色に変化する。
属性が決まったらその魔法を使う時に必要な魔法陣や式神とかを用意しなくてよくなる。故に、別名『魔力源』と呼ばれている。
また、魔力を使いすぎると段々色彩石が白くなっていって、魔法の威力が弱くなったり、最終的には全ての魔法が使えなくなったりする。
「ちなみに私は闇属性! ユウは何?」
「えっ、えっと、光……かな」
「そっかー。私は光魔法ほんとに苦手だな〜……よし、着いたよ」
オレは自分の色彩石の色を思い出した。
怖いほどに鮮やかなピンクゴールド。色彩石は鮮やかなほど体の中に秘めた力が大きい。
しかしそれで喜んでくれる人はいなかった。何故なら色彩石をピンク系統の色に染める属性は存在しないからだ。そして名付けられたのは『幻属性』。
一体何度『不気味』だと軽蔑されてきた事か。
考えれば考えるほど嫌な思い出が蘇る。
……ネガティブに考えるのはよそう。
「さあ、ここが我々サバイバーのアジトだっ!!」
「そんなカッコよく言わなくていいよ、非常事態なんだから」
「テンったら辛辣……!」
図書室に入ると、ネクタイからして三人の同学年が木製の丸いテーブルを囲むように座っていた。
その中にはレオとハヤもいた。
「ちょ、ちょっとどういう事か説明してよ……!」
「まずはこの席に座って。ハルが今から皆んなの分のお茶を淹れてきてくれるから」とルカ。
頭の中が混乱で満たされたままオレは席に座った。
レオとハヤは同じクラスだけどあんまり喋った事は無いし、その他の人は同じ学年とはいえ顔を合わせた事すら無い。
「……」気まずい沈黙が続く。
色彩が無くなるなんて経験した事ない。考えた事も無かった。
まずオレ達以外の人がいなくなったって証拠はあるの? 魔法が使えなくなったらオレ達どうやって生きていくの? どうして色が無くなったの?
色々考え込んでいると、レオが咳払いをして言い放った。
「……カンヴァスがここの色彩を奪ったって本当なのか?」
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