第23話


 私はそれからミミズとの戦闘を思い出していた。

 さきほどルフェルは私をとっさに庇ってくれた。


「そういえば、先ほどはありがとうルフェル」

「ああ、いや気にしなくていい。それより、その……いきなり抱き着いてしまってすまない」

「いえ、気にしないで。助けてもらって嬉しかったわ」


 私がいうと、ルフェルは照れ臭そうに頬をかいていた。


「あのくらいは気にしないでくれ。とっさに体が動いてしまっただけなんだ」


 咄嗟に私をかばうように動いてくれた。

 そう思うと、頬が緩んだ。

 ルフェルはそれから、つづけるように言った。


「お礼を言いたいのはこちらのほうだよ。あの支援魔法があったおかげで、安全にミミズと戦えたからね」

「それは……良かったです。ルフェルに怪我でもさせてしまったら、申し訳がないので」

「そんなこと気にしなくていいんだよ」


 ルフェルは苦笑していた。とはいえ、私はこうして保護してもらった身だから、彼の言葉を素直に受け取ることはできなかった。


 魔物の死体を退け、それからすぐに馬車は王都を目指して出発した。

 馬車が落ち着いてきたところで、私はルフェルをちらと見た。


「ルフェルも剣の扱いは上手だったけれど、学んでいたの?」


 貴族はたしなみ程度に剣術を学ぶことはあるけれど、本格的に学ぶことはすくない。

 だけど、ルフェルの動きはまさに騎士のように軽やかなものだった。


 これが次男……三男となると、わからないものでもなかった。家を継げない可能性のある子どもが、騎士になるために騎士学園に通うことがあるからだ。


 ルフェルは公爵家の長男なのであそこまで剣の扱いにたけているとなると、気になるものだった。

 私みたいに、将来精霊使いとして働くのなら分からないものでもないのだけどね。


「まあ……それなりにはね」


 ルフェルはどこか困った様子で頬をかいていた。


「何か事情があるの?」

「……あー、うん」


 ルフェルは恥ずかしそうにそう頬をかいていた。と、馬車内にいた私たちの世話係を務める少し歳のとったメイドがくすりと微笑んだ。


「別に恥ずかしがることでもないんじゃないですか?」

「……おい、わざわざいわないでくれよ」


 ルフェルはさらに恥ずかしそうな顔で、むすっと僅かに唇をつんと向ける。


「申し訳ございません」


 歳のとったメイドは、くすくすと微笑んでいる。

 一体どういうことなのだろうか?

 私が疑問に思って首を傾げると、ルフェルは額に手を当て、それから嘆息をついた。


「……好きな人を守れるように剣は学んでいたんだよ」


 

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