第17話


「――リンダのせいで、すべてが狂った」


 そんな声が誰かの口からもれ、私は裁判所にて、がたがたと震えていた。

 ……裁判所の傍聴席には、数々の貴族たちが押し入り、皆が顔を真っ赤に激昂していた。


 ……この裁判は形だけのものだ。ここに平等や正義はない。

 権力を持った貴族の手によって、いくらでも状況は変わる。

 だからこそ私は、アルフェアをあっさりと罪人に仕立て上げることができた。あの時は――アルフェアが王子の怒りを買ったことで、公爵家の者は何も干渉できなかった。


 ……だが、今はその逆だった。


 私の家……クズズ家のみんなは涙を流していた。

 ……私の独断による行動ではあったが、家族皆までもが罪人として扱われた。

 ……それは当然だ。


「あのクズズ家が原因で……精霊契約の魔法陣が使い物にならなくなったらしいじゃないか!」

「おまけに、優秀な精霊使いは隣国に行き、おまけに守護精霊であるフェンリルまでもが国を去った! これから数十年後、我が子孫たちは精霊と契約が出来ずに過ごすのだぞ!?」


 ……精霊契約はかなり大事なものだった。

 精霊と契約すれば、魔法の威力が十倍から数十倍に膨れ上がるといわれている。

 それほどの力がなければ、魔物が多いこの世界で安全に生活していくなんて不可能だ。


 ……何より、守護精霊であるフェンリルがいなくなったことが大きな問題だった。

 フェンリル様は、この国全体に結界をかけ、魔物自体を弱体化していたといわれている。


 さらには、天候を操る力を持っているとされている。フェンリル様がこの国を守護してくださるようになってから、干ばつなどの問題はもちろん、地震などの災害も一切起こらない、安全な国となった。


 ……それらは、すべて証明されたものではない。

 ……もしかしたら、フェンリル様がいなくなっても自然災害に関しては何も起こらないかもしれない。


 だけど……精霊契約ができないのは、大問題だった。

 傍聴席にいたウェンリー王子は、渋い顔で私を睨んでいた。

 ……私は、この中で唯一味方だった彼に、声をかけた。


「……う、ウェンリー王子。わ、私はただあなたを思って――」


 しかし――ウェンリー王子は私を見て激昂した。


「……なんてことをしてくれた! 貴様のせいで、オレの国はぼろぼろなんだぞ!? 父上の病状も悪化した……っ!! オレの婚約者もいなくなった! どうしてくれる!」


 私はぎゅっと目をつむり、何度も頭を下げる。

 だが……傍聴席にいた貴族たちの『死刑』を求む声はやまない。

 ……体ががたがたと震える。

 助けを求めるようにウェンリー王子を見た私は、彼の冷たい表情に絶望する。


「……死刑だ。貴様の首をささげ、アルフェアに戻ってきてもらう。いや、貴様の首だけでは足りない。……この国の未来がかかっているんだ。クズズ家の者たち全員、同じく死刑だ!!」

「か、考え直してください! せ、誠心誠意謝罪はします! いくらでも頭を下げますし、奴隷の身分になっても構いません! ですから、命だけは――!」

「黙れ。裁判長、判決を言い渡せ」

「……ええ、そうですね。今回の一件は、国を揺るがすほどの大問題です。謝罪や、牢獄での懲罰などでは決して許されないでしょう。……死刑が妥当でしょうな」


 裁判官の宣言に、会場内は沸き上がる。

 そして私たちは……ただただ、絶望していた。





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