第43話 憩いの一時 ―I don't want you to regret it.―

 真面目で不器用な青年は、聴衆を引きつける話術など持たない。

 彼にできるのは目の前の子供たちに逃げずに向き合い、声を届けること。

 意思を、願いを、ありのままの言葉で伝える――それだけだ。

 

「……僕は仲間を失い、戦場が怖くなって逃げた。だけど、ずっと後悔が付きまとった。罪悪感は消えることがなかった。自分が逃げた分、代わりに誰かが戦っている。そのために死ぬ人もいるだろう。僕は迷い続けていた。戻るべきなんじゃないかって、ずっと」


 掠れた声で語るアオイ。

 歯を食いしばり、拳を固く握った彼は言葉を続けていく。


「君たちに、同じ後悔をしてほしくないんだ。罪悪感を抱え続けるのは、君たちが思うよりも辛いことだ。どうしても戦場が、死が怖いというのは責めない。それは生き物として当然あっていい気持ちだ。危険から逃げるのは当たり前の本能だ。

 でも――人は社会を作ってしまった。誰かがいなくなれば誰かが戦場へ飛ぶシステムを構築してしまった。そのシステムを断ち切るには、敵が滅ぶか人が滅ぶかしかない。敵の滅びを願うなら、未来の子供たちを守るなら、逃げちゃいけないんだ。

 僕はそれに気づくのに二年かかった。可愛い後輩に役目を押し付け、のうのうと学園で生きてきた。そのくせ子供たちに真実を隠す自分に嫌気が差し、辛さに負けそうになっていた。――馬鹿だったよ。本当に、馬鹿野郎だ」


 青年は自分の身勝手さをそう唾棄した。

 愚かだった。自分のことだけを考え、周りの者のことは何も見ていなかった。

 彼女(カノン)からは何も言わず離れ、引き止めるナギも無視した。教師をやるには相応しくない人間だと、自分でも思う。

 それでもやり直すことが許されるのならば――彼は再び戦いたい。

 カノンやナギへの償いは、それでしか出来ないだろうから。


「戦場から逃げたいという君たちの思いは分かる。でも、もう一度だけでいい、実戦試験に参加してほしい。『第二の世界』では死ぬこともない。一度臆病になったって、次でやり直せるんだ。本物の戦場で失敗する前に、この世界でそれを学んで欲しい。勝つことも負けることも等価値の素晴らしい経験だ。それでも、戦場に立つたびに辛さが増すのなら、舞台を降りてもいい。ただ、戦えると思ったのなら、戦えない者の思いも背負って戦い続けてほしい。戦える者が戦場を去れば、戦えない者までもそこに駆り出されてしまうかもしれない」


 誰しもが強くあれるとは限らない。弱い者も当然いる。それを前提にした上で、強い者は弱い者の分も力を振るえとアオイは訴えた。

 黒髪の少年――イオリはその言葉に目を見開いた。

 心当たりがあったのだ。彼の姉は身体が弱かったが、欠員補充のために強制的に兵士として駆り出され、死んだ。

 欠員の理由をイオリは知らない。だが、それがアオイのような強者が舞台を降りたからだったとしたら――自分が降りることで、後輩たちに同じ悲劇をもたらしてしまう可能性が生まれてしまうのだ。


「……月居、早乙女。俺は、俺は……っ」

「な、七瀬くん。い、いいんだよ、今、気づけたのなら……」


 見せられた真実に足が竦んでも、戦わなければ弱い者が死んでいくだけだということを、今更思い出した。

 肩を震わせて罪の意識に駆られるイオリに優しく微笑みかけ、カナタは言う。

 シバマルやリサもはっとしたように顔を見合わせ、イタルやヨリは逃げようとしていた自分を恥じるように俯いた。

 実際の戦場で敵前逃亡してしまう前に過ちに気づけたのなら、それは罪には入らないのだとレイやユイは思う。気づきは立派な成長だ。自分が弱者側でも強者側でも、同じことだ。

 アオイはA組の生徒たち全員とナギを順に見つめ、胸に手を当てて静かに話を再開する。


「僕のような者が偉そうに言うなという批判は、受けよう。この話が終わった後、好きに罵倒してくれて構わない。それに対して僕は何も反論しないし、何も訴えない。

 ――ただ、再び立ち上がれるチャンスは生きていればいつだって巡ってくるのだと、それだけは知っていてほしいんだ。僕が過ちを認め、『レジスタンス』に戻っていくように――君たちの中にももう一度、戦場に舞い戻る者がいると、僕は信じているよ」

 

 彼を詰(なじ)るものはどこにもいやしなかった。

 己の過ちを知り、他人のためにやり直そうとしている彼を責める言葉は、この場の誰も持ち合わせていなかった。

 アオイの声は確かに生徒たちの胸の奥まで届いたのだ。わざわざ見届けなくとも、明日の試験では生徒たちの多くがまた戦場に立ってくれると彼は確信できた。

 

「湊先生――ううん、アオイ先輩。【ガギエル】の操縦席、先輩が戻るまでにピッカピカに磨いときますから!」

「ああ。楽しみにしてる」


 先輩の真意を知って破顔するナギ。

 彼に久々の笑みを向けたアオイは夕空を仰ぐ。

 空には雲ひとつなく、風も凪いでいた。 



 かこーん。

 なんていう鹿威(ししおど)しの音が響く露天風呂に浸かっているのは、アオイやナギの補習を終えて遅い時間に帰ってきたA組の女子生徒たちだ。

 学生寮と教師寮との間に位置する大浴場は、日々の生徒や教員の疲れを癒す憩いの場である。露天風呂のみならず、水風呂、電気風呂、打たせ湯、座風呂、ジェット風呂、薬湯……と充実した設備は、噂によると文部科学相の瀬那マサオミ氏のこだわりによって作られたものらしい。


「アンタのお父様には感謝してもしきれないねー」とすっかり脱力した様子のカオルが言い、マナカは苦笑いを返した。

 自分の手柄でもないのに褒められるのはやはり慣れない。

 お湯の中で膝を抱えて俯くマナカだったが――知っている声に名を呼ばれ、顔を上げた。


「やっほーっ、マナカちゃん! 随分とお疲れのようね」

 

 身体を隠すタオル越しでも分かるプロポーションのいい身体に、はち切れんばかりの豊満な胸。

 長い黒髪を頭の上でお団子にした長身の彼女の美貌は、同性の少女たちさえも惹きつけるほどの強烈な魅力を放っていた。

 控えめに水音を立てながら隣に腰を下ろしてきた女性の、細身ながらも引き締まった腕を横目に、自分のそれと比べてマナカは溜め息を吐いてしまう。


「ほら、マナカちゃん、リラックスして。風呂は命の洗濯よ♪」

「洗濯、ですか?」

「ええ。しんどいことを全部洗い流すの。そう思うことで少しは楽になるかもしれないわよ」


 不破ミユキ。マナカとつい先日知り合った、二年生の少女だ。

 眼鏡をかけていない彼女の印象は、普段とはまるで違う。どこか野性味を感じさせる大きな切れ長の目は、側にいるだけで胸を奇妙にざわつかせるような魅力があった。


「わぁ、かっこいい人……!」

「マナカさん、知り合い?」

「う、うん。二年B組の不破ミユキさんっていう人」


 恍惚とした表情で遠目からミユキを見つめる真壁ヨリと、それに対して落ち着き払った顔を崩さない冬萌ユキエ。

 マナカたちよりも先に風呂に入っていた彼女らの頬はほんのりと上気しており――それを見たミユキの目がきらりと光る。

 

「いやー、眼福眼福。一年A組が美少女揃いだって噂、ホントだったのねー。あたしの好みは、そこの黒髪ロングの子かなー」

「あ、あのミユキさん……もしかしてミユキさんって、女の子が好きな感じなんですか?」

「んー、まぁねー。といっても、今まで付き合った女性はたった一人なんだけど」


 驚いて訊ねるマナカに何てことないような口調でミユキは答える。 

 歌劇団の男役さながらのクールなオーラを纏うミユキに興味津々の少女たちは、次々に質問を浴びせかけた。


「一人だけって、もしかして一途に想い続けてたりするんですか!?」

「どんな人なんですかー?」

「やっぱ女同士だと、趣味とかも合いやすかったりするんですか?」

「も、もしよかったらなんですけど……その、出会いとか、どんな感じだったか知りたいです」


 寮のフロアは男女別で、夜間の行き来は禁止されている。そのために異性との出会いに飢えている少女たちは、餌を撒かれた魚のように恋バナに食いついた。

 質問の弾幕にさすがのミユキもあたふたする中、カオルは彼女らを遠巻きに眺めて苦笑する。


「皆おこちゃまねぇ~。アタシみたいに、皆も男食っちゃえばいいのに。せっかく綺麗な顔してるんだから」

「か、カオルちゃんっ……く、食うだなんて、そんなの……」


 途端に顔を真っ赤にしたのはヨリだ。彼女はカオルやカツミと『ラボ』で己に合った武器を作る際、彼女らとの仲を深めていた。

 

「親切なカオルちゃんが、初心(うぶ)なヨリちゃんに男の誘い方教えてあげる! ふふ、男の子は大体おっぱいが好きだから、こうして身体を寄せて……」

「ひゃっ、か、カオルちゃん!?」

「手を取って、ゆっくりと自分の胸まで導くの」

「はわっ、だ、ダメだよカオルちゃん、こんなところで、そんなことぉ……!?」

「耳元で甘く囁くの。アタシといいコトしない? って。相手が乗ってきたら、こうやって触って――」

「やっ、ホントにダメっ……へ、変なとこ触らないでぇっ!?」


 十六歳の少女とは思えないアダルティックな雰囲気を纏うカオルに、ヨリはいいように弄ばれてしまう。

 初心なヨリに教えるには少々早すぎる内容だった、とカオルが気づくのは、もう数分先の話である。



 一方、男湯では。

 度々聞こえてくるヨリの嬌声に年頃の男子たちが興奮の真っ只中にある中、シバマルは仏頂面でいるカツミに話しかけていた。


「なぁ『かっちゃん』。お前の彼女、女の子にも手出してるぞ」

「おい駄犬、その渾名どこで知りやがった?」

「え? 今おれが付けたんだけど。もしかして、先に誰かに命名されてた感じ?」

「んなわけねぇだろ」

「いやいや、どこで知りやがったとか確実に訊いてたよな? おれの耳は誤魔化せないぞ! あっ、もしかしてお姉さ――」


 バシャンッ! と少年一人がお湯の中に沈められる。

 それを見てシバマルの友人グループが大爆笑する中、露天風呂の隅っこで肩まで浸かっているレイは溜め息を吐いた。


「下手すれば大怪我を負いかねないというのに……毒島くんも笑ってる連中も馬鹿ばっかじゃないですか」


 ずぶ濡れの髪の毛を犬のようにブルブルと振るって上がってきたシバマル。

 無事なら良かったですが、とレイは胸を撫で下ろす。


「あ、危ない行為は咎めるべきだけど……み、皆にはしゃげる元気があるのは喜ぶべきじゃないかな。み、湊先生の言葉が届いて、彼らも前を向けるようになった証拠だよ」

「……ですね。この調子なら、明日の試験も乗り越えられます。――皆で、必ず」


 長い金髪を頭の上で括っている少年の隣にいるのは、目を弓なりに細めるカナタだ。

 これまで殆ど訓練を休まなかったカナタは、ここでその疲れを一気に癒そうとしているように、完全に脱力しきっている。口調も普段より柔らかい感じだ。

 放っておけばのぼせるのも構わずその場で眠ってしまうのではないか……相棒を見ているとそんな心配が首をもたげるが、まあレイが付いていれば大丈夫だろう。

 カナタの言葉に期待を込めて頷くレイは、そこでガラガラと扉を開ける音と共に掛けられた声に振り返った。


「あ……早乙女、月居、お前らも来てたのか。珍しいな」


 腰にタオルを巻いてこちらに来るイオリに、「ええ」とレイは応じる。

 カナタもレイもいつもは部屋のバスルームで入浴を済ませているので、この温泉を利用したことはなかったのだ。

 それは単に混み合う浴場にわざわざ足を運びたくないという理由だったが――レイの場合見た目が女性的なので自衛の意味もある――、こんなに癒されるなら早いうちに来ておけば良かったと今更ながら彼らは惜しむ。


「ってか、お前らの部屋バスルーム付いてんのか。どうりで大浴場で見かけないわけだよ。見かけなさすぎて、早乙女だけじゃなくて月居までも実は女子説が流れてたくらいだぞ」

「な、なにその説……。って、あれっ、な、七瀬くんたちの所はお風呂ないの?」

「俺らんとこはないし、他の奴からも聞いたことないな。流石は司令と早乙女博士のご子息、VIP待遇だな」

「あ……な、なんかごめん……」

「いいんだよ、気にしなくて。俺らはお前らが特別扱いされるほどの実力者だって分かってる。今更嫉妬なんてしないさ」

 

『フラウロス』戦終了後、最も心に深い傷を負っていたのはイオリだった。

 母親を除いて家族全員を【異形】に殺された彼からしたら、『フラウロス』が見せた真実は決して直視できない過酷なものであったはずだ。自分も同じように散ってしまうという恐怖も、人一倍感じたに違いない。

 だが、今は憑き物が落ちたように明るい顔でいる。アオイの言葉を胸中で咀嚼して、反芻し、彼もまた覚悟を得たのだろう。

 カナタとレイの斜め前に座ったイオリは、手で透明なお湯をすくって溢れゆくそれを見つめた。


「俺たちの命は、水みたいに簡単にすり抜けてなくなっていくものなのかもしれない。でも……それを怖がって逃げちゃダメだよな。お袋を守りたくて『学園』に入った初志、今になって思い出したよ」


 もう4ヶ月ほど前になる入学時に思いを馳せ、凛とした表情でイオリは空を仰いだ。

 スクリーンが映し出す満天の星を見据え、黒髪の少年は裸の左胸をぐっと掴んで言う。


「この心臓が動く限り、俺は戦う。大切な人を死なせないために、仲間を守るために。……お前たちに任せっきりにするのも、忍びないしな」

「ふふっ、肩代わりして弱音を吐かないでくださいね。今なら言わなかったことにしてあげてもいいですよ」

「バカ言え、俺は本気だぞ。お前たちに嘘なんてつくもんか」


 冗談めかすレイに、真剣な口調で言い返すイオリ。

 それで彼の決意の強さを確かめたレイは、彼の肩に手を置いて告げた。


「君が望むなら放課後にでもSAMの訓練に付き合ってやっても構いません。……では、ボクはこれで」


 風呂を上がり、腰にタオルを巻き直したレイの背中を見送りながら「ありがとう」とイオリは呟く。


「あいつ、昨夜俺のところに来たんだよ。月居だけじゃ訓練に来なかった男子全員を回れないだろうからって、一人でな。俺、あいつに助けられてばかりだよ」

「れ、レイが? ……い、言ってくれれば良かったのに……」

「あはは。あいつ、そーいう奴だからなぁ」


 一頻り笑ったあと、本人が聞いたら頬を膨らせて怒るんだろうなとイオリはぼうっと考えた。

 女湯との仕切りにぎりぎりまで近づいて向こうからの声を聞こうとしている邪な男子たち――ちなみにヨリへのカオルの悪戯はもう終わっている――を遠目に眺め、二人は肩を揺らして笑った。



 ユイに誘われて二人で水風呂に入ったマナカは、露天風呂でのぼせかけた頭がすっと冴えていくのを感じていた。

 やはり、前よりも感覚が過敏になっているのは確実だ。

 色々なものを試した。五感、直感、さらには性的な快感まで――あらゆる感度が上がっている。

『コア』との同化現象は彼女自身が思っているよりも早く進行しているらしい。残された時間は果たしてあとどれくらいなのか――2ヶ月か、1ヶ月か、はたまた一週間にも満たないか。

 それは彼女にさえも、分からない。


「マナカさん、カナタさんのこと、好きですか?」


 他の女子たちが軒並み露天風呂に出て、マナカとユイは二人きりだ。

 演出された状況の中、マナカはその問いに素直に答える。


「うん。彼のことが、異性として好きなの。仕切りを挟んで隣に裸の彼がいると思うと……私、いけないことばっかり考えちゃったりする」

「心でなく、身体の繋がり求めてしまうのは、コアの影響?」

「そうかもね。彼と手を繋ぎたい、キスしたい、その先の行為だって、したい。でも私、怖いの。今度の日曜、カナタくんとデートの約束したんだけど……その時に自制心を保ちきれるか分からなくて……」


 浴槽の縁に腰を下ろして細い生足を組むユイは、不安をあらわにする友の暗い瞳を見つめた。

 戦いたいというマナカを止める権利は、ユイにはない。戦うかどうかは、当人の意思を尊重すべきだ。

 自分の心が『コア』に蝕まれ、いつしか消えるのをマナカが受け入れるなら――ユイは相応の支援をしたいと思っている。

 最後の瞬間まで悔いのないように戦い、仲間の側で笑顔を絶やさずにいられるよう、力を尽くすつもりだ。祖国で散った仲間に対しても彼女はそうしてきた。それは今後も変わらない。

 一度(ひとたび)戦場に出れば、次は誰と死別するか分からない。だから、一日一日を自分たちに与えられた祝福だと思って過ごすのだ。


「マナカさん……カナタさんに、自分の思い、きちんと伝えてください。誰かと精神的に近いところいれば、それだけその人への執着湧きます。そうなれば、心の抵抗力は増すでしょう。少しでも気持ちを強く持ち、精神を安定させれば……『コア』に完全に飲み込まれるまでの猶予を、伸ばせます」


 戦場でもそうだった。心が不安定な兵士は例外なく殆どが死んだ。

 カナタの側にいたいなら、彼の側に居続けろ――変な言い方かもしれないが、マナカの心を守るにはそれが最善の方法なのだとユイは言う。


「そう、だよね……観覧車で彼に告白しそこねてから、私、臆病になってた。恋愛なんて全く興味なさそうなロボットオタクに振り向いてもらえるのか、って……彼と仲よさげにしてる早乙女くんを見ていると、彼には女の子より意気投合できる仲間のほうが大事なんじゃないかって、思えて仕方なかった。だけど……それも当然なんだよね。ちゃんと言わなきゃ、伝えたいことも伝わらないんだもんね」


 思いが成就しなかった時のことを思うと、行動に移せなかった。なあなあの関係でも、近くにいられるだけで十分だと妥協していた。

 それでも、欲求は日に日に高まっていた。彼の部屋でピアノを引いた時に見た爽やかな笑顔、鍵盤の上を軽やかに踊る白い指、同じ椅子に掛けて感じた彼のシャンプーの匂い――思い出すだけで、胸がドキドキした。

 

「――ね、ユイちゃん。私、決めたよ」


 深呼吸し、浴場のタイル張りの床を踏む足の感触を確かめる。自分はここに立っている――それを強く意識し、自分がまだここにいるのだと『コア』に示すように、彼女は告げた。


「明日の試験に勝ったら、カナタくんに告白する」

「……もし、負けてしまったら?」


 それは果たして逃げ道か。

 答えは、否。なぜならば――。


「私、負けるつもりなんてないよ」

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