第87話 梓伊月は○○された

 俺には小学校低学年の頃から中学2年生までよく時間を共にした女子がいた。


 その女子が新垣紅葉あらがきくれは


 互いに苗字が『あ』で始まることから、席が近くになることが多かった。


「教科書忘れちゃったんだけど、見せてくれる?」


「ん?あ、ああ。いいぞ」


 これが俺と新垣の初会話だった。


 この邂逅をきっかけに昔の俺は友達に囲まれるようになった。


 その中でも新垣は本当に俺の傍にいつもいたのだ。


 あるときは――




「給食にピーマン入ってるよぉ~。梓~」


「しょうがないなぁ~。ほら、こっちの皿に移しとけ」


「わ~ありがとー」


 あるときは――




「もうすぐ中間テストかー。梓すごい頭いいから教えてよ」


「新垣は解答を写したいだけだろ?」


「ちーがーうーかーらー。今度は本気の本気でちゃんとやるから。ねっ?」


「はぁー。わかったよ。ほら」


「ありがとー。梓ってほんと優しいね」


 あるときは――




「梓ーカラオケ行こー」


「あーいいけど。誰誘うんだ?いつもの吉川たちあたりか?」


「違うよ」


「は?じゃあ誰だよ」


「私と梓の二人で行くんだよ」


「え?二人で?」


「なーにー?意識してんの?」


「ち、ちげえよ。そういうお前こそどうなんだよ」


「さあー。どうだろうね」


「おい。ぼかすな」


「はいはい。そんなのどうでもいいから早く行こーよ。歌いまくりたいんだよねー」


「あ、ちょ。待てって」




 新垣は幼馴染、というわけではない。


 クラスがたまたま一緒になることが多く、彼女がクラスの中心人物であり、その彼女が俺を巻き込んでくるので、自然と俺の周りにも人が集まる。


 加えて、俺は要領が良かったのか、筆記テストでは100点以外を取ったことがなかった。ゆえに神童と呼ばれることも多く、それがきっかけで人が寄ってくるということもしばしばあった。


 新垣は当時、特に中学ではいわゆるスクールカースト上位の人間だった。(私立荘戒高等学校のような制度化されたものではなく、俗世間的に言われる漠然としたカーストのこと)


 そのおこぼれで俺も中学時代は上位層にいたのだ。


 上位とか下位とかあまり好きではなかったが、俺の意志なんて関係なしと言った感じで、勝手にカーストが形成されていた。上位層と言われる人たちも、カーストを作りたくてつくったわけではない。


 自分たちが楽しめる環境、人を集めて、それを維持しようと必死になっていたらできたのだ。


 当時の俺は抗えなかった。


 常に嫌われないように気を張って。顔色窺って。空気読みまくって。空気を吸ってる心地なんてしなかった。息が詰まる思いだった。


 そうやってどこの学校でも起こってそうなカーストでの駆け引きに四苦八苦していた頃。


 が起こった。




「梓。私、梓がずっと好きでした。付き合ってください!」


 新垣から告白された。


 放課後の教室での出来事だった。


 正直、告白されるまでは新垣に対して恋愛感情はなかった。仲の良い友達くらい。


 ただ、男子は……いや俺は単純で。


 新垣が俺のことをそういう目で見ていたと気づくと、釣られて俺も意識してしまったのだ。


「え、えと……」


 俺は口ごもった。目も泳ぎまくってたと思う。


 必死に言葉を探す。何を言えばいい?


 告白なんて自分からする想像だってしたことがなかった。


 そのくらいまだ恋愛に興味がなくて。だからよくわからなかった。


 よくわからなかったから俺はできるだけ丁寧に。


 俺の気持ちに正直に言った。


「新垣」


「何?」


「正直、俺は新垣のこと今までそういう目で見てなかった」


「……」


「で、でもだ!俺は、その……新垣となら……つ、付き合うっていうのもありだなって思うからさ……」


「ほ、ほんとに!?」


「あ、ああ。だからその……こちらこそ……よろしくな」


 俺は意を決して新垣からの告白を了承した。


「じゃ、じゃあ私、ちょっと今日は行くとこあるから、またね」


「え?お、おう。またな」


 一人で帰るのか。


 付き合うってなったらてっきり一緒に帰るものかと。


 まあ、俺と新垣の仲だしな。


 新垣は足取り軽く教室を後にした。


 そして俺もすぐに帰る支度をして下駄箱まで足を運ぶが。


「あ。体操服持って帰るの忘れた」


 そう思い、俺は一度来た道を戻る。


 つまり、さっきいた教室に戻ってきたわけだが。


 教室のドアを開ける直前。


 俺がドアに手をかけた時に気づいた。


 教室の中で誰か複数の笑い声が聞こえてきたのだ。




~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~


 こんな中途半端に終わってしまい申し訳ないです。

 この先の展開、というよりは表現方法にまだ納得いかなくて。

 更新をお待たせしていましたので、前後編に分けて先に投稿させていただきました。

 できるだけ次話を更新します。


 それともう一つ。


 実は『暗殺対象のカノジョが可愛すぎて殺せない~殺そうとしても学校一の美少女はデレるし、世話好きだし、たまに「えっち」だから失敗する~』という新作を投稿させていただきました。→https://kakuyomu.jp/works/1177354054922055741


 興味が湧けば、『クーデレお嬢様』の更新まで読んで暇つぶししていただくのも悪くないかもしれません。


 ではこれからも『クーデレお嬢様』を宜しくお願いいたします。

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