第68話 神楽坂小夜はヘタれる

【まえがき】


 第68、69話(特に後者)は『ワンナイト人狼』というゲームを主軸に進んでいきます。


 作中で役職などの説明は入れますし、一般的な『人狼ゲーム』のルールを理解していれば、十分楽しめるとは思いますが、それでも話が分かるかどうか不安という方は事前にワンナイト人狼のルールを確認していただくことをお勧めします。ご了承ください。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~〜〜



「梓くん、まさか私に嘘をついているのではないですか?」


「いやいや。俺は無実だから。ていうか俺は風見が怪しいと思うんだが」


「おいおい親友よ何を言うか。俺を疑うならまずは暗根さんの正体を見破るべきだろ」


「私は先ほどから申し上げているように、ただの占い師であり、それ以上でもそれ以下でもありません」


 俺と風見と神楽坂と彼女のメイドは文芸部の部室で、『ワンナイト人狼』に興じていた。


 なぜこうなったかを説明するには、少々時間を遡る必要がある。


 それはほんの数十分前のこと――




「あの……梓くん。部活って興味ありますか?」


「部活?いや、俺一人暮らしでやることあるし、時間的制限が多い部活はちょっと……」


 放課後の教室で帰り支度を済ませていた俺に神楽坂がそう話しかけてきた。


「文芸部なら運動部や他の文化部よりも拘束時間は少ないです。というか自分の好きなタイミングに行って好きなタイミングで帰宅できるので、暇つぶしには丁度良いかと」


「それって部活なのか?」


 あまりのフリーダム加減に、思わず訊き返した俺。


「はい。3年の先輩方も少数ですが所属していますよ」


「へー。その先輩方はいつも何しているんだ?」


「それは把握していません。しばらく部室にいらっしゃらないので」


「部活とはなんぞや……」


 どうやら、神楽坂以外のメンツは帰宅したいタイミングが放課後すぐらしく、おおよそ部活として機能していないようだ。


 まあ部活動特有の束縛がないのなら、文芸部に身を置くくらいはしておいてもいいかもな。


 それに先輩方が一切いないということは、俺と神楽坂が二人きりになれる絶好のチャンスだ。


 気をよくした俺は、さらに情報を集めるべく、神楽坂に質問を重ねた。


「ちょっと訊きたいんだが。文芸部って俺らと同学年の奴も他にいるのか?」


「いえ、1年は私しかいません」


 よっしゃあ!これで俺と神楽坂しかいないことが確定した。これなら俺が文芸部への入部を断る理由がない。


 我ながらがっつきすぎだとは自覚しているから、強い野心がバレないように必死に気持ちを抑えながら、言った。


「じゃあ、文芸部は俺と神楽坂の二人だけか……」


「ふ、二人きり!?そ、そう、そうなりますね……ごめんなさい……」


「い、いや謝らなくていいよ!むしろ俺は二人の方が……っじゃなくて!い、今のは別に他意はなくて」


「あ、あの!やっぱり二人は私が緊張……じゃなかった。梓くんに悪いので、他の人も誘うつもりだったのですよ」


「他の人!?」


「ええ。ねえ、風見君、今の話聞こえてましたよね?どうです!?文芸部!?」


「え!?今の流れで俺に話が来るの!?」


 急に話を振られた風見が不意を突かれて驚いていた。


 断れ!風見断ってくれ!お前ならわかるだろ!


 風見は遠慮がちに言った。


「いやぁ梓たちの邪魔するわけにもいかんし、俺はやめとく――」


「そんなこと言わずに!!ぜひ今日は文芸部の部室に遊びに来てください!これは確定事項です!」


「マジですか、神楽坂さん……」


(俺には神楽坂さんの勢いを止めることができなかった、すまん)と小声で俺に耳打ちして詫びを入れる風見。


 いや、風見は悪くない。よく頑張ってくれたと感謝を述べておいた。


 でも、やっぱ神楽坂は俺と二人きりは嫌なのかな~。多分文芸部に誘ったのもただの数合わせとかそんなんだろうな。


 期待しすぎるなという神様からの忠告なのかもしれん。これからは浮かれるのもほどほどにしておこう。


 がっつきすぎて嫌われるのだけは避けたい。


 顔には出さないよう努めながら、内心がっくりと気分を落としていると、神楽坂はほうと安心したかのような息を吐いてから、廊下側の方向を向き、手招きした。


「暗根!ちょっとこっちに来なさい」


「なんですか、小夜様」


 彼女に呼ばれたメイドは眠たげな目を面倒くさそうに瞬きさせながら、近づいてきた。


「暗根も今から文芸部の部室に来なさい」


「何怖気づいているんですか。さっさと誘って二人きりになるんじゃ――もごっ」


「ん?何してるんだお前ら」


「いえ、いつものことなので気にしないでください」


「いつものことなのか」


 神楽坂が暗根の口を塞いでいる所を見た俺は、この二人意外と密なスキンシップをとるんだなと、微笑ましい気持ちになった。


 暗根が何を言おうとしたのか、若干気になってはいるが。


 そういうわけで、俺たち4人は放課後、文芸部の部室にお邪魔することになった。




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文字数が多くなったので、前後編に分けましたが、さすがにこの話だけですと読者の皆様は消化不良だと思いますので、もう1話は今日中に投稿できるよう頑張ります。

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